元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「男人四十」

2010-10-23 06:28:16 | 映画の感想(た行)
 (原題:男人四十)2002年香港作品。主演はジャッキー・チュン(張學友)で、いわゆる“香港四天王”の一人である彼も、この映画あたりから中年の役を演じるようになった。しかも本作での役どころは平凡な高校教師。地味な題材だが、アン・ホイ監督作としても最良の出来と評したい。

 マジメに生きている高校の国語教師のある7月の出来事を淡々と描く。ストーリーの“全貌”が明らかになるまで相当時間がかかるのは、脚本にいくぶん冗長な点があるからだろう。しかし、緊張感あふれる映像と濃密なディテールが観客の目を画面に釘付けにする。

 冒頭の、夕暮れの浜辺に佇む登場人物を逆光で捉えた美しいショットから始まり、狭いアパートに家族四人が汲々として暮らすしがない教員生活や、生徒にナメられっぱなしの授業風景などの主人公の卑屈さをリアルに引き出している部分と、家族に対する責任感や、中国文学に対する深い素養を披露する場面との描写の配分が絶妙で、まさに等身大の主人公像の造形に成功している。

 だから、その後に語られる妻の過去に関する因縁話(考えれば、けっこう唐突なエピソードだ)に全く違和感がない。演出上特筆すべきは頻繁に挿入される李白などの詩とその舞台になる中国奥地の風景で、世俗のしがらみに悩みながらも高い精神性を忘れない主人公たちの象徴であると同時に、彼等をポジティヴに捉えた作者のスタンスが感じられる。

 ジャッキー・チュン好演だが、心に重荷を抱えたまま生きてきた妻に扮するアニタ・ムイが素晴らしい。主人公を振り回す女子高生を演じたカリーナ・ラムの存在感もなかなかだ。

 なお、私はこの映画を2002年のアジアフォーカス福岡映画祭で観たが、その時に舞台挨拶に来ていたカリーナ・ラムにサインをもらって握手した。香港の女優といえばモデル体型のゴージャス系を思い起こさせるけど、彼女は全体のサイズも雰囲気も日本のアイドルと変わらない。とはいっても受け答えもなどもシッカリしていて、そこらへんの若いタレントとは明らかに違う。なかなか好感度が高いが、出演作があまり日本で公開されないのは実に残念だ。
コメント
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