元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「フレッシュ」

2008-06-30 06:27:59 | 映画の感想(は行)
 (原題:Fresh )94年作品。タランティーノ監督の「レザボアドッグス」のプロデューサー、ローレンス・ベンダーが手掛けた異色の犯罪ドラマ。監督は「ルーキー」「パニッシャー」の脚本家で、これが演出処女作となり、のちに「タイタンズを忘れない」や「ダンシング・ハバナ」などを手掛けることになるボアズ・イェーキン。

 何が異色かというと、主人公が12歳の黒人麻薬密売人だということ。ブルックリンに住む主人公フレッシュは麻薬の運び人をやって家計を支えている。母親はすでに人生投げているし、美しい姉は麻薬漬けにされてマフィアのボスの情婦に成り下がっている。とうの昔に家を出た父親は、実は町へ舞い戻り、近くの公園で賭けチェスをやって生計を立てている。ここまで犯罪が低年齢化していることを嘆く前に、犯罪でもやらない限り生きていけないアメリカの下層社会の絶望的状況がひしひしと伝わってくる。

 フレッシュには好きな女の子がいるが、なぜか素直に気持ちを伝えられない。ある日、3on3の賭けに負けて逆上した売人の一人が、銃を乱射してあたりに居合わせた人々を皆殺しにする。犠牲者の中にその女の子がいた。フレッシュは密かに復讐を誓う。

 この映画が単なる実録犯罪映画の枠を超えて、独自の面白さを見せるのはここからだ。母親に内緒で父親のチェスに付き合うフレッシュは、実はたいへん頭の切れる少年である。父親のチェス戦法を参考に、綿密な復讐プランを練るフレッシュ。

 一分のスキもなく、計画を実行に移すくだりは、なかなかの心理サスペンス。ギャングどもが少年の仕掛けた罠にはまって、次々と破滅していく展開は、「スパイ大作戦」みたいなカタルシスを生む(黒澤明の「用心棒」を参考にしたと監督が言っていたが)。だが、すでに12歳にして人生の修羅場を見てきたフレッシュにとって、悪者をやっつけても何の感慨もない。それに、冷然とした態度しかとれない自分が悲しくてしょうがない。鉄面皮に隠れたその思いが一気に吹き出すラストは切ない感動を呼ぶ。

 チェスを小道具に選んだのはなかなかのアイデアだ。イェーキンは実際にブルックリンの小学生たちと長時間話をし、彼らから聞いた実話を脚本に取り入れたという。フレッシュを演じるのは、主人公と同年齢の新人ショーン・ネルソン。父親役にサミュエル・L・ジャクソンが扮していて、さすがの存在感を見せる。
コメント
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