中高生に分かるように書かれた、ストーリー仕立ての地政学入門であるが、大人にとっても勉強になる内容だ。
既知のことも含めて、以下のような内容を確認したり学ぶことができた。(※は本書より、☆は個人的つぶやき)
・現代世界にあっても、海の支配の重要であること(※世界貿易の9割以上は海運による)
・核兵器は①原子力潜水艦、②海中からのミサイル発射、③深くて安全な海の3条件が揃って最強のアイテムとなる(※中国の南洋進出)
・大国の侵略的な行動は自国を守ろうとする心理が強く働く(☆まさにウクライナ進攻のロシア)
・小国は遠交近攻で近くの大国に圧倒されないよう必死でバランスをとる(☆ウン十年前だが、日米中の三角関係は学生時代に国際関係論の授業で少し勉強したな~)
・選挙が有効となる前提は、負けた側も結果を受け入れ、勝った側も負けた側の論理を一定程度重んじることにある(☆前回の米国の大統領選が良い悪例)
・アフリカが貧しいのはお金が大量に欧米に流れ自国に残らないことが大きい(☆これも学生時代に開発経済学で少しかじった)
・1)大国に挟まれ、2)他国との境界に川や山などの自然障害物がない、3)天然資源や港などがある、半島は攻められやすい(※クリミア半島、朝鮮半島。古くは山東半島?)
・地球温暖化を天然資源の開発を助けるとしてポジティブに捉える国もある(※北極海が溶ければ、北の資源を掘りやすく、海路も開け、ロシアにとっては都合が良い)
あくまでも地政学の話に限定しているので、宗教や民族といった他の要素については殆ど触れられていない。なので、中高校生にはこれだけで世界が読み解けるわけではないことは分かってほしいなあと思った。また、これも地政学であるが故に、現実主義に徹しているので、現状の世界を見るための視点は学べるが、未来を創るための視点は弱いのは、これからの時代を担う中高生向けとしてはやや歯がゆい所ではあった。無いものねだりとも言えることでもあり、2時間程度あれば読めるので忙しい大人にもお勧めします。
余談だが、筆者の田中孝幸さんが謎である。著者紹介には、国際ジャーナリストとは書いてあり、特派員経験とかがあるようだが、派遣元がどこか書いてないし、書いてあることは検証不可能な経歴ばかりなのだ。本書の「カイゾクさん」に見立ててるのだろうか?
【目次情報】
プロローグ カイゾクとの遭遇
1日目 物も情報も海を通る
2日目 日本のそばにひそむ海底核ミサイル
3日目 大きな国の苦しい事情
4日目 国はどう生き延び、消えていくのか
5日目 絶対に豊かにならない国々
6日目 地形で決まる運不運
7日目 宇宙からみた地球儀
エピローグ カイゾクとの地球儀航海