元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「おにいちゃんのハナビ」

2010-10-18 06:32:07 | 映画の感想(あ行)

 とても感動的な映画で、観賞後の満足感も高い。通俗的に言えば本作は“難病もの”である。しかしこの手の映画にありがちな、ワザとらしい展開やこれ見よがしの“泣かせ”の演出などはほとんどない。それは映画の焦点が“去りゆく者への哀惜の念”ではなく“これから生きる者へのメッセージ”であるからだ。

 舞台は新潟県の小千谷市片貝町。都会から越してきた一家の高校生の娘は白血病に冒されていた。彼女が半年間の病院生活を経てやっと家に戻ると、兄は高校を出て進学も就職もせずに引きこもりになっていた。両親は彼女を心配させまいと、入院中は兄のことを伏せていたのだ。元より快活な性格の妹は、そんな兄を励まそうとする。

 難病を患う者が目一杯元気であり、健康であるはずの人間が死んだような生活を送っているという、この逆転の構図が面白い。本作のタイトルは「おにいちゃんのハナビ」であり、決して「妹の花火」ではない。通常のお涙頂戴映画ならば、死の床にある妹にキレイな花火を見せるシーンをクライマックスに持ってきて“泣かせ”に走るところだが、彼女は中盤を過ぎたあたりで再入院し、あっけなく退場してしまう。打ち上がる花火は、文字通り精神的な落ち込みから再起する兄のためにあるのだ。

 片貝町で毎年9月に行われる祭において、町民たちが打ち上げる花火は冠婚葬祭のシンボルになっている。このモチーフを取り入れたことが勝因で、終盤の花火は去っていった妹の供養であると同時に、これから長い人生を歩む兄の門出を祝するものである。また、生きている者は死んだ者達のかつての存在感によって“生かされている”ということを、雄弁に語るものだ。この透徹した作者の人生観には共感出来る。

 主役の高良健吾と谷村美月は好演。彼らが扮する兄妹の関係性を見ているだけで泣けてしまう。宮崎美子や大杉漣らの脇のキャストも万全だ。監督はこれが劇場用映画デビュー作となる国本雅広だが、実話だという題材に過度に寄りかからずに丁寧に仕上げている。

 ただし、劇中に出てくる青年団(みたいなもの)の扱いには違和感が残った。何をやっている団体なのかは一応説明されるのだが、あまり大した活動をしているようには見えない(単なる仲良し会みたいだ)。逆に言えば、それを除けば破綻のない映画ということでもある。誰にでも奨められる佳篇であることは間違いない。
コメント
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