OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

Bags Meets Jazztet

2011-04-02 13:18:55 | Jazz

Bags' Opus / Milt Jackson (United Artists)

お知らせしたとおり、仕事関連で被災地へ行ってきました。

そこは頻繁に報道されている甚大な被害が出た地域ではありませんが、それでも現地の状況は創造を絶する酷さで、衝撃を新たにした次第です。

あらゆる物資や人材の不足は言うまでもないと思いますが、一番足りないのは現地と中央政府の意思の疎通だと痛感させられましたですねぇ……。

何事も自分の一存では決められないのはお役人衆の習性ではありますが、それを良い方向へと決定決断するべき政治家の先生方が、あまりにも優柔不断! はっきり言えば無能な烏合の衆としか思えませんでした。

そして自分の現状を鑑みれば、とりあえず自分の生活の場へ戻れば、普通の日常が存在しているという幸せを感じるのですから、あれやこれやと不平不満や贅沢は敵なのでしょう。

さて、そこでこの電力不足の非常時、大音量でオーディオを鳴らすなんてのは些かどころか、大いに憚られるわけですが、しかしジャズはフルバン物やフリーはもちろんの事、ハードバップ~新主流派等々、とにかく浴びるように聴かないと満足出来ない特質が悔しいところ……。

それは住宅事情の厳しい我国において、ジャズ喫茶という稀有な文化が栄えた歴史でも証明されているわけですが、同じような特性が顕著なハードロックやヘビメタと異なるのは、モダンジャズには小さな音でも楽しめる名演レコードが確かに存在するという事です。

例えば本日ご紹介のアルバムはミルト・ジャクソンの代表作にして、ハードバップの人気盤なんですが、参集したメンツはジャズセンスに秀でた名手揃いですし、なによりも琴線に触れまくりというプログラムが大いに魅力の1枚だと思います。

録音は1958年12月、メンバーはミルト・ジャクソン(vib)、アート・ファーマー(tp)、ベニー・ゴルソン(ts)、トミー・フラナガン(p)、ポール・チェンバース(b)、コニー・ケイ(ds) ですから、まさにMJQ+ジャズテット的な、今では夢のオールスタアズ♪♪~♪

A-1 Ill Wind
 普通ならば景気の良い演奏がド頭に置かれて当然のハードバップ盤において、これは意表を突かれたというか、スローテンポで演じられる歌物スタンダードなんですが、流石はパラードの天才として崇められるミルト・ジャクソンですから、その歌心満点のヴァイブラフォンが全篇で完璧な主役を演じています。
 なにしろテーマの変奏はもちろん、アドリブの中でも原曲メロディより素敵なフレーズが頻々と綴られるんですから、たまりませんねぇ~♪
 ちなみにここではホーンが参加していない事により、それが尚更に堪能出来るという狙いがジャストミートだと思います。

A-2 Blues For Diahann
 そして続くのが、如何にもこのメンツならではのクールなファンキーハードバップで、案の定、幾分淡々としたリズム隊の4ビートグルーヴに対し、得意のグイノリで迫るベニー・ゴルソンの暑苦しさとアート・ファーマーのジェントル&ソフトなアドリブが絶妙の存在感を示しています。
 しかしトミー・フラナガンはイントロから相当に力んだ雰囲気が強く、それはアドリブパートや伴奏の溌剌とした感じとか、いゃ~~、やっぱり何時もながらに素敵ですよねぇ~♪ それに引っ張られるように熱くなっていくドラムスやベースも、当然の仕儀じゃないでしょうか。本質的に鬱陶しいポール・チェンバースのアルコ弾きによるベースのアドリブさえも、ここでは自然なノリが良い感じ♪♪~♪
 ですから、いよいよ登場するミルト・ジャクソンがコニー・ケイとのソロチェンジで構成していく演奏の展開が、実にモダンジャズの醍醐味に溢れているのは当然が必然なのでした。

A-3 Afternoon In Paris
 ミルト・ジャクソンの盟友たるジョン・ルイスが書いた名曲ですから、コニー・ケイも含めて、失礼ながらMJQでも演じていた「慣れ」も懸念もされるわけですが、やはり実力派のメンバー揃いなればこその軽妙で、しかも黒い4ビートジャズの真髄が披露されています。
 特にちょいと刺戟的なイントロから味わい深いテーマアンサンブルのジャズテット的な解釈は、なかなか秀逸ですよ。それゆえに続く各人のアドリブが冴えまくりという結果も充分に納得されるんじゃないでしょうか。
 個人的には十八番のフレーズしか吹かないアート・ファーマーに心惹かれます。

B-1 I Remember Clifford
 説明不要、ベニー・ゴルソンが早世した天才トランペッターのクリフォード・ブラウンを偲んで書いたモダンジャズの人気曲ですから、リー・モーガンを筆頭に数多く名演が残されていて当然とはいえ、ここで披露されるミルト・ジャクソンのバージョンも侮れません。
 なによりもジャズテットがど真ん中の所謂ゴルソンハーモニーと歌心満点のヴァイブラフォンが絶妙の音色と響きを醸し出し、見事にモダンジャズの魅力を演出しているんですねぇ~~♪
 おそらくは、このトラックゆえにジャズ喫茶ではB面が定番で鳴らされていたと推察しておりますが、これはお茶の間でも同様だったはずで、個人的にも愛聴して止みません。

B-2 Thinking Of You
 あまり有名では無いスタンダード曲ですが、それを真摯に歌いあげるアート・ファーマーのトランペットが最高に心に染み入るパラード演奏の決定版♪♪~♪
 正直、前曲からの流れでは、こうしたスローテンポが続くとダレるのが一般的なんですが、それは全くの心配ご無用! むしろ脇役に徹したミルト・ジャクソンの燻銀の魅力も堪能出来ますから、聴くほどに虜になること請け合いです。

B-3 Whisper Not
 そしてオーラスが、これまた憎たらしいほどに嬉しい選曲♪♪~♪
 優れたリズム隊が提供する、幾分淡々とした4ビートは、このセッションを通しての特徴であり、そこから滲み出るクールなファンキームードがアルバム全体の完成された魅力の秘密だと思うのですが、この演奏は証拠物件として、まさに決定的でしょう。
 これまたベニー・ゴルソンが書いたお馴染みの愁いに満ちたテーマメロディが、参加メンバー其々の歌心優先モードで解釈されていく時、そこにはジャズ者にとっての至福の桃源郷が現出するといって、過言ではありません。
 なによりもジンワリとした、このミディアムテンポのモダンジャズグルーヴこそが、唯一無二ですよねっ!

ということで、決してガンガン突進するハードバップ盤ではなく、むしろソフトパップとも言うべき仕上がりは、ちょいと異質の黒人ジャズ作品かもしれません。

しかし、これは絶対にリアルタイムの白人ジャズプレイヤーには表現することの出来なかった世界じゃないでしょうか? ここで濃密に演じられたソフトなお洒落フィーリングこそ、モダンな黒人音楽のひとつの成果だと思います。

コメント
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