その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

樹原アンミツ『東京藝大仏さま研究室』集英社文庫、2020

2021-01-05 07:30:40 | 

お正月の読書1冊目。

東京藝術大学 大学院美術研究科・文化財保存学専攻 保存修復彫刻研究室(通称・仏さま研究室)に在籍する大学院生男女 4名の青春成長物語。

多士済々の芸術家の卵が集う藝大の中でも、仏さま研究室というマイナーで変わり種の研究室を題材にした舞台設定がユニーク。更に、4人のオムニバス的ながらも相互につながっているストーリー展開、読みながら学べる日本の仏像史や仏像制作過程、いろんな読み方ができる小説だ。

余談だが、芸大でなくて藝大なのは、そもそも『芸』とは『くさぎる』『刈る』という意味である一方、『藝』とは『植える』『増やす』という意味で、正反対の意味だという。「芸術も農業や工業と一緒で、なにか人にいいものを植えたり、増やしたりする仕事」(p208)ということだ。私は全く知らなかったが、こんなことも勉強になり面白い。

ちなみに、筆者の樹原アンミツというのは、「ドラえもん」の藤子不二雄のような合同ペンネームで、映画監督・三原光尋が企画、取材を担当し、ライター・安倍晶子が小説化したとのことである。

冗長に感じるところがあるなど、小説としての完成度はもっと高まる余地がある気がするが、気軽に楽しめ、未知の世界をのぞき見するワクワク感を味わえ、かつお勉強にもなるというお得感満載の一冊だ。

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