■Cu-Bop / Art Blakey & The Jazz Messengers (Juilee)
世の中には浮き沈みがあって当然ですが、しかしやっぱりそこに強いリーダーがいるのといないのとでは、その場の安心感や後々の展開が違ってしまうのも、また当然でしょう。
例えばモダンジャズの世界では名門バンドとして君臨したジャズメッセンジャーズにしても、1950年代中頃の大ブレイク期から主要メンバーが抜けた所謂暗黒時代を経て、再びファンキーの炎を燃え上がらせた1950年代末頃までの流れを鑑みれば、如何にアート・ブレイキーが有能なリーダーであったか、サイケおやじは感銘を受けるばかりです。
それはとにかくジャスメッセンジャーズという看板を守り抜くという執念(?)以上に、ジャズの本流から外れない活動に終始する信念の強固さであったと思います。
そこで本日ご紹介のアルバムは、既に述べたとおり、ホレス・シルバーが中心メンバーを引き連れて独立した後の暗黒時代の中では、異色の傑作となった裏名盤!?
録音は1957年5月13日、メンバーはビル・ハードマン(tp)、ジョニー・グリフィン(ts)、サム・ドッケリー(p)、スパンキー・デブレスト(b)、アート・ブレイキー(ds) という当時のレギュラーにサブー・マルチネス(per) が臨時参加した特編メッセンジャーズが今回のウリになっています。
A-1 Woodyn' You
ディジー・ガレスピーが書いたモダンジャズの聖典のひとつですが、ご存じのとおり、この偉大なトランペッターは1940年代のビバップ期から既にラテンミュージックとジャズを融合発展させんと奮闘していましたから、その当時に作られたこの曲にしても、チャカポコビートを叩き出すサブーの存在が尚更に大きく効果的!
もちろんサブーがリアルタイムでディジー・ガレスピーのバンドに参加していた事実は大きなポイントであり、時にはアート・ブレイキーも参画していた過去の真相が、このセッションでは見事な成果として楽しめるのでしょう。
ですから冒頭から飛び跳ねるビートは所謂アフロキューバンという、実にウキウキするグルーヴを作り出し、アップテンポのテーマ提示から続けて飛び出すビル・ハードマンの詰め込み型のアドリブは、失礼ながら予想外に大健闘ですよ♪♪~♪
そして小型ホレス・シルバー的なサム・ドッケリーのピアノとジョニー・グリフィンの火の出るような猛烈プローが炸裂すれば、そこは完全にハードバップの桃源郷!
これを「暗黒時代」なんて決めつけちゃ~、親分のアート・ブレイキーはもちろん事、モダンジャズの神様が怒りますよねぇ~~。当然ながらクライマックスは親分と助っ人サブーの打楽器対決が短いながらも用意されています。
A-2 Sakeena
いゃ~、これまたラテンミュージック特有のちょいとせつないエキゾチックなテーマから、いきなり爆発的なジョニー・グリフィンのテナーサックスが飛び出すという、実に凄い演奏が堪能出来ます!
あぁ、このあたりは何度聴いても、本当に最高ですねぇ~~♪
ジョニー・グリフィンもエキセントリックな表現とハードなジャズ魂を遺憾なく発揮し、途中では例によって感極まったような息継ぎの奇声も良い感じ♪♪~♪
さらに何時もは些かトホホ系のサム・ドッケリーが珍しくも大ハッスルしていますし、安定型のビル・ハードマンにしても、ここではツッコミも冴えわたりですから、クライマックスで展開されるアート・ブレイキー対サブーの打楽器合戦も決して飽きることは無いでしょう。
否、むしろそれがあればこそ、この演奏は完結するという大団円がジャズ者の心を揺さぶるのだと確信させられるのです。
ちなみに曲は、親分が自分の愛娘の名前から作った有名なオリジナルで、おそらくはメンバー全員が終盤おいて打楽器を手に祝祭的ムードを盛り上げていくあたりは、ジャズメッセンジャーズならではの「掟」というところでしょうか。
実に血沸き肉躍る仕掛がりがたまりません♪♪~♪
B-1 Shorty
これまたアップテンポで繰り広げられるハードバップは、如何にもジョニー・グリフィンのオリジナルらしさが全開ですが、さらにチャカポコの打楽器が加わっての演奏は熱に浮かされたような仕上がりとなって、そこが確実にジャズ者を熱くさせると思う他はありません。
とにかく打楽器が導くテーマからサム・ドッケリーのピアノが飛び出す瞬間の熱気、燻銀の欺瞞を打ち砕かんと奮闘するビル・ハードマン、そしていよいよ登場するジョニー・グリフィンの我儘な存在感は強烈! こうした唯我独尊性が、実に良いんですよねぇ~~~♪
B-2 Dawn On The Desert
そしてオーラスは、これまたタイトルどおりに不思議なエキゾチック感が横溢したテーマメロディとバンドアンサンブルの妙が楽しめるという、これはこれで当時のモダンジャズでは最先端の表現だったんじゃないでしょうか。
サブーのコンガを効果的に使ったグルーヴィな4ビートは、随時倍テンポの展開も織り交ぜながら進行するという定番的なシナリオになっていますが、その変化の瞬間に発生するスリルには、分かっていてもノセられると思います。
また気になる各人のアドリブパートでは、ミュートを使ったビル・ハードマンにちょいと味わいが不足している感じが勿体無いところではありますが、絶妙の思わせぶりと相反する熱血の黒っぽさが激ヤバのジョニー・グリフィン、グイノリのピアノとベースの奮闘も頼もしいばかり♪♪~♪
ということで、これはタイトルどおり、アフロキューバンとビバップの融合路線が見事に成功した楽しいアルバムです。
それはジャズ史的に決して云々される成果ではないかもしれませんが、同じ視点に立てば、当時のジャズメッセンジャーズには有能な参謀格のミュージシャンが存在しておらず、それゆえにリーダーのアート・ブレイキーが完全なるワンマン体制だったと思われますから、それでも途切れることの無かったレコーディングセッションの賛否が如実に表れるのも当然だったと思います。
そしてアフロ&ラテンのリズムに集中して自己のジャズ魂を解放させんとする、如何にもアート・ブレイキーの「らしさ」が見事に全開したのは、レギュラーメンバーの何時にも増しての大ハッスルとサブーというジャズにも充分対応出来る楽器奏者の参加による狙いがバッチリ!
こういう企画が成功裏に残されたのも、アート・ブレイキーの強固なリーダーシップがあればこそでしょう。
それが不思議と評価されず、特に我国では無視に近い存在へと追いやられているのは、個人的に納得しておりません。
何時の世も不遇な時こそ、リーダーの強さがあれば、それを乗り越えられるという証明的なアルバムとして、今こそ日本のジャズ者は率先して楽しむアルバムだと思います。
なにしろ、あの脱力した現総理でさえ、過度な自粛は止めるように国民へ伝えたばかりですからねぇ~。
節電も考慮しなければならないはずですが、時には大音量で、この祝祭ムードに溢れたアルバムを鳴らすのも、許されるかもしれませんよ。