昨年11月に突然この世を去ったアラン・トゥーサンのラストアルバム『AMERICAN TUNES』。
ジョー・ヘンリープロデュースの元、行われた2回のレコーディングセッションから作られた作品で、2度目のレコーディングは亡くなるひと月前だったそうです。
今や辣腕と紹介するのも当たり前すぎるジョーヘンリーが立ち会っていたのはもちろんアルバムにするため。かくしてニューオーリンズ音楽の巨匠中の巨匠のラストアルバムとして仕上げられたのでした。
そんな大好きなミュージシャンの遺作ですが、事前情報で「ピアノインスト中心のジャージィな作品」と聞き、遺作じゃなければあまり食指が動かないタイプの盤だなあと思ったりもした僕なのでした。
もちろんトゥーサン、大好きです。特別も特別なミュージシャンです。
88年初来日公演のゴージャスで楽しいバンドサウンドには大騒ぎしました。
でも終演後興奮が醒めた後
「なんか新味やスリルのようなものはなかったなぁ」と思ったりしたケシカラン、ファンでもあります。
コステロとの共演盤やインストやカバー、近年のアルバムをちゃんと購入しては聴いてない失礼なファンでもあります。
そんなわけで今年の初夏に出たこのアルバムを秋になってようやく、しかも値段が下がったから購入したという愚かなファンが僕です。
もうおわかりでしょう。
この音盤、素晴らしいです。
きらめくメロディとリズム。トゥーサンの端正さと歌心が一見さらりと、実は濃厚に刻まれています。
プロフェッサーロングヘアを弾くトゥーサン。フェスを弾きながらもトゥーサン以外の何者でもないのが、なんとも美しい。
激しくファンキーに弾かずとも溢れるビート。いぶし銀と言われそうな渋いサウンドなのに手触りは親しみやすく流石ヒットメーカー!という感じです。
大半がインストゥルメンタルなのにダレず飽きません。BGMにしようとしても耳にひっかかる。
フェスのような「大衆音楽の忍術」とでも言うような摩訶不思議なマジックがあるわけではないけれど、トゥーサンの端正なピアノサウンドにも特別な魔術があるのがよくわかります。
ひっかかって、つんのめって踊らせるわけじゃなく、音楽術を華麗に駆使して人の心と身体を浮き立たす、揺らす。
当たり前ですが、トゥーサンもやっぱり魔術を持ってたんだなと改めて思いました。
アラン・トゥーサンをまったく聴いたことのない人が買うアルバムではありませんが
アルバムや楽曲にたくさん親しんで来た方には(もう皆買ってるかもしれませんが)購入をお薦めいたします。
もっと早く買うべきでした〜!