元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「子供の情景」

2009-09-02 06:30:30 | 映画の感想(か行)

 (原題:Buda as sharm foru rikht)何と言っていいのか、評価するのに困る映画だ。イランの監督一家“マフマルバフ・ファミリー”の末娘ハナの長編劇映画デビュー作。バーミヤンに暮らす6歳の少女バクタイが隣家の少年が勉強しているのを見て“私も学校に行きたい!”と決心し、一人で学校を目指して歩き出すという話だ。イラン映画得意の(子供をダシに使った)“はじめてのお使い”のパターンを踏襲しているが、ここでの舞台は戦争の傷跡が生々しいアフガニスタンである。いつものハートウォーミングな物語とはほど遠い、生臭い世界が展開する。

 バーミヤンといえば、少し前までイスラム原理主義のタリバンが支配していた地区であり、2001年に世界遺産の巨大石仏像が破壊されたことも記憶に生々しい。米国のアフガン侵攻によりタリバン派は追いやられたが、その影響は消えることはない。作者はその状況を子供同士の関係に置き換えてエゲツなく綴ってゆく。

 バクタイの行く手を阻むのは“タリバンごっこ”に興じるガキどもである。彼らはバクタイがやっとの思いで手に入れたノートを“女に勉強は不要だ!”とばかりに引き裂いてしまう。さらに岩山の洞窟に女の子達を“捕虜”として幽閉するという、シャレにならないことまでやってのける。

 バクタイの顔つきはアラブ系のそれではなく、目が細くて明らかに内モンゴル系の血筋を引いたハザル人だということが分かる。ハザル人はタリバン支配時に弾圧された種族だ。男尊女卑の路線を推し進めたタリバン政権下では、女性が教育を受けることを禁止したこともあり、つまりバクタイは女の子でしかもハザル人という、一番の社会的弱者ということになる。本作はそんな彼女の“学校に行きたい”という素朴な想いを無惨にも踏みにじる、社会の歪みを告発する。

 冒頭とラストに挿入される石仏の破壊シーンが象徴するように、この世に理不尽が有る限り仏陀は恥辱のために崩れ続けるのだ・・・・という重いテーゼが画面を横溢する。ただし、どうも観ていてあまり面白くない。それはドラマツルギーが図式的であるせいだ。バクタイが遭遇する“災難”がアフガニスタンの現状を表しているというのは分かるが、どうも気負いばかりが空回りしている印象を受ける。もっとエンタテインメントに振られたスマートな作りが出来なかったのだろうか。

 監督の父親のモフセン・マフマルバフならば、もっと観客に対する喚起力の大きい映画作りをするはずだ。とはいえ、監督のハナ・マフマルバフは撮影当時19歳であり、この年齢でこれだけのものを作ったのは凄い・・・・とは言えるのだが、ハナの姉のサミラは18歳で「りんご」という快作をモノにしており、演出者の若さを殊更クローズアップできないのが辛いところだ。
コメント
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