元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ジェイン・オースティンの読書会」

2008-06-11 06:37:27 | 映画の感想(さ行)

 (原題:The Jane Austen Book Club )果たして物語は人生を変えることが出来るのか。そんな命題について本作はひとつの回答を提示する。結論から言えば“物語自体は人生を変えない。ただし、他の条件が有効に機能すれば、生き方を変える要因の一つには成りうる”というものだ。ではその“他の条件”とは一体何か・・・・それを分かりやすく軽妙に示しているあたりが、この映画の見どころである。

 カリフォルニア州サクラメントを舞台に、英国の著名な女流作家ジェイン・オースティンの作品を読んで感想を言い合う“読書会”に集まった面々の人間群像を追う、カレン・ジョイ・ファウラーの同名小説の映画化。この“読書会”というのは、一見ネットのオフ会のように思える。メンバーは6人だが、これはオースティンの長編小説が6冊であるためだ。そして6人の友人・知人・家族などが時折加わる。会合は月一回で、それぞれテーマをひとつの小説に絞って6回連続で開催される。場所は各会員の家の持ち回りだ。

 料理や酒を囲んだ肩の凝らない集まりのようであるが、単なるオフ会とは決定的に違うのは、各人がオースティンの作品に関して自らの責任で真剣なコメントを述べ合うという点だ。当然、他のメンバーからはその見解について鋭い突っ込みが入ることもある。ただ漫然と感想を垂れ流すだけの“ぬるい”会ではない。これは、しょせんは匿名の集まりで場合によっては匿名のままで終わってしまう馴れ合いに過ぎないオフ会とは異なり、この“読書会”は互いに身分を明かした、いわばカタギの(?)サークルであることも大きい。ネット上のヴァーチャルな付き合いに端を発したものではなく、真にリアルな関係による集まりであるからこそ、本音のやり取りが可能になるのだ。

 映画は各メンバーのプロフィールや抱いている屈託などを過不足無く描いているが、面白いのは彼らの生き様がジェイン・オースティンの作品群の内容と微妙にリンクしてくるあたりである。彼らは、各人が自分が読んでいる書物と自らが置かれた境遇とを見比べて、フィクションに過ぎないはずの小説の中から生きるヒントを見出そうとする。ただし、それだけならば単に“読書をして考えさせられた”という次元での話であり、正直言って感銘の持続力は弱い。しかし、自分以外に同じ書物を読んで共感し合う仲間がいれば、そして書物の中から得た教訓を互いに出し合い、それが練り上げられてゆくような環境に身を置きさえすれば、物語は人生を変える力を持ちうる。

 前述の“物語が人生に影響を与えるための「他の条件」”というのは、こういうことだ。つまり、物語のエッセンスを現実に投射できるような人間関係を周囲に形成できれば(あるいは、形成しようと努力しようとすれば)、物語は人生にプラスの作用をもたらす(こともある)。

 ロビン・スウィコードの演出は丁寧で、肩の力が抜けたような自然体。各キャストのパフォーマンスも良好。特に貫禄を見せるキャシー・ベイカーとリン・レッドグレーヴ、小股の切れ上がったイイ女っぷりのマリア・ベロが印象に残る。全員収まるところに収まっていく終盤と、さらなる“読書会”の継続を暗示する展開を残し、観賞後の味わいは格別である。
コメント
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