元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「デス・プルーフ in グラインドハウス」

2007-09-13 06:40:55 | 映画の感想(た行)

 (原題:Death Proof )とても面白かった。満足した。しかし、クエンティン・タランティーノ監督の語り口に慣れていない者、“グラインドハウス”の意味とその雰囲気を知らない者、そして娯楽映画のルーティンから外れた作品を受け付けない者(要するに、多くの観客)には、まるでお呼びでないシャシンであろう。事実、上映中の途中退場者がこれだけ目立った作品は最近そうはなかった(^^;)。

 テキサス州オースティンを舞台にしての、ローカル曲の女性ラジオDJとその仲間の延々と続く他愛が無さ過ぎる会話、そしてバーでの大騒ぎのこれまた延々と続く平坦な描写だけで、一般ピープルは“引いて”しまうはず。そこに現れたスタントマンと名乗る怪しげな男が、やがて突発的に惨劇を引き起こして映画の緊張感がイッキに上がる。ここまでが前半部分で、後半はテネシー州レバノンが舞台となるが、なんと設定と展開が前半とほとんど一緒である。

 しかし、同じことをやっているだけなのに画面の切迫感が段違いだ。前半はドラマがどう決着するのかという、居心地の悪い弛緩した(?)サスペンスが覆うだけなのに、それをまるごと後半の伏線にしてしまう大胆さ。そして当然“後半は前半と終盤の展開が違うだろう”と思っていたこちらの予想を上回る滅茶苦茶ぶりを披露してくれるあたりは、さすがタラン氏である。

 グラインドハウスとは、独立系の弱小映画会社が作ったB級作品を2本立て3本立てで上映する場末の映画館のことで、60~70年代には至る所にあり、若い頃のタラン氏も相当お世話になったはずだ。本作もそれらの雰囲気を継承すべく、フィルムに傷の入ったような画面処理や褪せた色調、そして故意による乱暴なカッティングなど、やりたい放題に遊んでいる。そして往年のアクション映画の秀作「バニシング・ポイント」に大いにオマージュを捧げているあたりも、見ていてニヤリだ。

 クライマックスのカーチェイスはここ数年の活劇映画の中でもダントツに凄い。しかも著名なスタントウーマンであるゾーイ・ベルが本人役で出演し、手に汗握る見せ場を作っているのだから言うことナシだ。敵役のカート・ラッセルもノリノリの大怪演。ラスト近くは爆笑に次ぐ爆笑。“THE END”のタイトルが出るあたりは会場から拍手が起きた。確実に“観客を選ぶ”映画だが、ハマればこれほど楽しいシャシンはないと言える。
コメント
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