■The Dark Side Of The Moon / Pink Floyd (Harvest)
ロックの記録的な大ヒットアルバム「The Dark Side Of The Moon」と言うよりも、日本人には「狂気」と呼んで相応しいピンク・フロイドの大名盤です。
1973年春に発売されて以降、なんと741週もチャートインしていたという伝説は今も不滅でしょうし、もちろん評論家の先生方も発売直後から絶賛した大名盤に他なりませんが、正直に告白すれば、サイケおやじはピンク・フロイドが苦手です。
と言うのも、もうひとつの名盤とされる牛ジャケットのアルバム「原子心母 / Atom Heart Mother」が、私には今もって何が良いのか理解出来ず、またその前後の作品群も???
このあたりはピンク・フロイドが同じプログレ系のバンドであるキング・クリムゾンのようなテンションの高いアドリブと様式美の鬩ぎ合いによるスリル、あるいはイエスのような高度な演奏テクニックに基づいた完成度の希求という音楽性とは異なる、ある種のユルキャラっぽい和みや倦怠がサイケデリックロックのひとつの形態だとしても、私の感性には合っていなかったということでしょうか……。
ちょっと上手く表現出来ませんが、平たく言えば相性が悪かったんでしょうねぇ。
しかし、このアルバムだけは素直に聴けました♪♪~♪
もちろん自分で買ったものじゃなくて、友人が「最高~、最高~♪」というので、貸してもらって聴いたんですが、流石に最初の1回で、テープコピーさせてもう決意をしたほどです。
A-1 Speak To Me - Breathe
A-2 On The Run / 走り廻って
A-3 Time
A-4 The Great Gig In The Sky / 虚空のスキャット
B-1 Money
B-2 Us And Them
B-3 Any Colour You Like / 望みの色を
B-4 Brain Damage / 人は心に
B-5 Eclipso / 狂気日食
上記演目はアナログLP時代特有の片面ぶっ通しの構成になっている、如何にもプログレですが、それにしてもA面に針を落として、しばらくは無音が続き、心臓の鼓動と思われる響きから不気味な含み笑いと意味深な叫び声!?! まず、これが強い印象のツカミになっています。
そして気だるいメロディで歌われる「Breathe」は、モヤモヤした雰囲気の構築が、まさにピンク・フロイド流儀の「お約束」なんでしょうか、このムードがアルバム全体の中でモチーフ的に幾度か再登場するあたりが、実に上手いと思います。
と、後追いの「こじつけ」をする間もなく入ってくるのが、電子音と単調なリズムに導かれた「駆け足」で、これがスピーカーの左右を行き交い、次の瞬間、いろんな時計が鳴り響くという、実にハッさせられる展開は見事! これが「On The Run」から「Time」へと続くメドレーというわけです。そして、こうした説得力を増幅させるのが、最高に気持良いデイヴ・ギルモアのギターなんですねぇ~♪ 曲メロとしては「Breathe」のフェイクなんですが、数人の女性コーラスと力んだリードボーカルの対比から続く強靭なギターソロ!
あぁ、これにシビれなかったら、ロックを理解する能力が無いと言われてもっ!?!
で、さらに素晴らしいのが、続く「The Great Gig In The Sky」です。
前曲のムードをそのまんま引き継いで展開させる「泣き」のメロデイと女性コーラスのソウルフルで神秘的なスキャット、厳かにして神聖なピアノに導かれ、思わせぶりなメロディ展開の中で各種キーボードやギター、打楽器が決定的なムードを盛り上げていきます。
いゃ~、もう、これで完全に「分かった」ような気分にさせられるんですよねぇ♪♪~♪ まさにピンク・フロイドが一世一代の魔法が素晴らし過ぎます。
またB面は初っ端にピンク・フロイド流儀のハードロック「Money」配置され、グッと気分が高揚した後からは、A面の流れを踏襲したフィール・ソー・グッドなムードが繰り返され、終盤の盛り上がりが感動的な大団円が提示されるのです。
あぁ、わかっちゃいるけど、やめられない!?! ですよ♪♪~♪
失礼ながらピンク・フロイドは演奏力に長けたグループだとは思いませんが、当時のレギュラーだったデイヴ・ギルモア(g,vo)、リック・ライト(key,per)、ロジャー・ウォーターズ(b,vo,g)、ニック・メイソン(ds,per,key) の4人が各々の役割分担をきっちりとこなして作り上げていく楽曲は、その波長と方向性さえ合っていれば、これだけの分かり易い大作を作り上げて当然の実力です。
そして、今でも問題になるのが、この「狂気」というアルバム邦題でしょう。
あくまでも私見ですが、原題にある「Moon = 月」は西洋において「不吉なもの」の象徴であり、また同時に「神聖」ものという感覚ですから、そこに神秘性や残酷な美しさを重ね合わせても違和感がないのでしょう。そうしたイマジネーションがあればこそ、例えば「虚空のスキャット」での恐ろしいばかりの美しさとか、B面終盤の3曲メドレーにおける、あえて甘美な幻想を自ら打ち砕いていくかのような目論見が成功したんじゃないでしょうか。
聴いていくうちに、アルバム全体で暗示されるのが「狂気」という解釈だとしたら、それはそれで正解なのかもしれません。
ということで、本日は完全に独善的な内容に終始するばかりで、申し訳ございません。
最後になりましたが、掲載した私有盤は私が1979年に初めてイギリスへ行った時、現地で入手してき来た中の1枚ですが、既に述べたように売れまくっていたアルバムだけに、中古屋では過剰在庫の捨値でした。
このあたりは1980年代の我国中古盤市場と共通する問題点というか、実際、ピンクレディやカーペンターズ、アバやドナ・サマーあたりLPが3枚千円とかいう箱の中に放置されていた状況と似ています。
しかし、これほどの所謂名盤が中古とはいえ、そんな値段で売られていたのは嬉しくもあり、哀しくもありました。
これもベストセラー盤の宿命なのでしょうか……。