062:坂（近藤かすみ）

坂多き場所を選びて子は生きるジャズの盛んな神戸の街に

061:ピンク（近藤かすみ）

コスモスは昔ながらのピンクにて母と歩いた野の道に咲く

060:引退（近藤かすみ）

ゆくりなく引退のときやつて来てわが洗濯機朝に壊れつ

059:済（近藤かすみ）

いまいちどレンジにコロッケ温めてひとりで済ます夕餉は八時

058:魔法(近藤かすみ）

開けたれば裡に銀（しろがね）ひかりたる魔法瓶つねは闇を抱けり

057:縁（近藤かすみ）

縁なしの眼鏡ひかりを返すからあなたの瞳はかくされたまま

056:アドレス（近藤かすみ）

花の名をメールアドレスに組み入れて乙女さびゆく母といふひと

055:式（近藤かすみ）

ふみの日の記念切手にぽつちりと紅のくちびる紫式部

054:首（近藤かすみ）

二ヶ月のカナダ出張みやげなるチョーカー受けむと首を差し出す

053:妊娠（近藤かすみ）

妊娠の不安なくなり奔放に生きなほすべし家猫ミイコ