気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

未完成霊 諸岡史子 本阿弥書店

2021-06-04 00:19:10 | つれづれ
壁にある写楽の寄り目月齢の太るにつれてますます寄りぬ

声残すテロの犠牲者三歳児「かみさまにぜんぶいいつけてやる」

安曇川ゆ蓬萊駅ゆ和邇に着く乗り来る人ら昔渡来人

朱の実のさるとりいばらからすうり甕にたつぷり秋を商ふ

八月六日九日十五日 未完成霊の黙を聞くべし

えらいひとが「しやうがなかつた」といふ言葉 かたりつぐといふ言霊もある

くきくきと手足動かす不可思議な生き物きたり赤ん坊といふ

吾が背子は雀の爺や定年後テラスに麦を撒くのが日課

邯鄲のこゑもとどかぬ姑のたなそこへおく大き有りの実

水無月の雨にふくらむ鬼灯の肩のあたりのいろづきはじむ

(諸岡史子 未完成霊 本阿弥書店)

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短歌人会、鱧と水仙でご一緒している諸岡史子さんの第二歌集。題名に驚く。
巻末の文によると、戦争や不慮の事故で死んだ人の魂を未完成霊と呼ぶという。
広島の原爆で亡くなった人びとの霊を思い続ける正義感、使命感が溢れている。
真面目な中にほのかなユーモアを忍ばせて、味わい深い歌集となった。