元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「外科室」

2009-09-13 20:46:56 | 映画の感想(か行)
 92年作品。泉鏡花の原作を今回映画化したのは、あの坂東玉三郎(本人は出演していない)である。これが監督デビュー作。胸を患う伯爵夫人(吉永小百合)は外科手術の際の麻酔をかたくなに拒否する。彼女には心の中に秘めていたことがある。麻酔を打つと、うわ言で口にしてしまうかもしれないからだ。9年前、小石川の庭園で出会った美青年(加藤雅也)に心を奪われ、青年もまた彼女を忘れられなくなる。実はその時の青年が今日の手術を担当する外科医なのだ・・・・。

 物語は青年の友人である画家(中井貴一)のナレーションによって進んでいく。音楽はラフマニノフのチェロ・ソナタ、撮影は坂本典隆、スチール写真は篠山紀信。上映時間が50分の小品である。

 結論を言うと、出来としてはイマイチだ。冒頭の満開の桜、中盤の咲き乱れるつつじ園の描写、対して病院の冷え冷えとした雰囲気のとらえ方など、絵としては本当に美しい映画だとは思うが、玉三郎監督は映像をパターンとして描くことは出来ても、ストーリー・テリングの才はこの映画を観る限り、あまりないようだ。恥ずかしい話だが、私はナマで歌舞伎を観たことがない。だから歌舞伎の舞台演出が映画の演出とどれだけ違うのか、ここで論じることは出来ない。しかし、この映画の出演者の演技、セリフ廻しなどが異様に“硬い”のは、“型”をつくることが優先する歌舞伎の影響なのだろうか・・・・とも邪推したくなる。

 カメラが固定で、切り替えが少ない長回しを多用するのは、明らかに舞台出身のスタッフがよくやる手法であるが、物語や登場人物の心理の動きがあまりない場面で使いすぎる点が目についた。結果として50分の作品ながら中盤で退屈したのも事実である。鏡花は「帝都物語」で玉三郎が演じた役でもあり、思い入れが相当強かったとは思うが、吉永小百合の熱演をもってしても、鏡花の耽美的・幻想的な世界を堪能するには至らなかったのは残念だ。

 むしろこの映画は公開当時の興業形態を注目したい。50分の一本立てで、入場料金は千円均一。客の回転が早く、興業側としては悪くない商売だと思うが、本作のような話題作に限っての適応しかできないだろう。それにしても50分で千円は少し高い。今から考えると、800円か700円がちょうど良かったと思う。
コメント
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