元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「パリ20区、僕たちのクラス」

2010-10-09 06:49:40 | 映画の感想(は行)

 (原題:Entre les murs)とにかく面白い。パリ市内にある公立中学校のクラスの描写が実社会の数々の問題とリンクしてゆく様子は、映画的興趣に溢れている。題材は地味ながら、第61のカンヌ国際映画祭で大賞を獲得しただけあって、ヴォルテージはかなり高い。

 主人公は2年生のクラスを担当する国語教師だが、演じているのはこの作品の原作者でもあるフランソワ・ベゴドーだ。彼は実際に中学校で国語教員として教壇に立ったことがあるという。しかし劇映画の出演経験はないらしく、ここでは“彼自身”を演じていると言っても良いだろう。それ以外のキャストも全員素人で、映画の中では“本名”で登場する。

 明らかにこれはイランのアッバス・キアロスタミ監督あたりが得意とする“ドラマとドキュメンタリーとの融合”であるが、方向性は異なる。キアロスタミがドキュメンタリー環境の中で作者がテーマを振ることにより偶発的なドラマを喚起させるのに対し、本作の監督ローラン・カンテが狙うのはドキュメンタリー手法によるドラマの積み上げである。これはよほど脚本を練り上げないと話がウソっぽくなってしまうが、カンテとベゴドーによるシナリオは堅牢そのもので、ケチの付けようがない。

 人種も境遇も異なる生徒達に、文法の基礎から教え込む教師の苦労は並大抵のものではない。何しろ十分にフランス語を話せない者もいるほどだ。親との三者面談でも、親にはフランス語は全く通じないケースだってある。通訳を担当する生徒だって、マジメに訳しているのかどうかも分からない。

 一つずつ積み木を積むように生徒達を導き、何とかクラスのまとまりが見えてきたかと思ったら、またしてもトラブルが起きて最初からやり直し。言うことをなかなか聞かない多彩すぎる生徒達の有り様は、もちろん移民問題などフランスの抱える社会問題の暗喩だ。

 ただし教師は逃げることはできない。たとえ徒労に終わろうとも、徒手空拳で状況に立ち向かうだけである。この開き直りとも言える作者の切迫したスタンスは、あくまでもポジティヴな希望を持ちたいという、逆境に対する宣戦布告だろう。学校から一歩も外に出ることはないカメラも、作者の決意の強さを表している。

 退学も有り得るフランスの学校のシステム、生徒代表が参加しての職員会議、せわしない教室の様子や極端に狭い校庭など、いろいろと興味深いモチーフが満載で、それだけでも観る価値はある。それにしてもラストの痛烈なこと。つくづく教師というのはストレスの多い職業である(私なんかには務まらない ^^;)。
コメント
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