気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

即興曲(アンプロンプチュ)田中成彦 

2021-06-15 00:32:14 | つれづれ
昭和期の店の半ばは仕舞はれて昼なほしづか<猪熊通>

寄りて立つ句碑それぞれに相応しき花実たとへば紫式部

冷やしたる白味噌仕立ての椀のなか嵩の小さな蓴菜浮かぶ

渦を巻く潮の速さや寄りゐたる小さき漁船なべて傾く

善き父や夫や息子の優しさを奪ひ取るもの戦争と呼ぶ

南北の通りは融けゆく昼過ぎを交はる小路に雪深きまま

海ねこの生くれば泄らす白きもの大滝のごと岩を覆へる

五感もて味はふ春の駿河路や桜えびとふ名もいつくしみ

今すこし歌を綴ぢゆく日はあらむ箱に残れるホチキスの針

大浅蜊すなどる舟の幾つかを揺らすのみにて夕潮は引く

(田中成彦 即興曲(アンプロンプチュ))

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京都歌人協会会長、日本歌人クラブ近畿ブロック長の田中成彦氏の第六歌集。文語旧かなできっちり作られた歌はものすごく真っ当。読む方も襟を正してしまう。真面目なお人柄が作品に現れていて、最近なかなか見ないタイプかと思う。京都の碁盤の目の中の暮らし。京都愛に溢れる。