元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「アフタースクール」

2008-06-05 06:24:17 | 映画の感想(あ行)

 終盤、大泉洋扮する中学教師が“元同級生”の自称・探偵(佐々木蔵之介)に言い放つセリフが本作のすべてだ。中学校の教室にはいろんな生徒がいる。ヒネた奴、マジメな奴、怠惰な奴、スタンドプレイが好きな奴etc.でも、学校を卒業してクラスを形成していた人間関係の構図から逃れられる者など、ほとんど存在しないのだ。

 考えてみれば当たり前で、赤の他人が40人ほど集まって集団生活を強いられればそこには明確な力関係が生じる。そして各個人の“立ち位置”が決まってくる。学校を後にしてそれぞれが自分の道を歩もうとも、世の中がひとつの大きな社会的“集団”である限り、一人一人にとって大きな価値観の転換でも生じない限り、取るべきポジションは決まってくるのだ。

 そして玄妙なことにその“大きな価値観の転換”というのは、そう頻繁には起こらない。たとえ起こったとしても、状況によりその“転換”を受け入れたに過ぎず、本性はあの教室での立ち振る舞いのままなのだ。いわば、学校を出てから生涯を全うするまでの間は、長い長い放課後(アフタースクール)みたいなものである。

 それを知らずに自分だけ学校を完全に卒業したつもりになっている自称・探偵は、自身が見えておらず、もちろん周囲も見えていない独善的な野郎に過ぎない。自分の“立ち位置”をわきまえ、それに見合った方向でベストを尽くす堅実な生き方こそが一番である・・・・という、実に説教臭いテーマをサスペンス・コメディの形でサラリと嫌味なく提示させた監督・脚本の内田けんじの力量は端倪すべからざるものだ。

 前作の「運命じゃない人」は観ていないが、前回もこのペースで仕上げているとすれば、海外の映画祭からも高い評価を受けたというのも頷ける。1時間40分という上映時間も簡潔でよろしい。シナリオ面でも邦画では珍しく堅牢なプロットを持つ上出来のコン・ゲームだと思う。

 もちろん、細かな突っ込みどころはあるかもしれないし、筋書きも部分的に読めるところがある。しかし、一方的に動きまくる自称・探偵に対する中学教師側の“反撃”が、凡百の犯罪コメディとは違って実に地に足が付いた確実なものである点は、作品の主題に合致していて納得できる。

 大泉と佐々木をはじめ、堺雅人、田畑智子、常盤貴子といったキャストも自らの持ち味を活かした適材適所を地で行くような仕事ぶり。これも映画のテーマと通じるところがあるのかもしれない(笑)。
コメント
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