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OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

ウォルター・デイビスのハードバップ一直線

2010-06-04 16:55:22 | Jazz

Davis Cup / Water Davis Jr. (Blue Note)

今の日本ほど正統にして真っすぐなものが求められている時期はないでしょう。

奇を衒うことも、人気取りをする必要もないことは、国民の皆がわかっていると思います。

ですから私が、そんなこんなの気分の中で、このアルバムを取り出してしまったのは当然が必然です。

とにかく演じられているのは実直な力演ハードバップ!

そしてウォルター・デイビスにとっては、モダンジャズ全盛期に残した唯一のリーダー盤として最初で最後(?)の大傑作になりましたが、まさに時代の勢いとピュアなハードバップ魂が満喫出来るアルバムでしょう。

録音は1959年8月2日、メンバーはドナルド・バード(tp)、ジャッキー・マクリーン(as)、ウォルター・デイビス(p)、サム・ジョーンズ(b)、アート・テイラー(ds) という、これで文句を言ったらバチアタリな面々です。しかも演目は全てウォルター・デイビスのオリジナル!

A-1 'Smake It
 とにかく初っ端から気持が良すぎるアップテンポの直球ハードバップ! ちょいと幾何学的なテーマメロディはビバップの正統を受け継ぐものでしょうし、先発でアドリブに突入するウォルター・デイビスのピアノスタイルはパド・パウエル直系がモロ出しです。
 しかも背後にはテンションの高いリフが攻撃的に配され、それが如何にもドナルド・バード&ジャッキー・マクリーンという熱血コンビの存在を際立たせていますねぇ~♪
 ですから滑らかにブラウニー系のアドリブフレーズを積み重ねドナルド・バード、その最終部分に待ち切れず、激しく突っ込んでしまうジャッキー・マクリーンの最初のワンフレーズこそ、ゾクゾクするほど個性的な「節」が全開していますから、後は一気呵成の激情大会!
 あぁ、これがハードバップの醍醐味でしょうねぇ~~♪
 本当にたまりませんよ♪♪~♪
 演奏はクライマックスで短いのが勿体ないアート・テイラーのドラムソロが用意され、そこからラストテーマに返すという真実の王道が楽しめるのでした。

A-2 Loodle-Lot
 ミディアムテンポでモダンジャズのムードが横溢したテーマメロディは、幾分の煮え切らなさが聴き飽きないポイント!? そう言っては贔屓の引き倒しでしょうねぇ。
 しかしそのあたりのモヤモヤを吹き飛ばしてくれるのが、ジャッキー・マクリーンの野太い泣き節が全開のアドリブです。例によってギスギスした節回しが、実にたまらないんですよ。
 そしてウォルター・デイビスの良い意味での没個性ピアノ、また王道を行くドナルド・バードのトランペットが、この時代の空気までも封じ込めたブルーノート特有の録音&ミックスで今でも楽しめるのですから、その普遍性の偉大さには脱帽するばかりです。
 メリハリの効いたドラムスとベースの安定したビート感にも感謝!

A-3 Sweetness
 これはスローな哀愁系の曲ではありますが、やや、せつなさが足りません。
 そう思うのが正直な気持じゃないでしょうか。
 まあ、このあたりがデューク・ジョーダンとウォルター・デイビスの人気の差の証明と言っては失礼かもしれませんが、それを救うのがドナルド・バードの素直な歌心に満ちたアドリブで、テーマ曲に秘められた刹那の味わいを濾過したような純粋さが良い感じ♪♪~♪
 う~ん、こうなるとジャッキー・マクリーンが吹いてくれないのは、残念……。

B-1 Rhumba Mhumba
 誰もが一度は耳にしたであろうラテン音楽のキメを流用した、思わず失笑のテーマが最高の極みです。あぁ、これもハードバップの楽しみのひとつでしょうねぇ~~♪
 そしてこういう臆面も無い設定こそ、ジャッキー・マクリーンにはジャストミート! ここでの楽しげに歌いまくったアルトサックスは和みの絶好球でしょう。またウォルター・デイビスの棒読みの台詞のようなピアノ、さらにインスタントソーダ水の如きドナルド・バードのトランペットからは、懐かしくも甘く、せつない気分が強く滲み出て来るような気分にさせられるんですから、時の流れは偉大です。
 そうした後追い鑑賞にも、じっくり耐えられるのが、この演奏とアルバムの魅力かもしれませんねぇ。

B-2 Minor Mind
 如何にもこのメンツならではの燻ったマイナー調のハードバップ♪♪~♪
 こうした味わいこそ、ジャズ者にとっては掛け替えの無いものだと思います。
 ミディアムテンポで力強いリズム隊のグルーヴは、実にメリハリが効きまくっていますから、何時も同じようなフレーズばっかり弾いているウォルター・デイビスのアドリブにしても、そこで醸し出されるムードは決して現代では再現不能でしょう。
 さらにジャッキー・マクリーンの内に秘めた炎の燃え滾り、またナチュラルに黄金期を謳歌するドナルド・バードも、実に当たり前の快演というところがニクイばかりですよ。

B-3 Millie's Delight
 元気溌剌のハードバップこそ、このアルバムのオーラスには相応しい!
 そんな思いの中で青春の情熱を迸らせるジャッキー・マクリーンが、いきなりの痛快至極です。さらにドナルド・バードの淀みないアドリブの見事さも、それゆえにかえって物足りないと思うほどですから、この時代の贅沢には羨ましくなりますよ。

ということで。実はジャズ者の琴線に触れるような美味しい曲も無く、またジャズの歴史云々という重要盤ではありませんが、こういうアルバムこそが愛好者には嬉しい1枚だと思います。

とにかく基本に忠実という、なかなか難しいことに真正面から取り組んだ姿勢は、あの人類の起源に関連するミッシングリンクようなウォルター・デイビスの風貌共々に強いインパクトがあるのです。

こういうものが聴かれ続けている間は、ジャズも死なないでしょう!

新しいリーダーになった人には、そういう点を心して欲しいものです。

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ウェスの映像は尽きない喜び

2010-05-29 16:59:45 | Jazz

Wes Montgomery In Europe 1965 (Imro-Jazz = DVD)

これはかなり以前にゲットしていたブツですが、なんかタイミングが合わなくてご紹介していませんでした。

内容はウェス・モンゴメリーが1965年に訪れた欧州巡業の日々の中、出演したテレビ番組をふたつ収録しています。

そのメンバーはウェス・モンゴメリー(g) 以下、ハロルド・メイバーン(p)、アーサー・ハーパー(b)、ジミー・ラブレイス(ds) という当時のツアーバンドですから、纏まりの良さは文句無し!

☆1965年3月25日、イギリスでのテレビショウ (約29分)
 01 Yesterdays
 02 Jingles
 03 'Round Midnight
 04 Twisted Blues
 05 Full House

 このパート以前から何度も商品化されている有名なセッションで、例えば最近でも「Wes Montgomery All Stars Live In Hamburg 1965 」に収録されていました。
 画質や音質のリマスターも大差は無いと思いますが、まあ、このあたりは十人十色の好き嫌いかもしれません。
 もちろん演奏はモダンジャズの王道を行く極上の展開ですよ。特にグルーヴィなワルツビートがイカシている「Full House」は、何度観ても最高ですねぇ~♪

☆1965年3月末頃、ブリュッセルでのテレビショウ (約24分)
 06 Impressions
 07 Twisted Blues
 08 Here's That Rainy Day
 09 Jingles
 10 The Girl Next Door

 こちらは詳細なセッションデータが特定されていないようですが、演奏メンバーは前半と同じスタジオセッションのモノクロ映像で、このブツの本命です。
 私は初めて観ました。
 まず、何んと言っても期待してしまうのが、初っ端の「Impressions」でしょう。
 そして結果は強烈なアップテンポでブリブリに弾きまくるウェス・モンゴメリーの神髄! オクターブ奏法やコード弾きはもちろんのこと、単音フレーズでの運指の秘密もしっかりと確認出来ますよ。それと躍動的なリズム隊、特に疑似マッコイ・タイナーを演じるハロルド・メイバーンが憎めません。全く4分に満たない演奏時間が恨めしい!
 ちなみに画質は「A-」程度ですが、音質のリマスターはなんら問題の無いレベルだと思います。
 ですから、「Twisted Blues」や「Jingles」という、ロンドンセッションとのダブリ曲にしても、聴き&観較べが実に楽しいところなんですよ。それは演奏そのものばかりではなく、カメラワークや照明の味わいも含めてのものですから、画質や音質はロンドンセッションに軍配が上がるものの、演奏に関しては甲乙つけ難い充実度です。
 ただし「Twisted Blues」はテンポが幾分上がっている所為でしょうか、こちらの方がバンド全体に前向きな勢いが漲っている感じですし、「Jingles」ではアドリブソロに入る順番がウェス・モンゴメリーとハロルド・メイバーンで逆になっていること、そしてジミー・ラブレイスのドラムソロがあることで、ウェス・モンゴメリーのソロパートが短くなっているブリュッセルのバージョンに荒っぽさが顕著!?! つまり瞬発力がジャズ本来の瞬間芸へとダイレクトに繋がるエネルギーとなって、ここに記録されているように思います。
 また「Here's That Rainy Day」は、お目当てのボサノバ風の演奏ですから、ジミー・ラブレイスの気持の良いリムショットをバックに、スピーディなアドリブを披露するウェス・モンゴメリーの魔法のギターが楽しめますよ♪♪~♪
 う~ん、映像のカメラワークで指使いが確認出来ますから、思わずコピーしたくなって、きっと私は挫折するでしょうねぇ。もちろんハロルド・メイバーンの選ぶコードも全篇で興味深いと思います。
 ですからオーラスにしっとりと演じられる「The Girl Next Door」の味わいは、番組そのもののクロージングとして用いられている所為もあり、また格別♪♪~♪

ということで、映像作品としては時代性もあり、貴重度が優先されるものかもしれませんが、演奏だって凄いものが楽しめるのは言わずもがなでしょう。

実はウェス・モンゴメリーのこの時の巡業には、まだまだブートでしか出回っていない映像が幾つか残されています。そのあたりはネットを徘徊すれば、今では簡単に接することが出来るとはいえ、やはりオフィシャルとしてパッケージ化されるのが望ましいでしょうねぇ。お金を払う価値が、まちがいなくあるのですから!

最後になりましたが、今週の私は韓国への往復出張に明け暮れ、ご推察のように掲載していたプログ紹介記事はストックの流用でした。現実的には、ほとんどレコードやCD&DVDを鑑賞する時間も無くて、些かストレスが溜まっています。

ちなみに今の韓国は怖い緊張感がリアルに感じられますよ。

原因は、例の国際問題です。

我国もトップの妄想虚言や往生際の悪い言い訳、仲間割れなんかに拘っていないで、はっきりと現実に対処して欲しいものですねぇ……。

とにかくジャズでもエロスでも、楽しめる時に楽しんでおきましょうよ。 

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スティーヴ・キューン対ゲッツ&ブルックマイヤー組

2010-05-26 17:15:40 | Jazz

Stan Getz & Bob Brookmeyer Recorded Fall 1961 (Verve)

ジャズ史上屈指、白人テナーサックス奏者の最高峰、等々の称号は幾つあっても足りない偉人がスタン・ゲッツ! こう断言しても私は後悔しません。

しかもその人生には当然ながら波乱万丈で、悪いクスリの溺れていた時期も確かにありましたし、音楽面にしてもクール派のスタアとして脚光を浴び、ボサノバの大ヒットからはシャリコマ路線に踏み込み、さらにはモードや現代音楽、フュージョンにまで意欲的に取り組んだ姿勢は、時として批判は浴びても、今となっては残された音源の全てが素晴らしいとしか言いようがありません。

さて、本日ご紹介の1枚はタイトルどおり、ちょうどボサノバ期に入る直前の1961年秋に吹きこまれた、極めてモダンジャズな傑作! メンバーはスタン・ゲッツ(ts)、スティーヴ・キューン(p)、ジョン・ネヴス(b)、ロイ・ヘインズ(ds) という当時のレギュラーカルテットに盟友のボブ・ブルックマイヤー(v-tb) が特別参加していますから、気心の知れた中にも礼節と前向きな姿勢を旗幟鮮明にした好セッションが楽しめます。

A-1 Minuet Crica '61
 ボブ・ブルックマイヤーが書いたウキウキするようなワルツタイムのオリジナルで、曲タイトルの「メヌエット」に恥じない優雅なスンイグ感と歌心に満ちた演奏が繰り広げられています。
 その原動力は言わずもがなのロイ・ヘインズで、この名人ならではという、オカズが多くてメシが無いドラミングが痛快に新しいポリリズムを叩き出していますから、ホノボノとした歌心に徹するボブ・ブルックマイヤー、またクールでありながら躍動的なスタン・ゲッツも油断出来ません。
 そして、さらに素晴らしいのがスティーヴ・キューンの存在で、大御所2人に続いてアドリブを始める、その最初のワンフレーズが出た瞬間、そこには新しい風が吹いてきた感じが実に新鮮で、たまりません♪♪~♪
 もちろん、そのスタイルは所謂エバンス派なんですが、リアルタイムの時点でそのフィーリングを逸早く理解実践していたひとりとしての証明が、このトラックばかりでなく、アルバム全篇できっちりと楽しめますよ。ロイ・ヘインズとの相性も良い感じ♪♪~♪
 演奏はこの後、例によってお互いのアドリブ合戦で構築していくアンサンブルを聞かせる、まさにゲッツ&ブルックマイヤーが十八番の展開になりますが、このあたりは1950年代前半から続く「お約束」として絶対に欠かせず、嬉しくなるばかりです。

A-2 Who Could Care
 これもボブ・ブルックマイヤーのオリジナル曲で、静謐な浮遊感と心温まるメロディの流れに癒されます。いゃ~、それにしてもボブ・ブルックマイヤーの曲作りは侮れませんねぇ~♪
 ですからスタン・ゲッツも飛躍したフェイクは聞かせてくれないのですが、相当にしっかりとアレンジされた演奏展開には十分満足させられますし、思わずビル・エバンス!? と唸るばかりのイントロを披露するスティーヴ・キューンは伴奏も冴えまくり♪♪~♪
 これもジャズの魅力のひとつと、再認識です。

A-3 Nice Work If You Can Get It
 快適なテンポで演奏される歌物スタンダードの楽しさを満喫出来るトラックです。
 まずはボブ・ブルックマイヤーがハートウォームなアドリブフレーズを次々に提示すれば、スタン・ゲッツは何時ものクールなところは抑えつつ、ホノボノとしてフワフワなノリで呼応するというニクイことをやっています。
 そしてスティーヴ・キューンは、当たり前のようにビル・エバンスの物真似大会に徹するのですが、それは決して厚顔無恥ではなく、ジャズ者にとっては、思わずニヤリの至福じゃないでしょうか。私は好きです。

B-1 Thump,Thump,Thump
 これまたウキウキするしかないボブ・ブルックマイヤーのオリジナル曲ですから、作者に特徴的なモゴモゴした吹奏と歌心満載のアドリブの妙が最高に楽しめます。刺戟的なロイ・ヘインズのドラミングも凄いですよ。
 一方、スタン・ゲッツは悠々自適というか、正直に言えば、些か本調子では無いのかもしれませんが、それでも十八番の「ゲッツ節」を淀みなくキメるあたりは流石だと思います。
 しかしサイケおやじの耳をグッと惹きつけるのはスティーヴ・キューンのビル・エバンスしまくったアドリブで、実はジャス喫茶で最初に聴いたこのレコードの演奏は、この部分でしたから、完全にビル・エバンス!?! と思い込んで感動したほどの素晴らしさなんですよ♪♪~♪ しかも聴くほどにスティーヴ・キューンの個性らしきものの滲み出しが感じられるんですねぇ~♪
 あぁ、何度聴いても、良いものは良いですよ。
 微妙にナウ・ヒー・シングスなロイ・ヘインズのドラミング、また実直なジョン・ネヴスのベースワークにも好感が持てます。

B-2 A Nightingale Sang In Berkeley Square
 これも人気スタンダード曲とあって、スタン・ゲッツ中毒者には絶対の演奏になっています。なにしろスローテンポで夢見るようなテーマ演奏は、スタン・ゲッツでしかありえないテナーサックスの音色とボブ・ブルックマイヤーのホノボノフィーリングが完全融合♪♪~♪
 それはアドリブパートにも当然引き継がれますが、そんな区別云々は愚の骨頂でしょうねぇ。ただただ演奏に酔いしれていると、そこは桃源郷なのです。

B-3 Love Jumped Out
 オーラスは多分、バック・クレイトンのオリジナルらしいモダンスイングの新しい解釈というか、これまでもモダンジャズに懐古趣味のアンサンブルを取り入れてきたボブ・ブルックマイヤーの目論見が、ここでも試されたということでしょうか。
 些か悠長なスイング感は、ロイ・ヘインズの温故知新によって刺戟的なビートに変換されているように感じますが、肝心の親分ふたりがノンビリムード……。
 しかしストップタイムを意欲的に用いてくるリズム隊の刺戟策が効いたんでしょうか、中盤からは緊張と緩和のバランスも良好な名演として、素敵な大団円♪♪~♪
 ちなみにリズム隊だけのパートは、もちろん疑似ビル・エバンス・トリオですから、好きな人にはたまらない展開だと思いますよ。スティーヴ・キューンは言わずもがな、ここまで些か地味だったベースのジョン・ネヴスが執拗な伴奏とツッコミのアドリブを披露すれば、ロイ・ヘインズも先鋭のジャズビートで対抗するという素晴らしさ! このトリオだけのレコーディングがあればなぁ~♪ なんていう贅沢な我儘を言いたくなるのでした。

ということで、名盤ガイド本にはあまり載ることもないアルバムかもしれませんが、実際に聴いてみれば、この充実度は侮れません。特にスティーヴ・キューンというよりも、ビル・エバンス好きとでも申しましょうか、所謂エバンス派の原初的な発生が確認出来るという喜びは、何とも言えませんよ。また今でも無名なジョン・ネヴスの頑張り、そしてロイ・ヘインズの唯一無二なドラミングも、このセッションの成功には欠かせなかったと思います。

そしてスタン・ゲッツとボブ・ブルックマイヤーが自らの頑固さを路程しつつも、あえて新しいリズムアプローチに対応していくスリルが、このアルバムの魅力になっているんじゃないでしょうか。

ですから絶妙の和みと先鋭性が両立した瞬間、また逆に破綻しそうな部分も含めて、このアルバムがジャズ者の気を惹くのは当然です。

ちなみにスタン・ゲッツは後にビル・エバンスとの共演レコーディングを幾つか残しいきますが、もしかしたらこの時点でビル・エバンスを雇いたかったのかもしれませんね。

しかしスティーヴ・キューンをその代役ときめつけるのは、あまりにも失礼でしょう。それほど、ここでのスティーヴ・キューンは冴えています。極言すれば、スティーヴ・キューン中心に聴くアルバムかもしませんし、実際、サイケおやじは、そうすることも度々なのです。

つまり、これも一粒で二度美味しいという、グリコ盤なのでした。

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ミッシェル・ルグランの名盤を実感

2010-05-25 16:48:19 | Jazz

Michel Legrand At Shelly's Manne-Hole (Verve)

ミッシェル・ルグランはフランスの高名な音楽家として映画&音楽ファンならば知らぬ人も無い天才ですが、一方、ピアニストとしても、特にジャズを弾かせれば天下一品の腕前!

そうした「もうひとつの顔」を若き日のサイケおやじに知らしめてくれたのが、本日ご紹介の1枚です。

ジャケットが光っているのは、表面が銀インク印刷というか、銀紙に型押しという仕様になっているからで、如何にも当時のアナログ盤LPの凝った体裁が嬉しいわけですが、それをきっちり撮影出来なかったのは、サイケおやじの素人の哀しさとして、ご理解願います。

肝心の中身はピアノトリオの秀逸なライプ演奏♪♪~♪

録音は1968年9月5日、メンバーはミッシェル・ルグラン(p,vo)、レイ・ブラウン(b)、シェリー・マン(ds) という、今では夢の臨時編成! しかもシェリー・マンが当時経営していたクラブ「マン・ホール」でのライプセッションですから、即興的な醍醐味と名人3者のコラポレーションが絶妙の構築美を堪能させてくれます。

ちなみに一説によれば、このセッションが実現したのはハリウッド映画への仕事でミッシェル・ルグランがシェリー・マンと邂逅した経緯があったようですが、それにしてもここに聴かれる、一発勝負的なジャズ衝動は凄いですねぇ~♪

A-1 The Grand Brown Man
 店内のざわめきの中、本当に指慣らしのようなスタートからグイグイと演奏を牽引していくミッシェル・ルグランのピアノ! それに追従しつつも頑固な自己主張を崩さないレイ・ブラウンのペースは執拗ですし、シェリー・マンのブラシが、これまたヘヴィでメリハリの効いたビートを叩きますから、いつしかアップテンポへと移行しているトリオが一丸となった豪快スイングには心底、シビレさせられます。
 実は告白すると、ジャズ喫茶で初めてこのアルバムの、この演奏を聴いた時、てっきりオスカー・ピーターソン?? う~ん、それにしては、ちょいと違うけれど、ベースはレイ・ブラウンだよなぁ……。なぁ~んて勝手な自己解釈をしながら飾ってあるジャケットを見ると、そこにはジャズ喫茶特有の暗い照明に浮かびあがった銀色のこのアルバムがっ!
 しかもピアノを弾いているのが、当時は作編曲家としてしか私が認識していなかったミッシェル・ルグランだったのですから、もう吃驚仰天の極北でした。
 なにしろ演奏が進むにつれ、相当にアバンギャルドなフレーズも飛び出しますし、トリオとしての遣り口が新主流派というか、ビル・エバンス的なアプローチをオスカー・ピーターソンが演じてしまったような、そんな不遜な例えでしか文章に出来ないほど圧巻の勢いに満ちているのですから!?!
 つまりトリオの面々がそれぞれにインタープレイを展開しつつ、基本配分は「4/3/3」という、その場面毎の主役が「4」なのは言わずもがな、トリオのお互いがその時々の主役を盛り立て、主役は他のふたりを蔑にしないという潔さが、アルバム全篇を通しての快演に繋がっているように思います。

A-2 A Time For Love
 ジョニー・マンデルが書いた映画音楽の中では最も有名なメロディかもしれませんが、それを丸っきりミッシェル・ルグランのオリジナル? なんていう思い込みに誘うのが、この演奏かもしれません。
 実際、サイケおやじは長い間、このメロディはルグラン!?!
 なんて愚かな思い込みをしていたほど、ここでの華麗なピアノ演奏は素晴らしく、絶妙の間合いとお洒落なフレーズ&コードの選び方は、如何にもフランス人らしいと思うのは私だけでしょうか。
 ミッシェル・ルグランも無暗にテクニックをひけらすことはなく、レイ・ブラウン&シェリー・マンにサポートされている現実に感謝の名演♪♪~♪

A-3 Ray's Riff
 ワルツタイムのブルースで、タイトルどおり、レイ・ブラウンのペースから定番的に弾きだされるリフを活かした即興的な演奏だと思われます。
 まず、とにかくレイ・ブラウンのペース中心に聴いて大正解! 大技小技を適材適所に繰り出す音楽性は、モダンジャズの神髄といって過言ではないでしょう。
 そして当然ながら、ほとんど黒っぽさのないミッシェル・ルグランのアドリブは豪快にしてグルーヴィ♪♪~♪ なんかジャズ的に矛盾しているような感じも致しますが、そこはシェリー・マンが百戦錬磨のドラミングで盛り上げていく中を、ミッシェル・ルグランのピアノが見事な答えを聞かせてくれます。

A-4 Watch What Happens'
 これはお馴染み、ミッシェル・ルグランが珠玉のオリジナル曲として、誰もが一度は耳にしたことのあるメロディでしょう。最初の一節が提示された瞬間、客席からも拍手が沸き上がるのもムペなるかな!
 しかも作者本人は些かも気負うことなく、かなり自由度の高いメロディフェイクから歌心を随所に滲ませるアドリブパートまで、本当に変幻自在のジャズピアノ♪♪~♪ 寄り添うレイ・ブラウンも凄いサポートを披露していますから、中盤以降はオスカー・ピーターソン症候群を露呈するのも、実は嬉しいプレゼントだと思います。

B-1 My Funny Valentien
 これはちょっと以外な選曲のような気もするんですが、とにかく有名スタンダードを演じてくれるのは楽しみも倍加するということで、初っ端からレイ・ブラウンのペースによる奔放なアドリブソロの露払いが強烈です。
 そしてミッシェル・ルグランがマジかオトボケか判断し難いハミングボーカルでお馴染みのメロディを歌い、続けてスキャットによるアドリブからピアノによるハードな解釈を聞かせてくれるに及んで、このトリオの凄さが歴然としてくる仕掛けです。
 このあたりは本当に文章にするのが虚しくなるほどで、スキャットとピアノのユニゾンやレイ・ブラウンのペースと恐ろしい対話を繰り広げる展開には、思わず唸る他はないでしょう。

B-2 Another Blues
 これまた即興的なんでしょうか、相当にハードバップなブルースなんですが、演奏をリードしていくのはレイ・ブラウンのペース! そして実にグルーヴィなミッシェル・ルグランのピアノが痛快なアドリブを披露するその中には、当然ながら過激な部分もどっさり!?
 しかしシェリー・マンがハードドライヴィングなジャズビートを外しませんから、様々なリズム的興奮に煽られたトリオの名演が堪能出来ますよ。

B-3 Willow Weep For Me
 これもジャズ者には説明不要のブルージーなスタンダードメロディなんですが、なんとも意地悪いレイ・ブラウンのベースワークゆえに、かなり緊張度の高い演奏になっているようです。
 しかしミッシェル・ルグランが、それこそオズオズとお馴染みのメロディを繰り出せば、後はじっくり構えて濃密なモダンジャズのムードが横溢♪♪~♪ かなりヤケッパチ気味にド派手なフレーズやブロックコードを響かせるミッシェル・ルグランに対し、意外なほど細心の注意をはらうレイ・ブラウンというコントラストは、まさに名人達の会話というべきかもしれません。

B-4 Los Gatos
 オーラスも全くの即興に近い演奏で、ほとんどフリージャズかもしれませんが、タイトルからもご推察のようにラテン味のモードが導入されたあたりが結果オーライだと思います。
 中でもシェリー・マンの頑張りは特筆物で、高速4ビートから混濁のラテンリズム、さらにはフリーなポリリズムを千載一遇のチャンスに叩きまくり! もちろんピアノトリオとしての本分からミッシェル・ルグランが全体をリードして、聴き易いフレーズを積み重ねていきますが、ドラムスとベースが言いなりにならない頑固さで、これがジャズの面白みという大団円になるのでした。

ということで、ピアノトリオのアルバムとしては世に出た瞬間から名盤扱いの1枚でしょう。今となっては、ほとんど通過儀礼的な存在かもしれません。

しかしモダンジャズの演奏としては特級品であることに間違いはなく、参加した面々にとっては、何れもが代表作に値する出来栄えだと思います。

特にレイ・ブラウンは、その録音がウッドベースの特性を上手く活かしている所為もあり、繊細にして豪胆な個性が前向きの音楽性とジャストミートの快演を披露♪♪~♪ 最高に素晴らしいジャズベースの神髄が堪能出来ますよ。

またシェリー・マンは、その店の経営者という立場もあったんでしょうか、些か仕切り役という感が無きにしもあらずなんですが、しかし、ここぞっ、でキメるビートの凄さやリズムの自在性は達人の名に恥じないものです。

そしてミッシェル・ルグランにしても、それまで幾つもあったジャズセッションから、ここでピアニストとしてもモダンジャズの最先端を演じきったことにより、決定的な評価を得たんじゃないでしょうか。

願わくば、このトリオによる未発表音源集も期待したいところですが、やはり一期一会であればこその名演アルバムなんでしょうねぇ~♪

加えて録音も、なかなか秀逸ですよ♪♪~♪

やっぱり名盤は、良いですね。

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吹きまくれっ! ソニー・ステット!

2010-05-24 16:55:13 | Jazz

Sonny Stitt Plays (Roost)

常に平均点以上の演奏しか披露しないソニー・ステットは、それゆえに何を吹いても同じ!? ですから持つべきアルバムは「ステット、パウエル&J.J. (Prestige)」と「チューンナップ (Cobblestone)」だけでOK!?

なんて不遜なことを思っていた時期もあり、今となっては額に汗が滲むばかりなんですが、その頃でさえ、本日ご紹介の1枚は別格の存在でした。

それはワンホーンでスタンダードやインスタントなオリジナルを吹きまくるという、何時もと同じ姿勢を貫いていることに変わりはなくとも、参加した名手達とのコラポレーションが所謂サムシンエルスを強く感じさせる自然体の名演集!

録音は1956年9月1日、メンバーはソニー・ステット(as) 以下、ハンク・ジョーンズ(p)、ウェンデル・マーシャル(b)、シャドウ・ウィルソン(ds)、そしてA面にだけフレディ・グリーン(g) が加わっています。

A-1 There Will Never Be Another You
 モダンジャズだけでも幾多の名演が残されている有名スタンダード曲を全くの自然体で悠々と吹いてしまうソニー・ステットの素晴らしさ! この気負いの感じられないテーマ変奏と意気軒高なアドリブこそが、稀代の名人サックスプレイヤーの真骨頂だと思います。
 サポートメンバーの中ではハンク・ジョーンズが珠玉のピアノタッチで夢心地のメロディを紡ぎだし、フレディ・グリーンのジャストなジャスビートがたまらない快感を作りだしていますから、このあたりにも耳を奪われてしまうのでした。

A-2 The Nearness Of You
 これまた有名なシミジミ系スタンダードの決定版として、このソニー・ステットの演奏も侮れない仕上がりです。ますばハンク・ジョーンズの優雅なピアノとウェンデル・マーシャルのアルコ弾きで奏されるイントロからして絶品♪♪~♪
 そしてスローテンポながら絶対にダレない演奏展開の中、ソニー・ステットは原曲メロディの美味しいところだけを抽出していくような絶妙のアドリブ、またそれに先立つテーマ解釈に絶対的な名人芸を披露するのです。
 ちなみにソニー・ステットはあまりマイナースケールを吹かないので、そのあたりが我国ではイマイチ人気の要因かもしれないのですが、それにしてもここまでの胸キュン感を提供してくれるのは流石だと思うばかりです。
 その点、ハンク・ジョーンズは完全に分かっているというか、素晴らしすぎるピアノを「さらり」と聞かせています。。

A-3 Biscuit Mix
 如何にもモダンジャズなメロディはソニー・ステットのオリジナルですが、フレディ・グリーンの快調なリズムギターゆえにモダンスイングからビバップ期のジャムセッション御用達なムードが最高です。
 そしてメンバー全員のリラックスした演奏は部分的に相当の力みから、思わずハッとさせられる場面も散見されるんですが、そこは流石の名手揃いに免じて、実に和みの結果オーライ♪♪~♪

A-4 Yesterdays
 これまた有名スタンダードで、原曲は過ぎ去った過去に思いをはせる悔恨のパラードですから、演者にはそれなりのブルーな心情が求められて当然のところを、ソニー・ステット以下バンドの面々は落ち着いた中にも、むしろ軽めな表現を目指しているようです。
 そこには当然ながらジェントルなハンク・ジョンズのピアノ、強いビートを提供するフレディ・グリーンのリズムギターがあればこそ、実はソニー・ステットの饒舌なアルトサックスが駆け足を演じるイヤミもあるんですが、それにしてもリズム隊だけのパートの潔さと分かり易いソニー・ステットという組み合わせが楽しめるんじゃないでしょうか。

B-1 Afrerwards
 激しいアップテンポでビバップの真髄に迫らんとするソニー・ステットのオリジナル曲ですから、チャーリー・パーカーと常に比較されることを有難迷惑に感じていたという作者にしても、会心のアドリブを完全披露する名演を聞かせてくれます。
 とにかく徹頭徹尾、全く淀むことのないビバップフレーズの速射砲的洪水には溜飲が下がりますよ♪♪~♪ また、ハンク・ジョーンズも慌てず騒がすの姿勢から前向きのアドリブが痛快至極な演奏を作り出していきます。

B-2 If I Should Lose You
 ハンク・ジョーンズの上手すぎるイントロに導かれ、ソニー・ステットが吹き始めるテーマメロディの快適な変奏♪♪~♪ これぞっ、ステット流儀のスタンダード解釈が極みつきに展開されていきます。
 それはアドリブ優先主義でありながら、随所に原曲や有名曲のフレーズを美味しく散りばめるという、常套手段にしてはあまりにも楽しすぎます。
 ちなみに既に述べたように、こちらのB面にはフレディ・グリーンが参加していませんが、こういう曲と演奏こそ、あの唯一無二のリズムギターが聞こえないと……。それゆえでしょうか、シャドウ・ウィルソンのブラシのビートに、なんとなくフレディ・グリーンを感じてしまうのです……。
 
B-3 Blues For Bobby
 ソニー・ステットが書いたオリジナルのスローブルースなんですが、そんな事よりも全篇から溢れ出るモダンジャズのブルースフィーリングに素直に接して正解の演奏だと思います。
 ただし、そうは言っても、実に流麗なソニー・ステットのアルトサックスから流れ出るアドリブフレーズには、些か物足りなさも感じてしまうのが正直な気持かもしれません。
 あぁ、もっと黒っぽければなぁ……。
 なんていう不遜な贅沢が、我儘なのは自覚しているつもりですが……。
 しかしチャーリー・パーカーだって、おそらくはマイナーブルースなんて吹いたことはなかったと思いますし、その意味でソニー・ステットがここで真正面から正統派のモダンジャズブルースを吹ききったのは、当たり前の潔さなんでしょうねぇ。
 自分の不明を恥じ入るばかりでございます。

B-4 My Melancholy Baby
 そしてオーラスは、これまたちょいと胸キュンメロディの歌物スタンダード♪♪~♪ 快適なテンポで屈託なく歌いまくるソニー・ステットのアルトサックスは、やっぱり最高だと思わざるをえませんねぇ~♪
 とにかく「ステット節」の大盤振る舞いというか、こういうのを聴いて、なんだぁ、またかよ……、なんて言っては絶対にいけませんよね。なにしろそれこそが余人に真似の出来る境地ではありませんし、ここまで自分の「型」を完成させているミュージシャンは、数えるほどしかいないと思います。

ということで、やはり名盤扱いになっているのが、何度聴いても実感されますよ。

おそらくは前述した「チューンナップ」が出る前の決定版が、このアルバムだったんじゃないでしょうか。

まあ、今となってはちょいと物足りなさも感じないわけではありませんが、既に述べたように、このセッションには確かに所謂サムシンエルスがあるように思います。

それはまさに極上にブレンドされた珈琲かウイスキーのように、極上の香りに満ち溢れた至福の味わい♪♪~♪

ですから万人向けの傑作として認知されることから、逆に今ではあまり聴かれていないような気もしているんですが、一度はジャズ喫茶あたりでリクエストし、高級オーディオで楽しみたい1枚だと思うばかりです。

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アーマッド・ジャマルを聴きながら

2010-05-22 17:00:59 | Jazz

Portfolio Of Ahmad Jamal (Argo)

実は韓国へ出張していました。まあ、仕事はそれなりの成果でしたし、駆け足旅行で好きな海鮮鍋やホットクも食べられなかったんですが、個人的収穫としては本日ご紹介の人気盤を入手してきました。

ご存じ、今や我国でも人気ピアニストの仲間入りを果たしているアーマッド・ジャマルのライプアルバムで、なかなか珍しい2枚組のアナログLPです。

 A-1 This Can't Be Love
 A-2 Autumn Leaves / 枯葉
 A-3 Ahmad's Blues
 B-1 Old Devil Moon
 B-2 Seleritus
 B-3 It Could Happen To You
 B-4 Ivy
 B-5 Tater Pie
 C-1 Let's Fall In Love
 C-2 Aki & Ukthay
 C-3 You Don't Know What Love Is
 C-4 I Don't Know What Time It Was
 D-1 So Beats My Heart For You
 D-2 Gal In Calico
 D-3 Our Delight

録音は1958年9月5&6日、ワシントンD.C.のクラブ「スボットライト」で、アーマッド・ジャマル(p)、イスラエル・クロスビー(b)、ヴァーネル・フォーニア(ds) という、一番有名なレギュラートリオによる、極めて日常的であろうライプ演奏が楽しめます。

そのミソは決してアーマッド・ジャマルのピアノにあるのではなく、良く言われているとおり、間合を活かしたトリオ3者による礼節をわきまえたインタープレイが、唯一無二の和みを作り出しているようです。

つまりインタープレイと言っても、例えばビル・エバンスのトリオのように、互いに相手の隙を窺い、激しいツッコミやボケをかますのではなく、アーマッド・ジャマルのトリオでは相手に道を譲りつつ、礼を交わしてすれ違い、そこで仲間意識を高めるというような感じでしょうか。しかし決してナアナアではない、親しき仲にも礼儀あり!

それゆえに相手が弛緩すれば、容赦ない苦言を呈する場面も多々ありますし、時にはガチンコで意見の相違を戦わせることさえあるように思えます。

そんな緊張と緩和が見事なジャズになっているんですねぇ~♪

それと今や伝説か真実か、ますます分からなくなっているのが、アーマッド・ジャマルが1950年代のマイルス・デイビスに大きな影響を与えたという説でしょう。あの思わせぶりなマイルス・デイビスの歌物フェイクやアドリブフレーズとリズムの関係は、アーマッド・ジャマルのピアノ、そしてトリオとしての遣り口をトランペットに翻案した云々という、あれです。

そして大手のCBSコロムビアと契約した折にレギューバンド結成を勧められたマイルス・デイビスが希望のピアニストは、アーマッド・ジャマルだったという叶わぬ夢も有名なエピソードでしょう。ちなみにこの時の想定メンバーは他にソニー・ロリンズ(ts)、オスカー・ペティフォード(b)、ジミー・コブ(ds) だったというのですから、マイルス・デイビスの野望も相当なものでした。

まあ、それはそれとして、マイルス・デイビスのハードバップ期の演目には、確かにアーマッド・ジャマルの十八番が多く、それを検証するに相応しいアルバムが、この2枚組LPの一番大きな価値として言い伝えらてきたのですが、現実的は限定盤だったということもあり、なかなか聴くことが容易ではありませんでした。もちろんサイケおやじも、今回の入手が初めてであり、それまでは某コレクター氏のご厚情によるカセットコピーで楽しんでいたというわけです。

そこで肝心の演奏についてですが、なんと言っても「枯葉」が、あのキャノボール・アダレイをリーダーにした傑作「サムシン・エルス(Blue Note)」でマイスル・デイビスが決定的な大名演を聞かせた元ネタという、その論拠が興味深いところです。

それは例のリズムパターンに帰結するわけですが、ここでのトリオの演奏は「サムシン・エルス」でのバージョンよりもテンポが速く、ベースも最初こそ「らしい」フレーズをやっていますが、実際にはテーマパートよりもアドリブ中心主義というか、どんどん変奏されていく急ぎ足によって、かなり自在な動きに終始していますし、既に述べたように間合いを活かした特徴的なピアノトリオ演奏にあっては、虚心坦懐に全体を均等鑑賞しないと良さが分からないという構造になっているようです。

つまり、じっくり聴くのも正解ですが、聞き流すというか、所謂「ながら聞き」の方が分かってしまうんじゃないか? なんていう些か不遜なことまで思ってしまうんですねぇ。なにしろドラムスはスリル満点だし、ピアノとベースは何処を弾いているんだか迷い道かもしれないと感じられるんですよ……。

あの、むせび泣くマイスル・デイビスのミュートによる泣きの変奏に馴染んでいると、肩すかしは免れないでしょう。

しかし粋なセンスがたまらない「Gal In Calico」は、そのテーマ解釈とアドリブフレーズの展開が、マイルス・デイビスが「ミュージングス・オブ・マイルス(Prestige)」で演じていたバージョンに直結するものを強く想起させますし、イスラエル・クロスビーのベースが、これまたポール・チェンバースっぽいところも気になりますが、まあ、これは逆なんでしょうねぇ。

その意味で前述したレギュラーバンド結成時に雇ったレッド・ガーランドへ、アーマッド・ジャマルように弾く事を強要したというマイルス・デイビスの命令も、強ち作り話とは思えず、そのレッド・ガーランドがマイルス・デイビスの例のマラソンセッション中に残した「Ahmad's Blues」を聴き比べるのも楽しいと思います。

ただし、そんなこんなの思惑を超えたところに存在するアーマッド・ジャマル・トリオの魅力は、確かにこのアルバムを真実の人気盤にしています。

絶妙の間合とテンションの高いリズムへのアプローチが素晴らしい歌心を増幅させる「It Could Happen To You」は、ビル・エバンス・トリオとは全く違いますが、インタープレイの極致を演じていると思いますし、緻密なアンサンブルとアグレッシプなアドリブが両立した「Let's Fall In Love」や「I Don't Know What Time It Was」あたりのスタンダード解釈も実に個性的です。

いゃ~、ピアノよりもベースやドラムスが目立ってしまうんですよねぇ~♪

それでいて全然、煩くない存在感を発揮するイスラエル・クロスビーとヴァーネル・フォーニアは、我国ではあまり評価されていませんが、大変な実力者だと痛感されます。

ということで、一緒に録音されている客席のざわめきも好ましい雰囲気ですし、所謂カクテルピアノとしても、その醸し出されるムードは最高♪♪~♪ 後年の録音で更に顕著なように、アーマッド・ジャマルは非常なテクニシャンなんですが、それをひけらかすことなく聴き手を満足させてしまうのは、流石のセンスだと思います。

ちなみにマイルス・デイビス云々に拘る部分も否定出来ませんから、その比較対照盤をあげておくと――
 
 枯葉 / Somethin' Eles (Blue Note)
 Ahmad's Blues / Workin' (Perstige)
 Old Devil Moon / Blue Haze (Perstige)
 It Could Happen To You / Relaxin' (Perstige)
 You Don't Know What Love Is / Walkin' (Perstige)
 Gal In Calico / The Musing Of Miles (Perstige)

――と、だいたい上記のようなことになりますが、このアルバムの録音が1958年春なのに、マイルス・デイビスの演奏のほとんどが、それ以前という素朴な疑問については、アーマッド・ジャマルはマイルス・デイビス所縁の地であるシカゴのローカルスタアであり、既に様々な演目を独自のスタイルで演じていたトリオにマイルス・デイビスが接していたということでじゃないでしょうか?

このあたりは個人的に、まだまだ探求が必要かと思います。

最後になりましたが、入手したLPはご覧のとおり、かなり傷んでいます。しかも見開きジャケットの中面と裏面には英語と韓国語による書き込みがあったりして、おそらくは韓国に駐留している米軍関係者から流れた中古盤だと推察しているのですが、私に譲ってくれたのは仕事関係で偶然に知り合ったジャズ好きの韓国人でしたから、あまり入手ルートは尋ねないのが礼儀でしょうねぇ。

そんな事よりも、現在の韓国は自国海軍への魚雷攻撃で緊張度が高く、このレコードを譲ってくれた韓国人の息子さんは現在徴兵されているので、とても心配していました。

今後の情勢は全く不透明ですが、戦争なんていう愚行は絶対に止めて欲しいと切望しています。なによりも、例えばジャズを聴くなんていう、ささやかな楽しみさえも無にしてしまいますから……。

今日はなんだか、暗い結末で失礼致しました。

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ハンク・ジョーンズ再発見のGJT

2010-05-19 17:03:37 | Jazz

The Great Jazz Trio At The Village Vanguard (East Wind)

スイング・ジョーナルの休刊に続き、ハンク・ジョーンズという偉大なジャズピアニストの訃報にも衝撃を受けました。なにしろ、つい最近まで来日公演もやっていましたからねぇ……。享年91歳という大往生ながら、やはりジャズの歴史を確実に作り上げてきたひとりとして、忘れられることはないと思います。

例えばチャーリー・パーカー晩年の名作セッションを収めたアルバム「ナウ・ザ・タイム (Verve)」、キャノンボール・アダレイとマイルス・デイビスの「枯葉」があまりにも有名な「サムシン・エルス (Blue Note)」、そのキャノンボール・アダレイのデビュー盤「プレゼンティング (Savoy)」等々は特別な人気盤になっていますが、個人的には地味ながらも素晴らしいジャズセンスが豊潤な味わい醸し出した「ヒアズ・ラプ (Argo)」や「ポギーとベス (Capitol)」、「ハンキー・パンキー (East Wind)」あたりのリーダー作も、棺桶に入れてもらいたいほど愛聴しています。

しかしそうした凄いキャリアの中にあって、一般的な存在感がグッと身近になったは、1977年に発売された本日ご紹介のライプ盤じゃないでしょうか。

なんといってもトリオを構成しているのは、当時既に大ベテランの域に入っていたハンク・ジョーンズ(p) に加え、ロン・カーター(b) にトニー・ウィリアムス(ds) というバリバリでしたからねぇ~。些か大袈裟なグループ名も強ち過大とは言えないものがあります。

録音は1977年2月19&20日、ニューヨークの名門ジャズクラブ「ヴィレッジ・バンガード」でのライプセッションを収めていますが、その制作に関わったのが日本のレコード会社だったというのが、リアルタイムで賛否両論でした。

と言うのも、このアルバムが出るにあたっては、現実のライプセッションのレポートがそれ以前にスイングジャーナルで大きく報じられ、日本のレコード会社によってライプレコーディングも行われたという記述があったからです。

しかも更に遡れば、実はこのトリオが結成されたのは1975年春、トニー・ウィリアムスの主導によって1週間だけ同クラブに出演したという記録があり、その夢のような出来事を再現するべく狙って作られたと思しきアルバムが、我国のイーストウインドレーベルから1976年に出た「アイム・オールド・ファッション」という、渡辺貞夫+グレート・ジャズ・トリオのアルバムだったのです。

ちなみに当時は説明不要のフュージョン全盛期! その最中に純正4ビートへ回帰した演奏が、トニー・ウィリアムスやロン・カーターという、それに染まりきっていたスタアプレイヤーによって行われたいう事実は決して軽いものではありませんでしたし、もちろんその年のニューポートジャズ祭では、ハービー・ハンコックやフレディ・ハバード、さらにウェイン・ショーターまでもが参集した「V.S.O.P.」が、後のジャズの歴史を塗り替えるが如き大反響を巻き起こしたのですから、グレート・ジャズ・トリオの存在は尚更に強いものがありました。

ただし前述の渡辺貞夫のアルバムにしても日本制作ですから、何故に本場アメリカのレコード会社は……??? という煮え切らない気分がジャズ者にはあったと思いますし、実際、サイケおやじもスイングジャーナルというジャズマスコミでは圧倒的な影響力とタイアップ企画ような部分には、面白くないものを感じていました。

まあ、今となっては当時のアメリカのレコード会社、特に大手はフュージョン制作ばかりを優先させ、優良な4ビート作品は欧州や日本のマイナーレーベルから発売されていた事実を忘れてはならないと思います。

それは現に前述した「V.S.O.P.」がCBSコロムビアから発売され、ベストセラーになったことから所謂新伝承派と呼ばれた若手の登場まで繋がる動きとなって、ある意味ではジャズの伝統芸能化になったなったわけですが、だからと言って、4ビートの素敵な魅力が受け継がれたことを否定は出来ないでしょう。

しかし、ここで楽しめるのは決して古いジャズではありません。

それを実証するのが低音域重視の音作りというか、同様の事は前述した渡辺貞夫の「アイム・オールド・ファッション」でも聴かれたんですが、トニー・ウィリアムスのド迫力のバスドラやロン・カーターのグイノリのウッドベースが凄いパワーで記録されています。

それゆえに大音量のジャズ喫茶では最高の魅力であったものが、逆にその強力な低音域が家庭用レコードプレイヤーでは針飛び現象を誘発!?! それほど当時のアナログLPという基本媒体ではギリギリの音が詰め込まれていたのです。

そしてその中にあっても、全くマイペースを崩さないハンク・ジョーンズの潔さが、このレコードの人気のポイントでありました。

A-1 Moose The Mooche
 ご存じ、チャーリー・パーカーがオリジナルのビバップ聖典曲ですから、ハンク・ジョーンズにとっては手慣れた演目でしょうし、またロン&トニーにとっては、それゆえの緊張感が良い方向へ作用した演奏だと思います。
 トニー・ウイリアムスのシンプルなドラミングに導かれたテーマ部分から早いテンポで繰り広げられるモダンジャズの典型的なピアノトリオ演奏は、しかし終始煩いとしかサイケおやじには言えないトニー・ウィリアムスの存在によって、ちょいと引っ込み気味の録音になっているハンク・ジョーンズのピアノに気持が集中出来るのです。
 それは恐らく「I Got Rhythm」のコード進行に基づく曲メロのフェイクや再構築から生み出される歌心満点のアドリブフレーズを優雅なタッチで披露するという、まさに匠の技♪♪~♪ ロン・カーターの些か音程の怪しいベースワークが気になるものの、それでも因数分解になっていないのは流石だと思います。
 演奏は後半、お待ちかねのトニー・ウィリアムスのドラムソロ! スネアとシンバル、タムとハイハットの使い方はマイルス・デイビスのバンドで新主流派の4ビートを叩いていた頃と基本的には変わらないんでしょうが、それにしても品性の感じられないバスドラが、ねぇ……。このあたりはリアルタイムから激論飛び交う賛否と好き嫌いがありました。
 ただしドカドカ襲いかかってくるそのバスドラやガチガチのハイハットが、既に述べたような低音域重視の録音&ミックスによって、それなりの快感に繋がっているのは間違いないでしょうね。

A-2 Maima
 前曲の怒濤のような演奏に続き、このジョン・コルトレーンのオリジナルの中では最も人気の高いひとつであろう、実に静謐なパラードが始まるという流れの良さ♪♪~♪ ハンク・ジョーンズのピアノからは、ひとつも無駄な音が出ていないと感銘を受けるほど、そのジャズセンスは卓越していると思います。
 これにはロン・カーターもトニー・ウィリアムスも、本当に神妙にならざるをえないという雰囲気で、全体にはボサノバっぽいビートも含まれているようですが、幻想的でありながらテンションが緩まない展開は徹頭徹尾、ハンク・ジョーンズの素晴らしい歌心に支えられているようです。
 しかも相当に新しいアプローチもやっているんじゃないでしょうか?
 失礼ながらハービー・ハンコックには、これが出来ますかねぇ?
 そんな不遜なことまで思ってしまう11分41秒です。

B-1 Favors
 有名な作編曲家のクラウス・オーガーマンが書いた美メロの雰囲気曲で、ハンク・ジョーンズは前述したリーダーアルバム「ハンキー・パンキー」において既に録音していましたから、ここでのライプバージョンは尚更に興味深いところです。
 で、結論から言えば、かなりモードっぽい仕上がりになっているんですが、快適なビートを提供するロン・カーター、ちょっと意地悪なトニー・ウィリアムスというリズム隊の強い存在ゆえに、ハンク・ジョーンズも油断は出来ません。というよりも、それを百も承知でジコチュウにスイングしていくところから生み出される知的な浮遊感には、完全に虜になりますよ♪♪~♪
 ハンク・ジョーンズといえば一般的にはモダンスイングからビバップ系の古いタイプという先入観もあろうかと思いますが、実際にはここで聴かれるように、とても汎用性の高いスタイルは唯一無二だと思います。

B-2 12+12
 ロン・カーターが作った、あまり「らしくない」ブルースですが、そういうある種の「はぐらかし」を堂々と正統派モダンジャズへ導いていくハンク・ジョーンズの余裕は流石!
 ですから作者のロン・カーターにしても安心して身を任せられるような、これはむしろ逆だと思うんですが、なかなか安逸のウォーキングベースが気持良いですし、アドリブソロにしても、後年までトレードマークになるようなフレーズがテンコ盛り♪♪~♪
 ちなみに電気アタッチメントを付けたと思しきウッドベースの音は、1970年代ジャズの典型として、これまた好き嫌いが当時からありましたが、何故かこのイーストウインド特有の音作りでは個人的に気になりません。トニー・ウィリアムスのエグイ存在感からすれば、むしろこれで正解ということなのかもしれませんね。

ということで、全4曲の密度は濃すぎるほどですが、実は告白しておくと、リアルタイムでは決して好きなアルバムではなく、しかもジャズ喫茶に行くと毎度のように聴かされていたヒット盤でしたから、逆に反感を抱いていたほどです。

そこには既に述べたように売れセン狙いとかタイアップがミエミエじゃないか? なんていう勘繰りも当然ありましたし、何よりもトニー・ウィリアムスの煩すぎるドラミングが???でした。

率直に言えば、例えばヴァン・ゲルダーに代表される「それまでのモダンジャズの音」とは決定的に異なるイーストウインドの録音に馴染めなかったという、実にオールドウェイブなサイケおやじの本質を自ら再認識していたのです。

しかし同時に何時かは大音量で鳴らせる環境を作り、このアルバムを思いっきり楽しみたいという希望的欲求もあり、売れまくっていた所為で、1980年代に入ると中古屋にゴロゴロしていた中のひとつから、盤質の良いブツを格安でゲットしたにすぎません。

それでも私は決してハンク・ジョーンズが嫌いになったわけでは無く、このグレート・ジャズ・トリオがあればこそ、ますますその本物の実力に圧倒されました。

もちろん以降、続々と作られた同トリオ名義の作品は玉石混合を認めつつも、存分に楽しんだのです。と同時に、過去に遡っての名演も、全く違った観点で再鑑賞出来るようになりました。それは当たり前ですが、優れた才能の前にはジャンル分けなんて無意味だということです。

つまりハンク・ジョーンズはスイングもビバップも、さらに新主流派もフュージョンをも超越した唯一無二の存在であり、本来が何でもありのジャズという悪魔の音楽が煮詰まりかけていた1970年代中盤において、その根本をあらためてファンの前に提示してくれたんじゃないでしょうか。

ですから常に安心感とフレッシュな気分を併せ持った秀逸な演奏を聞かせてくれたのだと思います。

ということで、相変わらずしつっこい文章に終始した本日ではありますが、ジャズ喫茶に行って、このアルバムをリクエストしたいという思いも強くあります。

そして衷心より、ご冥福をお祈りするばかりです。

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さようなら、ありがとう

2010-05-18 16:45:59 | Jazz

昨日報じられたスイングジャーナルの休刊には、決して軽くない衝撃を受けました。

私は毎号買うような熱心な読者ではありませんでしたが、ジャズ喫茶へ行けば最新号は必ず読んでいましたし、本屋で立ち読みしては新譜やミュージャンの来日情報を得ていましたから、やはり寂しい気持を隠せません。

言うなれば自分にジャズのあれこれを教えてくれたのはジャズ喫茶とスイングジャーナルという、まさに聴きながら読む実践だったのです。

今回の措置は広告収入の減少とされていますが、売れなくなったことが大きいのでしょうね。

まあ、ネットがこれだけ日常的になれば、様々な情報が無料で入手出来ますから、なにもお金を払って評論家や諸先輩方の感想文を読むまでもなく、またそうしたお金はCDやチケット代に振り向けるのが一般的なファンの正直な気持だと思います。

それはサイケおやじとて例外ではなく、思えばスイングジャーナルを最後に買ったのは何時だったのか、それを確かめるべく本棚を探索して認められたのが、本日掲載の「1975年4月臨時増刊号 / ジャズ・ピアノ百科」でした。

ちなみに値段は千円なんですが、その中身の濃さは圧巻!

まず私のお目当てだったのが、「人気ジャズ・ピアニスト10人の完全ディスコグラフィー」という企画で、ソニー・クラーク、ケニー・ドリュー、ビル・エバンス、レッド・ガーランド、ハンプトン・ホーズ、ウイントン・ケリー、フィニアス・ニューボーン、オスカー・ピーターソン、バド・パウエル、マル・ウォルドロンの当時としては完全に近いレコードやセッションのデータが、モノクロですが、ジャケット写真と共に掲載されていたのですから、思わず食指が動きました。

実際、これを頼りにジャズ喫茶でリクエストし、蒐集したレコードがどっさりあります。

また有名ピアニストの簡単な履歴を物語風に綴った読み物の中には、楽譜付きの奏法解説や貴重な写真がテンコ盛りにあって、中でも秋吉敏子物語は目からウロコというか、モダンジャズ創成期の我国ばかりか、渡米して以降のお宝写真が凄いの一言でした。

それと既に幻のピアニストとなっていた守安祥太郎の伝説も、内田晃一氏の興味深い文章でリアルに感銘をうけましたですねぇ。

さらに当時の有名評論家の先生が様々なテーマでガチンコの対論を展開していたり、「ジャズピアノ最新用語辞典」とか「ジャズピアニスト最新バイオ / ディスコ」なんていう簡易特集も、それなりに詳しくて勉強になったのです。

気になるグラビアでは、巻頭に掲載された佐藤秀樹氏所有の「ジャズピアノ超幻の名盤」という特集が羨ましい限りでしたし、人気ピアニストのボートレイトやパド・パウエルのピンナップがオマケについているという、当時の雑誌のお約束がきっちりと守られています。もちろんそれを切り取るなんていう愚行は出来ないわけですが、そこにまた良さがあったんじゃないでしょうか。

まあ、それはそれとして、サイケおやじにとっては相当に熟読した座右の書♪♪~♪

ですから、かなり傷んでいるんですが、それも人生の積み重ねと思えば、決して大袈裟ではない感慨が沸き上がってくるのです。

ほとんど買っていなかった私のような者が言うのも気が引けますが、今回の休刊は本当に残念でありますし、ここにあらためて謝辞を述べる他はありません。

ありがとう、スイングジャーナル!

追伸:本日はハンク・ジョーンズ(p) の訃報に接し、またまた衝撃を受けました……。この偉人にもジャズを教えられましたですねぇ。衷心より、ご冥福をお祈り致します。合掌。

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オールナイトで輝いて

2010-05-16 17:15:57 | Jazz

All Night Session, Vol. 1 / Hampton Hawes (Contemporay)

学生時代の私は映画ならオールナイト興業に通いつめていました。それはだいたいが過去の名作&人気作、あるいは有名監督や主演俳優の特集等々、とにかく後追い鑑賞には絶好の企画が毎週のように盛り場の映画館で行われていたんですが、もちろん深夜まで遊び、帰りの電車が無くなった者には時間潰しの避難所でもあり、また同性愛のパートナー探しの現場でもあり、当然ながら悪いクスリやカツアゲなんかの犯罪も横行するという、なかなかスリルとサスペンスに満ち溢れた社会勉強の場所でもありました。

ただし、そうした所には任侠団体からの所謂ハケンが、つまらない騒ぎが起こらないように働いていたんで、言うほど危険な劇場は無く、また青少年補導の警官や教育関係者も頻繁にタダ見しに来ていましたからねぇ。現実的には緊張感の中にも、なかなかリラックスした桃源郷でありました。

で、本日ご紹介のアルバムは久々のモロジャズがど真ん中という、ハードバップの人気盤!

タイトルどおり、ハンプトン・ホーズをリーダーとしたカルテットによる徹夜のブッ通し演奏を、その演奏された順序を崩さずに収録したという3枚のアナログ盤LPの第1集です。

録音は1956年11月12日、メンバーはハンプトン・ホーズ(p)、ジム・ホール(g)、レッド・ミッチェル(b)、プラッツ・フリーマン(ds) という白黒混成のカルテットゆえに、随所で味わい深いグルーヴが噴出した名演ばかり♪♪~♪

A-1 Jordu
 デューク・ジョンダンが書いたハードバップの大有名曲ですから、作者のオリジナルに強く滲む黒っぽい愁いが、このカルテットでは如何に表現されるのか? もう、聴く前からワクワクする他はないですねぇ~♪
 そして結果は、実に溌剌としたハードドライヴィングなモダンジャズ♪♪~♪
 リズムとビートの明快なノリは、本当にウエストコースト派の個性というか、レッド・ミッチェルの安定したスリルという、全て分かっている楽しみが全面に出たベースワーク! さらに歯切れの良さと黒人ならではの芯の強さを上手くミックスしたブラッツ・。フリーマンのブラシも冴えていますから、ハンプトン・ホーズも十八番の節回しを絶妙のファンキーさで味付けしたアドリブを完全披露♪♪~♪ それは幾分のミスもご愛嬌と許してしまうほど、気持の良いものです。
 また気になるジム・ホールは一般的なイメージの幻想的なコードワークよりも、むしろストレートなジャズギター本来の味わいを貫き通し、実は正直に告白すれば、このメンツならバーニー・ケッセルかハーブ・エリスの方が……、なんて最初は不遜なことも思っていたのですが、やはり白人スタイルの王道を行くジム・ホールの起用は、バンド全体の無暗なファンキーグルーヴを抑制し、さらにディープなモダンジャズ天国への最良のガイド役だったと思います。
 
A-2 Groovin' High
 ディジー・ガレスピー作曲によるビバップの聖典のひとつとあって、爽快なノリと厳しいアドリブの両立を求めるファンの願いが、ここでは見事に叶えられた大名演♪♪~♪
 もちろんその原動力はカルテットが一丸となった真摯なモダンジャス魂なんでしょうが、それにしてもハンプトン・ホーズの直球勝負の姿勢は実に潔いかぎりです。それはジム・ホールとて同様の気持だったんでしょう。妥協の無いアドリブを披露することによって自己の主張を貫く姿勢が素晴らしく、魔法なようなピッキングと正統派ジャズギターならではのバッキングの上手さは天下一品です。
 またレッド・ミッチェルのペースも、この人ならではの繊細さと豪胆なグルーヴを合わせ技にした凄さが全開していると思います。、

A-3 Takin' Care
 ハンプトン・ホーズのオリジナルブルースということで、少し早いテンポの中に作者自身のファンキーな衝動が見事に表現されているんですが、その中核になっているのがパド・パウエル直系のビバップスタイルというネタばらしが、たまりません。
 中盤で倍テンポを叩くブラッツ・フリーマンも流石の存在感で、ある意味では頑固さを崩さないジム・ホールやレッド・ミッチェルを上手く和みのグルーヴへと導いているんじゃないでしょうか。

B-1 Broadway
 これまたモダンジャズではお馴染みの軽快なリフ曲を、西海岸派が演じると尚更にスマートになるという見本が、この演奏です。
 とにかく無伴奏で素晴らしいイントロを弾いてしまうハンプトン・ホーズは、続くテーマの提示から流れるように突入していくアドリブでの爆発的なノリまで、首尾一貫してハードバップの神髄を聞かせてくれます。
 しかし他の3人は安易に妥協することなく、怖いコードワークで流石のバッキングを聞かせるジム・ホール、我が道を行くレッド・ミッチェルの確かなベースワーク、そして緊張と緩和のバランスが秀逸なプラッツ・フリーマンのブラシ! アップテンポでツッコミそうになるギリギリのバンドの勢いは、しかしスマートなスピード感となってウエストコーストジャズの硬派な一面を表しているんじゃないでしょうか。

B-2 Hampton's Pulpit
 オーラスは、これもハンプトン・ホーズがオリジナルのブルースで、その粘っこいピアノタッチとグルーヴィな表現ゆえに、泉の如く湧き出すファンキーフレーズの洪水も決して聴き疲れるなんてことはありません。
 むしろバックの3人が作り出す4ビートの安定性が、逆にイヤミなほどです。
 しかし、それこそがこの演奏を魅力的なものにしている秘密かもしれませんし、実際、ハンプトン・ホーズにしても生涯の名演のひとつが、これじゃないでしょうか? タイトなリズムの上で繰り広げられるタメとモタレの黒人感覚、そして分かり易くてゾクゾクしてくるファンキーな衝動! これがハードバップの醍醐味ですよねぇ~♪
 もちろんジム・ホールの小技が冴えるバッキングの妙、さらにアドリブパートで披露されるちょいと地味な世界は、続けてビル・エバンスが登場してきそうな錯覚が嬉しい限りですし、レッド・ミッチェルのベースが憎たらしいほどの落ち着きを漂わるのですから、ハンプトン・ホーズが尚更ムキになるのも当然なんでしょうか。終盤でのテンポチェンジが幾分上手くいっていないあたりや以降に続くオールナイトのセッションで、それが証明されていく布石としても、実に味わい深い演奏だと思います。

ということで、既に述べたように深夜のレコーディングセッションから、曲順を全く変えずに収録された演奏の流れは、なかなか自然なジャズ本来の楽しみに溢れています。

そして続く第2&3集を通して聴くことにより、当夜のミュージシャンの意気込みやノリの良し悪しが堪能出来る仕掛けなんでしょうねぇ。安易と言えば、全くそのとおりかもしれませんが、モダンジャズ全盛期の熱気までも封じ込めんとした企画としては、今日まで見事にリスナーの欲求に応えたものと思います。

なによりも緊張感の和みの両立が、最高に素敵ですよねぇ~♪

これがお気に入りとなれば、後は続く2&3集にも夢中になれること請け合いです。

個人的には最初に書いた映画のオールナイト興業に行く前、ジャズ喫茶で時間調正する時には意図的にリクエストしていたこともありました。

ちなみに当時の私はジャズ喫茶からオールナイトの映画館、そして始発電車で短い睡眠を貪った後、ハン工場でバイトという週末が、今では懐かしくも輝いていた日々なのでした。

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バド・パウエルの避暑地の思い出

2010-05-02 16:19:30 | Jazz

Hot House / Bud Powell (Fontana)

久々にガッツ~ンとしたジャズが聴きたくて、これを出してみました。

内容はフランス移住時代最末期のパド・パウエルが親しい友人達と過ごした避暑地の思い出ライプで、もちろんプライベート録音ながら、演奏の好調さもあって、なかなか生々しい雰囲気が素晴らしいかぎり♪♪~♪

録音は1964年夏、メンバーはパド・パウエル(p)、ガイ・ハヤット(b)、ジャック・ジェルベ(ds)、そして3曲だけですが、ジョニー・グリフィン(ts) が客演しています。

A-1 Stright No Chaser (Quartet)
 セロニアス・モンクが書いた本当に厳しいビバップのブルースで、作者本人はもちろんのこと、モダンジャズでは他にも幾多の名演がどっさり残されている中でも、この日のパド・パウエルとジョニー・グリフィンの共演は特筆されるべきものでしょう。
 というか、全盛期ジャズ喫茶の人気最右翼のひとつでした。
 それはいきなり豪放にスタートするテーマ演奏のド迫力!
 ブヒブヒに吹きまくるジョニー・グリフィン、ジャカスカ煩いシンバルが逆に最高のドラムス、そして突っ込んでくるベースが存在感を示せば、親分のパド・パウエルは例の呻き声を伴った直截的なピアノで厳しく応戦するという、まさにモダンジャズ本来の魅力が徹頭徹尾に堪能出来ます。
 あぁ、こんなライプの現場に居合わせた観客は幸せですよねぇ。拍手の雰囲気も本当に熱く、また呼応してノリまくるバンドの面々の中では、特にジョニー・グリフィンが、どうにもとまらないという山本リンダ現象! エキセントリックな咆哮の連発から一転してリラックスした有名曲引用フレーズへと流れる十八番のアドリブ構成が、実にキマっています。
 ちなみに企画と録音はパド・パウエルのバリ時代のパトロンだったフランシス・ポウドラであることは言うまでもなく、このふたりの繋がりは後に名作映画「ラウンド・ミッドナイト」へと昇華されるのですが、このアルバムに収められた演奏には、そうした友情と尊敬があってこその良い雰囲気が確かに感じられると思います。

A-2 John's Abbey / Bean And The Boys (Trio)
 これはパド・パウエルが主役のトリオ演奏ですから、なんともたまらない呻き声とドライヴしまくるビバップピアノの確固たるパウエル世界が現出しています。
 確かにそれゆえの好き嫌いはあるでしょう。
 しかし、これほど真っ当に厳しいモダンジャズを弾けるピアニストはパド・パウエル以外に存在しない事実にも愕然とする他はなく、とても2年後の他界は想像出来ないのですが……。

B-1 Wee (Quartet)
 再びジョニー・グリフィンが加わった白熱のビバップ演奏で、まさに速射砲の如く熱いフレーズが連発されるモダンジャズのテナーサックスが魅力の中心! アップテンポで些か単調なドラムスとベースの伴奏が、逆に効果的だと思います。
 それはパド・パウエルの好き放題に十八番のフレーズを弾きまくるという展開にもジャストミート♪♪~♪ 結果的に晩年となった時期にしては、なかなか力強いタッチと音の粒立ちの良さが、決して良いとは言えない録音の中で際立っているのは流石です。

B-2 52nd Street (Trio)
 これはトリオによる短い演奏ですが、パウエルの呻き声が尚更に迫真のピアノと相まって、強烈な印象を残します。というよりも、こうした日常的なリアルさが楽しめた当時のモダンジャズは、やっぱり最高だったという証かもしれません。

B-3 Hot Houes (Quartet)
 オーラスもジョニー・グリフィンが大活躍!
 最初はベースだけをバックに抑えた吹奏ですが、そこへパド・パウエルのピアノが割り込んでからは一転! ド派手なドラムスを従えての猛烈な勢いは、まさにジョニー・グリフィンの真骨頂という白熱のテナーサックスが炸裂します。
 ちなみにこの曲はスタンダードの「What Is This Thing Calles Love?」を元ネタに作られていますが、ジョニー・グリフィンは全く躊躇することなく、その原曲メロディを堂々と吹いてしまう憎めなさ!?! ようやくラストテーマで我に返るというミエミエをやっています。

ということで、バド・パウエルはこの録音を残した直後に帰米し、同年秋にはリーダー盤を作ったり、ライプ出演も頻繁にやっていたようですが、ご存じのとおり、それらは決して芳しいものではありませんでしたから、このレコードに記録された演奏が奇蹟的と言われるのも無理からん話です。

既に述べたように、同時期の音源は他にもフランシス・ポウドラによって私的に録音され、後年になって様々な形で世に出ていますが、最初に纏まったのは、このアルバムからでしょう。ただし我国では一時期、本当に入手が困難で、日本盤でも中古屋の目玉商品となるほどでしたし、バブル期の欧州盤ブーム以降はオリジナルLPがウルトラ級の高値の花!?!

ですから私有は再発盤で、しかも疑似ステレオ仕様の所為もあり、不必要なエコーが効きすぎていますが、それでも演奏の凄みは変わりません。もちろんCDが発売された時には飛びついて買ったのも本音ですが、今はこのアナログ盤を楽しむことが多いです。

またCDには前述した同時期のトリオ演奏が加えられていますが、今は入手が再び困難になりつつあるフランシス・ポウドラのプライベート音源を、ぜひとも集大成して欲しいものです。

最後になりましたが、録音が悪いと書きながら、実は率直な生々しさが如実に出ていますから、ファンにとっては苦にならないと思います。

そのあたりも同時に楽しむのが、所謂ジャズ者の掟というやつじゃないでしょうか。とにかく、これだけの熱演が聴けるのですから、御の字です。

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