科学新書シリーズの最近の刊です。三体問題は物理の力学の話題で、元はニュートン力学ですから、リンゴがなぜ落下して、しかし空に浮かぶ地球の月はなぜ落下しないか、とかの話。
著者は理論物理学の教授らしく、専門は一般相対性理論下のマクロな力学のようです。ですから、本書の前半はニュートン力学下の三体問題なので、ここが基礎にはなっているものの、著者自身がいささか退屈だったみたいです。ところが、後半の一般相対性理論の所に来ると調子が乗ってきて、すばらしい解説書になったと思います。
具体的には224ページの8の字軌道で、リサージュ図形のような、ええと、多分私はこの図形の名称を知っているはずなのですが、とっさには思い浮かばないです。いわゆるレムニスケート(p169)とは印象が全く異なります。
アインシュタインの一般相対性理論の方程式の話なので、私がより関心のあるプランク長程度のスケールの重力理論、つまり超弦理論に少なからずのヒントをもたらしていると思います。なので、この手の問題に関心のある方にはお勧めです。
やっていることは電子計算機の計算による軌道計算です。手法もいわゆる天文学の摂動法で、王道というか主流そのもの。私としては、もう少し計算内容に触れて欲しかったです。普通のIEEE倍精度浮動小数点演算で充分なのか、多倍長でないと話にならないとか、途中で数式処理を使うので、無限多倍長(メモリが追いつくまで)の2整数による無限精度の分数が入っているとか。
一般相対性理論が出てくると、力学の数式が手に負えないくらいに複雑になるそうです。ところが出てくる解は分かりやすいらしく、もちろん、普通に考えてからくりが隠れているはずです。私の今の感触では対称性に注目すれば良いと思いますけど、詳細はとっさには出てきません。数学者のJH コンウェイ氏の主要著作がヒントになると思います。
もう一つは、元のニュートン力学が不気味に思えてくること。力学の三法則でしたか、この世界では絶対時間と絶対ユークリッド空間があって、物質は動いているのですが、その情報は時間0で全空間に伝わります。こう表現すると、かなり気味悪いと思います。
有限時間が入るのはマックスウェルの電磁方程式で、ここから特殊相対性理論が出てきて、化学など普通の量子力学から航空機や宇宙船などの普通の物体の運動までカバーします。しかしさらに、実際の世界はそうはなっていない、ということ。