ゆで卵の殻をむきつつ一人なり旅の朝はやき駅前のカフェ
いちめんに広がる海と思いしが眼鏡して見ればただのすりガラス
日が暮れて二つの月が浮かびおりうしろの月にありしふるさと
天国の花屋ならねど棚ごとに冬のビオラが咲きあふれおり
川底を這うている蟹を見下ろせばわれを見上げて笑う顔あり
縄とびの波のしだいに速くなりころがって出たわれは白髪
大橋の六間通りの夜鳴きソバ屋ときどき狐のしっぽが見える
仏壇の奥に金色(こんじき)の都あり役(えん)の小角(おづぬ)が空を過ぎゆく
こなごなに鏡が砕け散ったとき何百となく僕の飛び散る
夜深く覚めれば雨が降っている耳鳴りのなき静かさのなか
(小谷博泰 うたがたり いりの舎)
***********************************
結社「白珠」同人、「鱧と水仙」同人の小谷博泰の第九歌集『うたがたり』を読む。
一年ほど前に歌集を出したところだが、歌が溜まったので次の歌集を出すとのこと、羨ましい限りである。歌そのものはすんなり読めて、わかりやすい。それぞれの連作にストーリーがあり、作者の顔がほの見える。
たとえば、五首目。蟹と目が合ったと読んでまちがいないだろう。結句に「笑う顔」とあるのが面白く、作者の自意識が出ている。九首目の下句にも、作者があらわれる。割れて砕けた鏡の欠片に自分の姿が何百もあるとは、恐ろしい。作者自身が崩壊する感覚。十首目では、耳鳴りに悩まされている姿が想像できる。
七首目の「狐のしっぽ」、九首目の「仏壇の奥」など、作者自らの想像、妄想?の世界がひろがる。あるときはユーモアを醸しだし、また土着的な不思議な世界を展開している。
いちめんに広がる海と思いしが眼鏡して見ればただのすりガラス
日が暮れて二つの月が浮かびおりうしろの月にありしふるさと
天国の花屋ならねど棚ごとに冬のビオラが咲きあふれおり
川底を這うている蟹を見下ろせばわれを見上げて笑う顔あり
縄とびの波のしだいに速くなりころがって出たわれは白髪
大橋の六間通りの夜鳴きソバ屋ときどき狐のしっぽが見える
仏壇の奥に金色(こんじき)の都あり役(えん)の小角(おづぬ)が空を過ぎゆく
こなごなに鏡が砕け散ったとき何百となく僕の飛び散る
夜深く覚めれば雨が降っている耳鳴りのなき静かさのなか
(小谷博泰 うたがたり いりの舎)
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結社「白珠」同人、「鱧と水仙」同人の小谷博泰の第九歌集『うたがたり』を読む。
一年ほど前に歌集を出したところだが、歌が溜まったので次の歌集を出すとのこと、羨ましい限りである。歌そのものはすんなり読めて、わかりやすい。それぞれの連作にストーリーがあり、作者の顔がほの見える。
たとえば、五首目。蟹と目が合ったと読んでまちがいないだろう。結句に「笑う顔」とあるのが面白く、作者の自意識が出ている。九首目の下句にも、作者があらわれる。割れて砕けた鏡の欠片に自分の姿が何百もあるとは、恐ろしい。作者自身が崩壊する感覚。十首目では、耳鳴りに悩まされている姿が想像できる。
七首目の「狐のしっぽ」、九首目の「仏壇の奥」など、作者自らの想像、妄想?の世界がひろがる。あるときはユーモアを醸しだし、また土着的な不思議な世界を展開している。