元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「セブンデイズ」

2009-10-05 06:31:45 | 映画の感想(さ行)

 (英題:Seven Days)少々荒っぽい作りだが、重大なテーマを内包している点は評価して良い。韓国の法曹界で“勝率が限りなく100%に近い”と言われる凄腕の女弁護士の幼い娘が誘拐されてしまう。犯人は“翌週行われる凶悪事件の裁判で、死刑が確実視される被告を無罪にしろ!”という理不尽な要求を突きつける。もしも有罪になってしまえば娘の命はない。映画は判決が下されるまでの7日間をサスペンス・タッチで追う。

 まず疑問に思うのは、無罪を勝ち取るために脅迫するのならば、弁護側ではなく検察関係者ではないかということだ。何しろいくら主人公が有能な弁護人とはいえ、判決が誘拐犯の思い通りになるとは限らないのだから。しかし、本作はあえてその掟破りのような設定を採用している。その理由が明かされるラストはかなり衝撃的だ。

 ここで考えさせられるのは、司法制度における刑罰の意味である。犯した罪の重さによってペナルティが課せられるのは当然のことであり、死刑はその中でも究極の方法である。しかし、重大な犯罪に手を染めた人間のクズのような奴が死刑になったところで、そいつによって迷惑を被った無辜の市民の苦しさと悲しみは相殺されるのだろうか。

 犯人がこの世から居なくなっても、犠牲者は返ってこない。死刑を超える刑罰は存在しない。だが、犯罪の凶悪度は広げようと思えば限りなく広がるのだ。これに対して司法が提示するペナルティは“死刑”がリミットである。この加害と被害とのアンバランスに関して司法は何が出来るのだろうか。本作の終盤の展開は、そういう不条理的な状況に対して激烈な抗議を試みているようだ。この主題を織り込んだ点だけでも、この映画を観る価値はある。

 ウォン・シニョンの演出は、エグい描写とケレン味あふれた映像ギミックを数多く挿入しているあたり、デイヴィッド・フィンチャー監督の「セブン」を相当意識している。ただし、暗闇の中を手探りで歩くような見通しの付かない焦燥感の表現は「セブン」より上だ。これ各登場人物が抱く切迫性が(頭の中だけで考えたような「セブン」とは違って)より高い普遍性を獲得しているためだろう。

 ヒロイン役のキム・ユンジンは一時期アメリカでテレビシリーズに出演して人気を獲得し、今回久々に故国での仕事になったが、前の「シュリ」や「RUSH!」の頃よりも垢抜けてきた。演技面だけでなくセクシーさも一皮剥けたようだ(笑)。共演のパク・ヒスンやキム・ミスクも手堅い。後半には辻褄の合わない点がけっこう出てくるが、それが気にならないだけの作劇面での迫力がある。観る価値は十分にある佳篇だ。
コメント
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