元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ポゼッション」

2008-06-08 06:57:15 | 映画の感想(は行)
 (原題:Possession)80年フランス=西ドイツ合作。監督は「私生活のない女」などで知られるポーランド出身の異才アンジェイ・ズラウスキー。ドイツに住む若夫婦が主人公。近ごろ妻の様子が少しおかしい。私立探偵を雇ってしらべた夫(サム・ニール)は妻に愛人ができたらしいことをつきとめる。事件をさぐっていくうちに探偵は妻に惨殺され、夫の周辺にも奇怪な出来事が頻発するようになる。正気を失いつつある妻を心配しつつも夫は妻そっくりで妻とは正反対の優しい女とつき合うようになるが、やがて妻の愛人の正体を知ることとなる。それは人間ではなかった。

 以上がストーリーの概要であるが、映画はまるでそれを無視したかのような目茶苦茶な展開で進んでいく。実際観たら何が何だかさっぱりわからない映画で観る者は途方に暮れてしまう。ただ、強烈なのが妻を演じるイザベル・アジャーニの狂的演技で、ひょっとしてこの人は本当に狂っているのではないかと恐ろしくなる。

 無表情で家の中をひっくり返して回る場面や、ヘラヘラ笑いながらナイフをかざして迫るシーン、圧巻は地下鉄の構内で発狂するくだりである。持っていた買物袋をぶちまけたかと思うと、獣のような叫び声をあげて地面をのたうちまわり、最後には股間からネバネバした液体をしたたらせるグロ場面まで、10分近くのシークエンスをカメラは切り替えなしのワン・カットで映し出す。この監督の変態度も相当なものだ。

 じっさい彼女はこの作品に出演した後、ノイローゼで精神科医の治療を受けたというからスゴイ。そしてなんとこの映画でカンヌ映画祭の主演女優賞までとっているというのだから、何も言えなくなる。

 私はこの作品を87年の東京国際映画祭の「ファンタスティック映画部門」で観たのだが、スタッフ・キャストの豪華さのためか場内満員。しかし、映画が終わったあとはほとんどの観客が無言で青ざめた表情で劇場を後にしていたことを思い出す。あまりの変態さで製作されてから8年もの間日本での一般公開が見合わされたといういわくつきの作品である。
コメント
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