元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「凶弾」

2009-09-01 06:29:32 | 映画の感想(か行)
 82年松竹作品。今はテレビのバラエティ番組などで“お茶目な気象予報士(兼タレント)”としてよく見かける石原良純だが、デビューした時はその毛並みの良さから“第二の裕次郎”みたいな売られ方をされ、俳優としての将来を嘱望されていたようだ。映画初出演の本作からしていきなり主演である。

 福田洋のノンフィクション「凶弾、瀬戸内シージャック」の映画化で、監督は数々の快作をモノにした活劇の職人派・村川透だ。ところが、実際観てみると彼らしい持ち味はまったく出ておらず、まるでふやけた太陽族映画のエピゴーネンみたいな印象しか受けない。まあ、いくら“期待の新人の主演作”とはいってもこの映画は野村芳太郎監督の「疑惑」の添え物上映だったので、作る側も気合が入っていなかったのだとは予想するが・・・・。

 世間を震撼させた瀬戸内海のフェリーボートの乗っ取り事件を題材にした実録ものであるが、石原扮する犯人グループのリーダーが一連の犯行に手を染めるきっかけとなった警官射殺事件のくだりからしていい加減である。職務質問してきた警官が常軌を逸するほど凶悪で、主人公に感情移入させようという作戦かもしれないが、不自然極まりない。

 回想シーンでの少年院でのエピソードは陳腐と言うしかなく、まるで学芸会。高樹澪演じる謎の少女の存在も取って付けたようだ。さらには乗っ取られる船の船長(若山富三郎)は意味もなく犯人グループにシンパシーを抱き、クライマックス近くになると“このオッサン、実はホモじゃないのか”と思うほど主人公にべったりである。

 だいたい、冒頭タイトルのバックに出てくる主人公達の赤面ものの描写からして脱力だ。男ばかりが野山で楽しそうに戯れる場面を、スローモーションで思い入れたっぷりに映している。大昔の日活青春映画でもやらなかったような醜態ではないか。

 肝心の石原は、残念ながらまったく魅力がない。一応不良少年の役どころだが、コイツのどこが不良かと思わせる。デビュー出来たのも父親の石原慎太郎の肝煎りに過ぎなかったのだろう。本人もそれを自覚してか、これ以降は“内面的な演技が必要とされる役”には進出せず、現在のような色ものキャラに徹することで芸能界に生き残ることが出来た。その意味では先見の明だけはあったということだろう。
コメント
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