とある科学シリーズ新書の新刊に、微積分の啓蒙書があります。ふんふんと読んでみましたが、なんだか高校の参考書の感じでした。著者に見覚えがあると思ったら、過去に統計関係の啓蒙書でさんざんお世話になった方で、本年90歳みたいです。
前半というか、大半が微積分の式の操作の話で、だから高校の感じがしたみたいです。あくまで私の感想では、この部分は英語の構文の授業に似ていて、知らないよりは知っている方が良いとは思うものの、実技の観点からはやや冗長と思います。構文にいきなり入るよりは、不定冠詞、定冠詞、冠詞無しでどのようにニュアンスが異なるだとか、現在分詞と動名詞はどこが違うとか、副詞の位置ははっきり決まっているのか、とかbyとwithはどう使い分けるのか、とか。
最後の方で待望の微分方程式が出てきて、ちゃんと2階の微分方程式の話になったと思ったら、途切れてしまいました。ここは工学的にはとても重要な部分で、ところが、高校レベルの微積分では歯が立ちそうも無い、と正直に述べられていて、積分表に載っているような公式はほぼ匠の技だとか。ああ、やっぱり、と思うと同時に、ここは需要が大きいので、だったら現場ではどうするのだと。
もちろん、実用的には計算機の出番です。数式で追いつかないので、実際に数値計算してみる、ということ。もちろん、著者は実技の方なので、その話も出ています。2階の微分方程式ですから、積分器を2機直列接続して、適当にフィードバックします。そう、これで不可思議にも振動解などが出てきます。アナログコンピュータの出力が印象的で、今なら、そうですね、表計算ソフトで逐次計算させてグラフ表示とか。
それと今なら非線形のソリトン解とかの紹介も必要な気がします。
それと、この年代の著者に私が求めるのなら、歴史的経緯です。現在の高校~大学初年度の数学教育は、この微積分と線形代数に集約されています。しかし、これは20世紀前半の大量生産時代、電子機器の時代に大量の技術者が必要とされたから、猫でも理解できるレベルの実用数学の整理が必要だったからだと、私は理解しています。
現状の贅沢と言えるほどの科学・技術世界を見る限り、それは間違いではなかったです。しかし、ここで古典がすっ飛んでしまいました。古典とは何か。ニュートンも、オイラーも、ガウスも、多分ラマヌジャンも、いわゆる無限級数に注目していました。西洋数学の発展の一つは、ここにあると、私は思います。とにかく、その成果は膨大なのです。
ちなみに、我が国の江戸時代初期の和算でも算木を使うと、直接の目的の連立方程式だけで無く、無限級数が扱えたので、一瞬ですが西洋数学に追いついたというか、一部は追い越したみたいです。その後は何だか難しい幾何学に向かった感じです。