元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「禁断の扉」

2010-10-02 06:42:30 | 映画の感想(か行)
 (英題:The Forbidden Door)アジアフォーカス福岡国際映画祭2010出品作品。これは面白い、インドネシア産のホラー映画だ。ネタの振り方といい、掟破りスレスレのあざとい展開といい、この手の映画としては欧米製の出来の良い作品と比肩できるレベルに仕上がっている。

 主人公は売れっ子の若手彫刻家。中でも妊婦をテーマにした作品群は評判が良く、美術品ブローカーからの信頼も厚い。ところが彼は、作品に“迫力”を付けるために、妊婦像の腹の部分に嬰児の遺体を埋め込むという外道なことをやる異常者だった。彼の妻は建築家で、二人は彼女が設計した新居で生活を始めるが、そこには妻から“決して入ってはいけない”と厳命された開かずの部屋がある。



 しばらくすると玄関の前や町の掲示板に“助けて”というメッセージが書き込まれるようになり、彼の親友が足繁く通う秘密クラブのテレビには両親から痛めつけられる少年の映像が流される。

 まるで互いに関係のないようなモチーフが平行して描かれるが、これは明らかにデイヴィッド・リンチあたりの影響を受けたようなプロットの積み上げ方である。ただし、本作はリンチの諸作のようにドラマを空中分解させたまま放り出すようなことはしない(まあ、リンチの場合はそれでサマにはなっているのだが ^^;)。これら禍々しいイメージの数々は、ラスト近くでひとつに収束していく。

 当然それだけでは終わらずに最後にはオチがあるのだが、勘の良い観客ならばそれは読める。しかし“読めるオチ”でありながら全体的に見応えがあるのは、各エピソードの粘着度が強いからだ。主人公が体験する不条理な出来事は、そのまま実社会の問題を照射したような切迫感がある。



 それは貧富の差であったり、世の中を覆う人間不信だったりするのだが、最もインパクトがあるのは児童虐待である。このシーンは怖い。狂ったように奇声を発しながら子供を打擲する母親の姿は、人間の基本的コミュニケーションが音を立てて崩壊していく様子を目の当たりにするようで、身の毛がよだつようだ。これに比べれば、終盤展開される血みどろのスプラッタ・シーンなど大したことはない。

 監督はジョコ・アンワルなる人物だが、演出テンポが良く弛緩した部分はない。主演のファクリ・アルバルとマルシャ・ティモシィはなかなかルックスが良く、陰惨な部分の“緩衝材”みたいになっていると言えよう。エンドクレジット途中での“エピローグ”の挿入も気が利いている。どうしてこういう血の量が多いシャシンが自治体主催の映画祭で上映されるのかよく分からないが(笑)、密度の濃い恐怖譚であることは確かだ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする