元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「幼獣マメシバ」

2009-09-29 06:25:00 | 映画の感想(や行)

 アジアフォーカス福岡国際映画祭2009出品作品。ポスターや惹句から想像される“動物映画”では全くなく、ペーソスに溢れた人間喜劇として評価したい一作だ。

 主人公の芝二郎は35歳にもなって自宅から半径3kmのエリアから出たことがない引き籠もり気味のニート。父親の四十九日の法要も他人事で、雑事は親戚に任せっぱなしだ。ただ最近家出した母親の行方だけは気になるようである。とはいっても愛情を感じているわけではなく、身の回りの世話をしてくれる人間がいなくなるのが困るからだ。その母親から暗号めいた葉書が届く。居場所を突き止めたかったら謎を解いてみろという挑戦状のようだ。仕方なく二郎は生まれて初めて“外の世界”に飛び出すことになる。

 映画は予想通り、社会から隔絶されていた主人公の成長物語という図式で動くが、これを直截的に描いてもあまり面白くはない。本作の特色は、多種多様なキャラクターと小道具を配して起伏のあるドラマ作りを実現させている点だ。

 主人公と現実世界との接点になるのが、タイトルにもある豆柴の子犬である。こいつが尋常ではない可愛さで(笑)、どんな冷血漢でも心を許してしまうだろう。さらに“ペットの合コン”で知り合った若い女が彼の手助けをする。当初はどうして彼女が二郎みたいな痛々しい奴と行動を共にするのかと疑問に思うが、終盤に明かされるその理由は実に切ない。そして共感してしまう。彼女の親族も“香ばしい”キャラクターが揃っているし、二郎の両親に至ってはとんだ食わせ物だ(笑)。

 では二郎はどうかというと、これが主役にふさわしい強者(?)である。演じる佐藤二朗の特異すぎる個性が全面展開していて、行く先々でおちゃらけのオーラを放ち場を盛り上げる(爆)。減らず口を叩きながらも、けっこう(彼の立場としては)筋の通った物言いをしているあたりも可笑しい。ヒロイン役の安達祐実をはじめ渡辺哲、佐藤仁美、西田幸治(笑い飯)と多士済々な面子が持ち味を発揮し、笹野高史と藤田弓子の海千山千ぶりは言うまでもない。

 亀井亨の演出はオフビートながらツボを押さえた玄妙なもので、最後までテンションが落ちない。そして痛快なラスト。人間、いかに不遇な状況でもやる気とチャンスさえあれば何とかなってしまうものだという、作者の楽天性が垣間見えて微笑ましい。聞けばTVドラマからのスピンアウト企画だというが、これだけ楽しませてくれれば“テレビ番組の二次使用は遺憾だ!”などと野暮は言うまい。とにかく観て決して損はしない快作である。
コメント
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