(原題:Catch Me If You Can )2002年作品。スティーヴン・スピルバーグ監督が立て込んだスケジュールの合間を縫って2か月足らずで撮り上げた映画だが、ここ10年間の彼の作品の中では上出来の部類に入る。
十代の凄腕詐欺師とFBI捜査官の追いかけっこという、スピルバーグ映画としては“小さな”ネタを扱い、しかも彼が青春時代を送った60年代を舞台にしていることもあって、肩の力が完全に抜けきった作劇である。スピルバーグが片親の家庭に育ったことが彼の作品に大いに影響していることは知られているが、従来まで映画の中で表面に出ていなかった“親子の絆”というモチーフに今回は正面から向き合い、しかもコミカルなタッチで料理していることを見ると、彼の作家としての“成熟”らしきものも感じさせる。
しかも「インディ・ジョーンズ/最後の聖戦」に代表される父と子のぎこちなさは一掃され、この作品でのレオナルド・ディカプリオとクリストファー・ウォーケンの関係は実に濃厚だ。少年時代に父親と離れて暮らしていた作者の心情が素直に投影されているようで、観ていて納得できる。時系列を一部バラバラにして、結末を早い時点から明かすような展開にしているのは、映画の主眼が「スティング」や「デストラップ」などの“コン・ゲーム”ではなく、主人公の成長に焦点を当てた青春映画のセンを狙っているからで、これも首肯できる方法である。
キャストはいずれも良好だが、女房子供に逃げられた寂しさを仕事で紛らわそうとするFBIエージェントに扮するトム・ハンクスは出色。主人公の母親がフランス系との設定で、フランス女優のナタリー・バイを起用しているのには少しびっくりした。冒頭タイトルと今回はジャジーなジョン・ウィリアムズの音楽もセンス満点。60年代の風俗も申し分なく、観て決して損はしない。