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山の神にお供して歩きつづける、ある山のぼら~の記録。ネイチャー、冒険の本もとりあげるよ。

元気をもらえる昆虫学者のエッセイ『バッタを倒しにアフリカへ』

2017-06-11 | 山・ネイチャー・冒険・探検の本

 『バッタを倒しにアフリカへ』前野ウルド浩太郎(光文社新書)

カバーと名前で、ふざけてると思っていた。どんだけ変人なんだろうという興味がまず首をもたげてきた。でもアフリカのモーリタニアにフィールドワークに行くくらいだから、すごい行動力の持ち主であることは確か。そしてさまざまな困難にぶちあたって、たいへんな思いをしたのだろうから、面白い話が満載なのだろうと期待感いっぱいでページを繰り始めた。

前野氏は、神戸大学で博士号をとっているのだが、なかなか安定した研究職に就けないでいた(今もそうらしいが)。研究者のポストは限られていて、定年などでアキが出ないとそもそも可能性ゼロだし、彼と同じ立場のポスドクが非常に多く、熾烈な椅子とリゲームを繰り広げているのだ。そんな彼がとりあえず選んだのは、というか選ばざるを得なかったのは、やりたい研究に邁進することだ。どこからであれ、研究費を出してくれるのであれば、それをもらい研究を続けて論文を書く。論文を書けば、実績として認められ、いずれは収まるべくところに収まれるのではないかと期待を抱いて。

幸運にも研究費を得られた彼は、家族や仲間に別れを告げ、サバクトビバッタの生態を調べるためにモーリタニアへ向けて出発する。このバッタは、大量発生して、アフリカの農作物を食い荒らす害虫だ。本の中に出てくるけれども、大発生時には、空一面、地平線の彼方までこのバッタで埋めつくされるほどすさまじい。

モーリタニアでの彼の生活は、過酷を極めた(本人はそう思っていないようだが)。貧困のなか生活するアフリカの人たちとの文化や習慣のギャップ、気候(研究のフィールドは寒暖差の大きい砂漠)、言葉(モーリタニアの公用語はフランス語)、政情不安……次々に問題が噴出するけれども、彼の日々の生活に悲壮感はない。あっけらかんと問題を乗り越えていく。

それは強力なサポートをしてくれた人たちの存在があったからこそだ。サバクトビバッタ研究所のババ所長や、専属ドライバー兼研究補助を担ってくれた相棒、ティジャニ。彼はほんとうに愛されるキャラなんだろうね。コトあるごとに周囲のヘルプで何とかなってしまう。当然彼自身のバイタリティもあるのだろうけど。

後半のエピソードに出てくる、バッタ駆除を最優先する研究所のスタッフに、バッタの生態を見極めたいから、すぐに駆除しないでくれと言うのには感心した。現地の人にとってみれば、放っておけば、農作物を食い荒らすのだから、一刻も早くバッタを全滅させたいのが心情。そこへもってきて、駆除するまでに猶予をくれというのだから。この場面で彼はある工夫をしている。それはモーリタニア人垂涎のごちそう、ヤギをプレゼントしている。これが功を奏して、コータローのためなら、少し待つくらいヨシとしようと、ババ所長以下皆そう思うようになった。

そんなエピソード以外にも、ハリネズミに研究材料のバッタを食われたり(その後そのハリネズミを飼うことに)、バッタの大群を追って砂漠の地雷原にあわや踏み込みそうになったり、フィールドワーク中にサソリに刺されたりと、事件は次々に起こる。でも、彼はそんなことをものともせずに、研究を続けるエネルギッシュさを私たちに示してくれる。

ただいっぽうで、ニコ動に出演したり、母校で講演をしたり、マスコミにとり上げられて、浮かれてる話も出てくる。まあ、それは食うためだろうけどね。通読して、前野博士の苦労、そして努力、がんばりがいやというほど伝わってくる。応援してますよ!前野博士。

※ちなみにミドルネームの「ウルド」は、現地ではだれそれの子孫みたいな意味らしい。モーリタニアという国にとことんなじむために、このミドルーネームを使うことにしたとか。さすがに戸籍までは変えてないらしいが。

バッタを倒しにアフリカへ (光文社新書)
前野ウルド浩太郎
光文社

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