今回は長いですよ。覚悟して下しさい(苦笑)。
FITダンパーは
フォックスの軽量モデル向け新型ダンパーです。このダンパーのねらい所はズバリ軽量化です。だいたい100グラム以上の減量になります。元々はDHの技術でそれが今回XCやAM向けに再設計されたものです。
もちろんダンパーを纏めた部品なので、減衰調整、ロックアウトなどの機構も組み込まれています。
ただ軽くなるのではなく、ユニットをサスペンション上部に持っていくことによりバネ下重量の軽減、ひいてはサスペンションの路面追従性の向上に役立っています。
そしてこれが大事なのですが、
FITは密閉形式であるということです。
今までフォックスが取ってきた形式は他のブランドとほぼ似たような形式、エマルジョン形式でした。これはエアが混じることを前提としたシステムで、神経質なエア抜きが不要な反面、純粋な減衰性能としてはロスがあります。それはオリフィスがオイルにしか対応していないためです(フォークがストロークするとグチャグチャと音がします。あれがエアが通る音です。音が出ると言うことはすなわちロスが生じていると言うことです)。
オイルに空気が入っていると何故ダンピング性能が劣るのか? 一つには空振りが挙げられます。オイルのような粘性液体が通ることを前提としたオリフィスは、エアが通ると空振りをしてしまいます。そのため持続的で安定するダンピングが出来なくなるのです。
もう一つは気泡が混じり、破裂すると超音波を発するためです。
眼鏡屋さんの店頭に置いてあるメガネクリーナーと一緒です。一粒一粒はたいしたことはないのですが、それが何千、何万となると非常に大きな破壊力を持ちます。
ダンパーは常に圧力に晒されています。山の頂上ではお湯が沸く温度が地上と違うように、ダンパーの内部の圧力の変化は通常オイルの中にとけ込んでいる空気を気体化させます。そしてその空気達は破裂し、ダンピングができないどころかダンパーそのものにダメージを与え始めます。これが
キャビテーションというものです。発生スピードが上がるほどスーパーキャビテーション、ウルトラスーパーキャビテーションと名称が変わっていきます。そしてその破壊力はチタン合金もぼろぼろにしてしまうほどです。
まあ、MTBのサスペンションではそこまでいきませんが。
密閉のための真空引きはこれをなくすために行われます。すなわち最初から圧力を下げ、オイル中の気体を取り除きキャビテーションが発生しにくくするわけです。
これと対照的なのが窒素封入式ダンパーです。リヤユニットによく使われています。密閉型の考えとはまるで逆で、あちらは減圧でオイルを安定させるのに対し、封入式は窒素を加圧することで空気の沸点を変えているのです。
双方とも狙いは一つ、オイルという液体の融点状態の安定化です。
FITはエアが混じっていないためダンパーシステムとして優秀な減衰特性を示すと共に、作動時に音がしなくなるという副産物もあります。そしてダンパーとしての性能が向上した結果、コンプレッションダンピングの幅が広くなり、特にトラクション性能が向上しました。
これはある意味5thエレメントに近い考えです。5thは大容量ダンパーにより、コンプレッション側のスプリング機能を一部ですが補っていました。そのためスプリングが従来のMTBより柔らかめで済んだのです。FITは容量を少なくしていますが、性能を向上させたためスプリングを補うことが出来たのでしょう。
ただ私は危惧もあります。それはオイル量が少なくなってしまったこと。今回の軽量化は単純にオイルの量が少なくなったことで実現されました。幾ら真空状態で空気の妨害や、酸化などによる劣化が少ないとはいえ、絶対量が減ってしまうとオイルそのものに負担が掛かるようになってしまいます。どこまで安定した機能が保てるか不安です。
もう一つ、フォックスではショップレベルでも
FITの分解をしないで欲しいとアナウンスしているようです。これも不安の要因の一つです。
ロックショックス・ジュディはFITのように倒立式ではなかったですが、同じようにカートリッジ形式をとり、そして止めました。マニトウもEFC(エラストマー・フルード・コントロール)という機構を採用していましたが、ダンピング性能が安定せず、TPCというフォークの片側全てをダンパーにする考えにシフトしていきました。フォックスはどうでしょうね?
カートリッジにすれば、素材をアルミやマグネシウムなどの金属に縛られる必要はありません。より積極的にカーボンが使われていく事になるでしょう。
サンツアーがカートリッジを採用しているので、そのあおりもあるのかもしれません。
私見ですが、こんな感じで