元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「のんちゃんのり弁」

2009-10-11 06:55:55 | 映画の感想(な行)

 ヒロインに感情移入が出来ない。主人公はロクでもない男と“衝動的に”結婚し、子供が出来て数年経った後に嫌気がさして家を出るのだが、これまた離婚や慰謝料のことも考えない“衝動的な”行動である。つまりは思慮が浅いのだ。

 ひとまず実家に帰ってはみるものの、彼女はそれまで仕事に就いたことはなく、当然スキルも何もない。就職活動は空振りで、友人から紹介された水商売も一日でクビだ。それでいながら“自分には何かできることがある!”という根拠のないプライドだけは持っているという、何とも付き合いきれない女だ。

 愚かな人間を冷徹に見つめて映画的興趣を醸し出すという手法もあるのだが、作者はそこまで思い切りが良くない。何と、彼女には料理の才能があったのだ・・・・といった、御都合主義的なモチーフを大々的に挿入してしまう。以降、映画はこの“料理が得意”という一点のみで主人公のキャラクターを正当化し、無理なドラマ運びも力ずくで押し切ろうとする。これじゃダメだろう。

 別に彼女は結婚生活において経済的に困窮していたわけではなく、ダンナも暴力をなんか振るっていない。それどころか幼い娘は父親に懐いている。夫が成長しないのならば、自分が精進して何とかすればいい。何もかも放り出してアテもなく家出するなんてのは愚の骨頂だ。

 彼女の性格もそれを反映しているかのように、かなりエキセントリック。気が短く自分勝手で他人のことを思い遣らない。加えて粗暴(笑)。そしてこの傾向は映画の最後まで変わることはない。いったい、作者は何を言いたかったのだろうか。一つぐらい手に職を持てという処世術か。パワーとやる気さえあれば何とかなるという無責任な心情論か。いずれにしても“語るに落ちる”ような図式だ。

 主役の小西真奈美は熱演だが、この役は彼女には合っていない。監督の緒方明は演技の求め方を間違えている。

 ただ、ひとつだけ評価したいのは、出てくる料理が実に美味しそうである点だ。ヒロインの作るのり弁の凝った構造に感心していると、岸部一徳扮する居酒屋の主人が作る料理の数々が目を楽しませてくれる。最近の邦画では「南極料理人」と並ぶメニューの充実ぶりだ。それを目当てにすれば、作劇の不手際も何とか我慢が出来る・・・・わけもないが(笑)、観賞後はのり弁が食べたくなるのは確かである。
コメント
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