元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「インランド・エンパイア」

2007-09-09 07:45:02 | 映画の感想(あ行)

 (原題:Inland Empire)デタラメ三昧・支離滅裂な映像が延々と3時間も続くデイヴィッド・リンチ監督の新作。不安定な画像が神経を逆撫でするような音楽に乗って文字通り悪夢的な映画世界を形成し、しかもそれが独特のリズムで展開していくため、不思議と倦怠感は覚えず、長い上映時間も苦にならない。

 しかし、本作は「ロスト・ハイウェイ」や「マルホランド・ドライブ」といったリンチの過去の“わけの分からない映画”と比べれば明らかに落ちる。なぜなら「ロスト~」などは映画の序盤で一応サスペンス・ミステリーというドラマの枠組みが作られ、やがて狂気的なイマジネーションがその枠をぶち破っていくという過程に堪えられないスリルと興奮が醸成されたのに対し、この映画はジャンル的な枠組みも何もなく、最初から“イッちゃっている”からだ。

 超現実的映像の喚起力は、それが現実側との乖離度が大きければ大きいほど効果的になるものだが、この映画のようにハナっから現実を否定してしまうと、あとに残るのは酩酊した映像のコラージュでしかない。せいぜいがその画面のテクニカルな見せ方に対して感心してみせる程度だ。つまりは、どういう部分が“わけの分からない”のか、それを明示しないと観客は戸惑うだけだということ。

 さらに面白くないのは、前二作には満載だったエロいシーンが少ないこと(激爆)。大胆演技を披露したパトリシア・アークエットやナオミ・ワッツに対し、主人公の“女優”に扮するローラ・ダーンは性的な匂いが希薄で、第一トウが立ちすぎている。途中、セクシーなコギャル軍団が意味もなく登場はするのだが、出演時間も露出度も話にならない。下世話な話をするなと言われそうだが、いくら内省的実験映画とはいえ劇場公開されるのだから、こういうエンタテインメント(?)に振ったモチーフの挿入は必須かと・・・・。カネをかけられないのか、フィルム撮りではなく全編デジカム画像でお世辞にもキレイとは言えないのも辛いところだ。

 終盤、裕木奈江が女ホームレスの役で出演し、拙い英語のセリフを披露しているが、あまり演技面で彼女のキャリアにはならない仕事だと思った。チョイ役での“ハリウッド進出”よりも、邦画界で研鑽を積んだ方がベターではないだろうか。
コメント
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