元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「マイ・マザー・イズ・ア・ベリーダンサー」

2007-09-27 06:46:59 | 映画の感想(ま行)

 (英題:My Mother is a Belly Dancer)アジアフォーカス福岡国際映画祭2007出品作品。香港の九龍地区にある団地に住んでいる冴えない主婦たちが、ベリーダンス(中近東発祥の伝統舞踊)にのめり込んでいくという話。この設定だけを聞くと、誰しも「フラガール」や「スウィングガールズ」の“おばさんダンス版”みたいなスポ根仕立ての映画かと思うだろう。事実、映画祭のリーフレットにも“元気と幸せを与えてくる作品”と書いてある。しかし、観た印象はそれとは大違い。これは本当に厳しい映画だ。

 描写が実にシビア。しがない主婦たちの、その不甲斐なさを徹底したリアリズムで綴ってゆく。彼女たちは夫や子供にバカにされ、あるいは甲斐性のない旦那に悩まされ、鬱屈した日々を送るのみ。それは彼女たちの家族や周囲の人間が悪いのか? いや、一概にそうとも言えない。本人にも責任がある。そんな状況を招いたのは、自らの考えが足りなかったのだ・・・・しかし、それを言っちゃオシマイである。誰でも自分の欠点ぐらいは分かっている。それでも“どうしようもない”のが大人の現実ってものなのだ。

 この映画には彼女たちがベリーダンスの大会などで特訓の成果を披露して盛り上がるといったシークエンスはない。そういう場もないほど追いつめられている。ダンスや何かによって自己をアピールし、それによって大きく成長してゆくといった筋書きが通用するほど、彼女たちは若くはない。それは青春映画の範疇での話だ。

 でも、どんなに逆境にあえぐ毎日であっても、理屈抜きで楽しめることを見つければ、ほんの少し(本当に、ほんの少しなのだが)現実をポジティヴに捉えることが出来る。そういう可能性を高らかに謳いあげる作者の優しさがしみじみと伝わる佳篇である。

 四方をビルに囲まれた集合住宅は登場人物たちの逃げ場のない人生を象徴していることは確かであるが、だからこそ団地の屋上でダンスの練習をする場面や、暗い中庭で踊る彼女たちに上空から一筋の光が射し込んで来るという感動的なシーンがテーマを素晴らしく浮かび上がらせる。

 リー・コンロッの演出はリアリスティックなタッチの中に美しい場面を自在に織り込むという面で実に達者だ。エイミー・チョム、クリスタル・ティン、ラム・カートンら女性陣は皆好演だし、製作も手掛けているアンディ・ラウが顔を見せるのも嬉しい。一般公開が待たれる秀作である。
コメント
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