元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「マチャン/大脱走」

2009-09-27 06:48:33 | 映画の感想(ま行)

 (原題:Machan)アジアフォーカス福岡国際映画祭2009出品作品。いまいち視点が定まらない映画だ。コロンボのスラム街に住む食い詰めた連中が、海外への出稼ぎを目論んでドイツの労働査証を申請するが、当然の事ながら却下される。ところが偶然ドイツでハンドボールの国際大会が開催されることを知った彼らは、国の代表なら招待されると踏み、ハンドボールの何たるかも知らないまま人数をかき集めて“スリランカ代表チーム”をデッチ上げる。

 何やら英国流下層階級コメディ(なんだそりゃ ^^;)と「クール・ランニング」を合わせたようなネタで、しかも実話を元にしている。上手くやれば痛快爆笑編と相成ったところだが、どうも段取りがよろしくない。

 確かに、登場人物の置かれたシチュエーションは実にヘヴィである。絶望的なまでの貧富の差。彼らにはまともな職もなく、日雇いの仕事でもらった金はバクチでスッてしまう。さらには実質的なアパルトヘイトもどきの人種隔離状態が存在し、この閉塞感は並大抵のものではない。

 しかし、登場人物達のスリランカでの境遇を描くパートが必要以上に長いのだ。描くに値する題材であることは分かるが、本作は“ハンドボールの国際大会云々”というネタがしっかりと控えており、それに向かって全てのモチーフをテンポ良く滑走させなければならない。その意味でスリランカでの苦境を突っ込んで描くことは、作劇全体に負担が掛かるのだ。

 しかも、何とかドイツに入国したはいいが逃げる間もなく試合に駆り出された彼らの行動は一貫していない。一度は愛国心に燃えてプレイしようと誓うが、その舌の根も乾かないうちに自分勝手な振る舞いに走る。要するに、作者自身が登場人物達の心境を測りかねているのだ。たぶん彼らは“いちおう国の代表だから・・・・”なんてことを思ったことは全くないのだろう。如何にしてトンズラを決め込むかということしか頭にない。

 ならば愛国心がどうのといった小ネタを披露する必要はなく、試合会場からの脱出作戦を面白可笑しく描けば良かったのだ。たぶんこれは監督が外国人(イタリアのウベルト・パゾリーニ)だというのも関係しているとも思われる。国の代表たる自覚が少しは芽生えるはずだという希望的観測を、何とかして挿入したかったのだと想像する。

 ところが、当事者としてはそんなことは知ったことではない。そのあたりの見識の甘さが作品自体の居心地の悪さに繋がっている。なお、実際の彼らはいまだ行方不明だという。国も家族も捨てて恥とも思わない連中のことを取り上げる必要があったのか、それも疑問ではある。
コメント
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