■Get It On / T.Rex (Fly / 東芝)
1970年代前半、グラムロックというブームがあったのも今は懐かしい話になりましたが、その花形グループだったのが、マーク・ボラン率いるT.レックスでした。時代はちょうどビートルズが分裂していた後ということもあり、その頃のT.レックスの人気は我国でも爆発的といって過言では無かったと思います。
で、本日ご紹介のシングル曲「Get It On」は、その大ブレイクのきっかけになったシンプルで楽しく、それでいてミステリアスな物悲しさも秘めた永遠のR&Rヒット♪♪~♪ その基本は本当に簡単なエレキギターのリフとブギのリズムなんですが、意外なほどにヘヴィなビートとグッと濃厚なストリングが彩るアレンジを得て、マーク・ボランの倦怠して不思議な熱気を孕んだボーカル、さらに自棄的なコーラスが最高の化学融合を聞かせてくれますから、これがヒットしなかったら大衆音楽の神様が激怒するという傑作になっています。
実際、聴くたびに新しい発見があるというか、何気なく登場するサックスのプロー、ダサダサ寸前の手拍子、中性的なコーラスとわざとらしい掛け声シャウト! もはや細部にわたって絶品のプロデュースの結晶が、この曲でした。
そしてご存じのように、主役のマーク・ボランは外人にしては華奢な身体つきに濃厚なメイク、さらに気だるそうに弾くギターからは煌めくビートにハッとするほど新鮮でシンプルなキメのリフを放出するという、まさに新感覚のロックヒーロー像を確立させたのです。
当然ながら我国の音楽マスコミは、こぞってT.レックスをイチオシでしたし、ラジオの洋楽番組ではチャート上位の常連となり、レコードはバカ売れでした。
それが昭和47(1972)年頃の出来事で、こうして時代の寵児となったマーク・ボランは、実は下積みも長く、今日ではそうした音源も復刻されていますし、全盛期の未発表トラックも様々に発表されていますが、それというのもマーク・ボラン本人が1977年9月、交通事故で呆気なく天国へ召されてしまった悲劇と無関係ではありません。
言われているように、グラムロックとは退廃の美学であり、享楽と虚無の狭間で輝く刹那の音楽だとすれば、マーク・ボランの短い人生も神様の思し召しと納得する他はないのでしょうか……。
ちなみにこの「Get It On」を出していた頃のT.レックスはマーク・ボラン(vo,g)、ミッキー・フィン(per)、スティーヴ・カーリー(b)、ビル・リジェンド(ds) という4人組ながら、レコードでは鬼才エンジニア兼プロデューサーのトニー・ヴィスコンティと共同作業のように熱気溢れる活動を繰り広げていましたから、続いて連発されるヒット曲の数々や制作発売されたアルバム群にはムンムンする全盛期の勢いが充満しています。
もちろんグラムロックを象徴するギンギラギンのファッションとメイク、スタイリッシュなライプステージの佇まいは、同時期にブレイクしたディヴィッド・ボウイやアリス・クーパーにも感じられますが、何かしらマーク・ボランには、さらに強い破滅の美学が感じられました。
しかし、まさかそれが早世だったとは、知る由もなく……。
最後になりましたが、この日本盤シングルのジャケ写は最低ですよね。今日までのグラムロックのイメージが完全に否定され、マーク・ボランの表情も見えなければ、本来はスティールギターを弾いている場面なんでしょうが、場末の工場で手作業をしているような構図には??? 当然ながら、これ以前に我国で発売されていたT.レックスのレコードと比べても、失礼ながら正視できないほどの酷さです。
サイケおやじにしても、レコード屋でこれを手に取った時には、雑誌のグラビア等で見知っていたT.レックスの姿とはあまりにも違いすぎていて、愕然としたほどです。察すれば女性ファンの心情は如何ばかりか……。
ただし、それでも「Get It On」のシングルは良く売れたそうですよ。つまりそれだけ楽曲の魅力が絶大だったというわけです。