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OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

アル・クーパーの血と汗と涙

2010-01-23 13:03:33 | Rock Jazz

Child Is Father To The Man / Blood Sweat & Tears (Columbia)

どんな人間にも屈辱とか、思い出したくもない出来事や時期があるでしょう。

それはアメリカンポップスやニューロック、そして現代大衆音楽を語る時、決して外せない偉人のひとりであるアル・クーパーにしても、後のインタビューで告白していたとおり、ブラスロックの代表的なバンドとして歴史に名を刻したブラッド・スウェット&ティアーズ=BS&Tに関する件は、それに該当するようです。

ご存じのとおり、BS&Tは同類のシカゴが登場する以前、ブラスロックの地位を確立したバンドで、「Spinning Wheel」や「Hi-De=Ho」等々の大ヒット曲も多数放っていますが、それはバンド設立者のひとりだったアル・クーパーが脱退して後の栄光でした。

その経緯を辿ってみると、まずBS&Tというグループはアル・クーパーとスティーヴ・カッツのふたりが同時に在籍していたブルース・プロジェクトという汎用系のブルースロックバンドにルーツあり、実はそこでホーンセクションを起用したがっていたアル・クーパーのアイディアを具象化するプロジェクトでした。

しかし現実は厳しく、アル・クーパーは活動の拠点としていたニューヨークを去る決意を固めていたそうですが、同じアイディアを持っていたスティーヴ・カッツがボビー・コロンビー等々のメンツを集めている事実に促され、ここに新しいバンドとして誕生したのがBS&Tだったと言われています。

それが1967年末のことで、最終的に確定されたメンバーはアル・クーパー(vo,org,p,g,arr)、スティーヴ・カッツ(vo,g)、ジム・フェルダー(b)、ボビー・コロンビー(ds,per,vo)、ランディ・ブレッカー(tp)、ジェリー・ワイス(tp)、ディック・ハリガン(tb,p,arr)、フレッド・リプシャス(as,fl,p,arr) という大所帯の8人組でした。

さらにプロデュースとアレンジに協力したのが、サイモンとガーファンクルやザ・バンドの名盤を誕生させたジョン・サイモン! 他にも有能な助っ人が幾人も参加したアルバムセッションは、契約したコロムビアの期待を表していたと思いますし、既にして業界での地位を確かなものにしていたアル・クーパーの顔の広さがあったのは、言わずもがなでしょう。

そして翌年に発売されたのが、本日ご紹介のアルバムだったのですが……。

 A-1 Overture
 A-2 I Love You More Than You'll Ever Know
 A-3 Morning Glory
 A-4 My Days Are Numbered
 A-5 Without Her
 A-6 Just One Smile
 B-1 I Can't Quit Her
 B-2 Meagan's Gypsy Eyes
 B-3 Somethin' Goin' On
 B-4 House In The Country
 B-5 The Modern Adventures Of
Plato Diogenes And Freud
 B-6 So Much Love / Underture

本日も結論から言えば、少なくとも我国のリアルタイムでは局地的な評価を除けばヒット盤にはなりませんでした。当時のメモを読み返しても、主役のアル・クーパーのアルバムで最初に話題になったのが、あのマイケル・ブルームフィールドと共演した2枚組のライプアルバム「フィルモアの奇蹟」が日本盤で発売された昭和44(1969)年頃だったでしょう。次いで「スーパーセッション」が相当に売れまくり、いよいよ出たのが、「子供は人類の父である」と邦題がつけられた、このアルバムです。つまり本国アメリカでの発売とは、順序が逆になっているのが日本の現実だったのです。

で、その頃、私は今や伝説のテレビ番組「ヤング720」の洋楽情報コーナーで放送された、アル・クーパーとマイク・ブルームフィールドの特集に接し、GSの中では本格的なロックを指向していたゴールデンカップスの面々が夢中になっているとの話から、特に興味を刺激されましたが、当時の中学生にLPレコードが簡単に買えるはずもなく……。

そうして時が流れ、高校生になったサイケおやじが聴いて、一発でシビレきったのが「スーパーセッション」や「フィルモアの奇蹟」だったわけですが、肝心のこのアルバムについては???……?

それは既に大ヒットを放って有名になっていたBS&Tとは、明らかに異なるムードが支配的だったからに他なりません。

極言すれば、アル・クーパーのソロアルバムのひとつ!?! そう思い込めば、収録の各楽曲は、なかなか味わい深い熱演トラックばかり♪♪~♪

まず冒頭のエキセントリックなストリングスの響きと純粋なメロディ、そして狂気じみた笑い声で作られた「Overture」から、まるっきりジェームス・ブラウンの「It's A Man's Man's World」を白人ロック的に焼き直した「I Love You More Than You'll Ever Know」へと続く流れは、アル・クーパー十八番の泣き節が全開♪♪~♪

また我国のソウル歌謡に強い影響を与えたことがミエミエの「My Days Are Numbered」、ジャズとバロックと歌謡曲がゴッタ煮みたいな「Just One Smile」、グループの初期を代表するハードソウルな「I Can't Quit Her」等々は、まさにアル・クーパーの魅力そのものだと、中毒患者のサイケおやじは断じますが、1967~1968年という時代を鑑みれば、随所に滲み出るビートルズのサージェントペパーズっぽい隠し味が、ニクイところかもしれません。

そしてもちろん、バンド演奏そのものがモダンジャズから現代音楽、フォークやロック、ブルースやR&B等々、なんでもござれの名人達によるものですから、例えばボサロックの「Without Her」は後年になってソフトロックのマニアに再発見されるほどセンス抜群の仕上がりになっていますし、オルガンが心地よすぎるゴスペルロックの「Somethin' Goin' On」、痛快ブラスロックとサイケデリックの幸せな結婚みたいな「House In The Country」、職業作家時代のキャロル・キングが畢生の名曲「So Much Love」の熱い歌と演奏には、涙がボロボロこぼれます。

しかし反面、「The Modern Adventures Of Plato Diogenes And Freud」の凝り過ぎた作風に代表されるような、ブラスロックとして楽しむには難解なストリングスや全体のアレンジが煮え切っていないのも、また確かだと思います。しかもそういうところが、アルバムそのもののイメージを怖いものにしているようにさえ……。

そうしたポイントは、実は何時までも古くならない名盤としての条件にもなっているわけですが、リアルタイムでは楽しくありませんでした。

もちろん当時、私はこのアルバムを買って聴いたわけではなく、友人から借りての鑑賞ですが、それゆえにテープに録音することもなかったのが現実です。

ところが、そんなサイケおやじがモダンジャズを聴き進むに及んで、突如として蘇ってきたのが、このアルバムの感触でした。

説明不要とは思いますが、モダンジャズ~フュージョンの世界では大スタアになるランディ・ブレッカー、クラシックが専門分野ながら、最高に熱い叫びを聞かせてくれるフレッド・リプシャス、名人芸が冴えまくりのボビー・コロンビーが叩くイカシたドラミング等々は、モダンジャズのイノセントなファンが聴いても納得する他はないでしょう。

また、もうひとりの立役者がスティーヴ・カッツで、その甘い美声によるボーカルとニューロックがど真ん中のギターが、如何にも♪♪~♪

ですから輸入盤が安く買えるようになった昭和40年代末のある日、ようやく私はこのアルバムを私有する決意を固めたわけですが、当然ながら、そこへ至るまでの間にはアル・クーパーやBS&Tの諸作は、がっちり聴いていました。

そしてアル・クーパーが、実はBS&T公式デビューから間もない時期にバンドを追い出される形で脱退した過去を知り、妙に納得するのです。どうやらライプの現場では、ジャズっぽいアドリブやヘッドアレンジ優先の演奏が得意だったバンドの特質にあって、ガチガチのアル・クーパーは浮いていたとか!? まあ、失礼ながら、ボーカリストとしての力量も弱く、アドリブもペンタトニックしか無い本人の資質からすれば、さもありなんでしょうねぇ……。

ということで、エキセントリックにしてクール、そして実に周到に作られた名盤だと思いますが、決して誰にでも好かれる作品ではないと思います。しかし聴かず嫌いは、本当に勿体無いですよ。

ロックファンもジャズファンも問わずに楽しめるといっては語弊がありますが、リアルタイムではない時期に聴いてこそ、妙な感慨を覚えるアルバムでした。

う~ん、自分で作ったバンドから追い出され、強烈に悔しい思いをした、これはアル・クーパーの深淵な企み……?

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アージェント!

2010-01-22 12:11:41 | Rock Jazz

Argent (CBS / Epic)

1960年代末から1970年代前半にかけて、数多くのヒットを放ったグループにスリー・ドッグ・ナイト=3DNがありますが、その得意技はオリジナルよりも所謂カパーヒットを狙う選曲センスの良さでした。

そして必然的に、そのオリジナルバージョンを聴いてみたいというのが、洋楽ファンの密かな楽しみに繋がっていた思います。

例えば昭和46(1971)年秋から冬にかけて我国でも大いに流行った「Liar」は、そのクールで熱いメロディと曲構成が、3DNならではの豪快にして粘っこい持ち味で表現されていた、実に私好みの素敵なヒット曲♪♪~♪ 結論から言えば、イギリスの4人組グループとして知る人ぞ知る存在だったアージェントが、1969年末に出したデビューシングル曲が初出のオリジナルバージョンで、もちろんそれはヒットしていません。

しかし私が最も驚かされたのは、このアージェントの正体で、それはなんと個人的にも大好きだったゾンビーズ直系のグループだったのです。

実はご存じのとおり、ゾンビーズは1960年代ブリティッシュビートのブームの最中にデビューし、「She's Not There」や「好きさ好きさ好きさ / I Love You」等々、リアルタイムでのヒットを飛ばしながら、それとは逆に経済的な問題やバンド側と制作&マネージメントサイドの思惑にズレがあったらしく、ついに1968年には活動停止状態……。ところがその間に出していた云わば旧譜の「ふたりのシーズン」がアメリカ国内で注目され、それが世界中に波及する大ヒットになったことから、オリジナルではない巡業専門のゾンビーズが幾つも現れたと言われています。

そしてその頃、本家ゾンビーズの残党だったロッド・アージェントとクリス・ホワイトは既に新しいバンドを計画中で、その紆余曲折の中では旧ソンビーズの面々とのセッションや新しいメンバーを物色中の音源も残されているものの、前述「ふたりのシーズン」の大ヒットに心中は如何ばかりだったでしょう……。

まあ、それはそれとして、とにかくロッド・アージェント(vo,key)、ラス・バラード(vo,g,key)、ジム・ロッドフォード(b,vo)、ロバート・ヘンリット(ds,per) で編成された本家ニューゾンビーズは、前述した事情からの「ゾンビーズ」という名前を封印、アージェントとして1969年末に発表したのが、本日ご紹介のアルバムです。

 A-1 Like Honey
 A-2 Liar
 A-3 Be Free
 A-4 Schoolgirl
 A-5 Dance In The Smoke
 B-1 Lonly Hard Road
 B-2 The Feeling Is Inside
 B-3 Freefall
 B-4 Stepping Stone
 B-5 Bring You Joy

結論から言えば、中身はゾンビーズから受け継いだお洒落なメロディ感覚とジャズっぽさ、そして当時流行になりつつあった所謂プログレを包括する英国流ロックジャズという、サイケおやじが大好きな歌と演奏ばかりです。

まずはゾンビーズ直系スタイルとして「Schoolgirl」が、実にたまりません。浮遊感満点の曲メロ、クールで熱いボーカル、そして間奏ではジャズっぽいピアノのアドリブ♪♪~♪

また同様に熱くさせられるのが力強い「Lonly Hard Road」で、もうゾンビーズのプログレ的展開としては絶句させられるほどですよ。キーボードのジャズフィーリングは言わずもがな、ギターとピアノと変幻自在のボーカルを披露するラス・バラードのソングライターとしての才能も強烈に楽しめる名演だと思います。

そして新しい試みしては、アメリカ南部風味というか、意外にもゴスペルロックの先駆けっぽい楽曲を披露していることで、例えばオーラスの「Bring You Joy」は実に情熱のスロービートで、ゴスペルを強く意識したピアノやコーラスが絶妙の彩りを添えたラス・バラードの絶唱が聞かれますし、ジョン・レノンがプログレしたような「Like Honey」も同じ味わいが良い感じ♪♪~♪

肝心の気になる「Liar」は、既に3DNのバージョンを知っていれば、明らかに物足りないでしょう。実際、私にとっても肩すかしでした……。しかし如何にも1970年代型のヒットパターンを確立していたアージェントの先進性は確かに感じられます。ただ、リアルタイムでは進み過ぎていたということでしょうね。

そのあたりのキャッチーな曲作りは、精密にしてラフな演奏が心地良い「Be Free」や欧州教会音楽の影響が色濃い「The Feeling Is Inside」、そして迷いをあえて露わにしている「Stepping Stone」が、決してイヤミになっていないことでも明らかだと思います。特に「Stepping Stone」はキメのリフレインが中毒症状さえ呼び起こすという、アブナサがヤミツキ♪♪~♪

ということで、虜になったら放せない隠れ名盤! というよりも、好きな人には好きとしか言えないアルバムだと思います。

告白すると、サイケおやじは当然ながら、リアルタイムで聴いたわけではありません。実はアージェントが本格的にブレイクしたのは、少なくとも我国では、昭和47(1972)年になって「Hold Your Head Up」が小ヒットしてから以降でしょう。また、さらに後になって、あの化粧バンドの最高峰だったキッスが、アージェントの「God Gave Rock And Roll To You」をカパーヒットさせてからじゃないでしょうか。

ですから私が、このアルバムを入手して、さらにゾンビーズからアージェントへと至る路程を知ったのは、昭和48(1973)年になっていましたし、その肝心のアナログLPも中古でガタガタのイギリス盤でした。

しかし、それでもサイケおやじの嗜好にジャストミートの内容は、絶対に手放せないアイテムの必要十分条件だったのです。

そして以降、後追いも含めて聴き進めたアージェントの素晴らしさは、筆舌に尽くし難ものがあります。

さらに現在、なんとそうした諸作品が紙ジャケ仕様のCDとして復刻で発売中! もちろん全買いモードのサイケおやじは、そのリマスターの素晴らしさにも感銘を受けましたので、皆様にも、この機会にお楽しみいただきたいと、願っています。

自分の好きなものには、必ずや共通点と流れがあるというのが、本日の結論なのでした。

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ガッツあふれる黒い炎

2010-01-05 13:13:18 | Rock Jazz

黒い炎 / Chase (Epic)

昨夜の宴会はご推察のとおり、不景気によるボヤキ優先モードが支配的でした……。

しかし今日からは気持を取り直して、とにかく前を向いていくしかないですね。

そこで朝っぱらから猛進するプラスロックを聴きました。

ご存じ、トランペットが激しく咆哮し、ロックのビートが炸裂しまくった1971年の大ヒット! 原題は「Get It On」ですが、これを「黒い炎」とした邦題は秀逸の極みとしか言えない、熱血が最高です。

そして実際、我国でも洋楽というジャンルを超越した有名曲となって、豪快無比なイントロやエンディングのキメのフレーズが、今もワイドショウやニュース番組のジングルに使われていますから、当時をご存じ無い皆様も、あっ、これだったのか!?! とシビレること請け合いです。

ちなみにチェイスはウディ・ハーマン楽団の看板トランペッターだったビル・チェイスが結成した本格的なブラスロックのグループで、メンバーはビル・チェイス(tp,arr)、テッド・ピアースフィールド(tp,vo)、アラン・ウェア(tp)、ジェリー・ヴレア(tp,vo)、エンジェル・サウス(g,vo)、フィル・ポーター(key)、デニス・ジョンソン(b,vo)、ジェイ・バリッド(ds,per)、テリー・リチャーズ(vo,g) の9人組ですが、やはりホーンセクションがトランペッターばかりというのが痛快なサウンドの秘訣でした。

ちなみにメンバーは何れもがジャズ畑出身であり、オーケストラやスタジオの仕事の他に、有名ジャズプレイヤーのバンドレギュラーも務めた実力派揃いでしたが、中でもドラムスのジェイ・バリッドは一時期のビル・エバンス・トリオでの活躍もあったという超一流です。

で、この「黒い炎」はデビューアルバム「追跡 / チェイス」からのシングルカット曲として白熱の大ヒットを記録したわけですが、アルバムも当然ながらチャート1位のベストセラーとなり、巡業公演も大成功しながら、なんとその大ブレイクの最中にレギュラーメンバーの脱退が続くという、実に不可解な出来事があり、セカンドアルバムの「ギリシャの神々 /  エニア」は、なんとも中途半端な仕上がり……。

しかも再起をかけてビル・チェイスが新メンバーで作った1974年のアルバム「ビュア・ミュージック」は、なかなかの仕上がりだったのですが、その直後の巡業中、飛行機事故により、ビル・チェイスを含む多くのメンバーが他界……。

当然ながら、バンドは消滅してしまいました。

それゆえにチェイスと言えば、この「黒い炎」の一発屋かもしれませんが、それにしても痛快至極なブラスロックの超王道は不滅!

BS&Tやシカゴの大成功により、1970年前後の時期はブラスロックのバンドが数多く登場しましたが、チェイスこそ、いつまでも忘れられないバンドだと思います。なによりも、この強烈に熱い「黒い炎」を残してくれただけで、サイケおやじは感謝に堪えない気持です。

テンションの高いイントロから疾走していく演奏を聴いていると、さあ、今日もやるぞっ! という力が漲ってくるのでした。

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ブライアン・オーガーの危機脱出

2009-12-17 12:55:27 | Rock Jazz

Closer To It / Brian Auger's Oblivion Express (Ghost Town / RCA)

最近はコメントを書きこんでいただける皆様の温かいご厚情に甘え、初期ニューミュージックの女性シンガーとブライアン・オーガーを交代アップしておりますが、そういうウケ狙いもサイケおやじの本性ということで、本日も続けているわけです。

で、このジャケットが死ぬほどダサいアルバムは、ブライアン・オーガーが自らお気に入りと公言している名盤として、もちろんファンにも認識された1枚です。

制作されたのは1973年、前作の大傑作盤「セカンド・ウインド」に続くアルバムですから、本来は最高の状況でレコーディングされるはずが、実は当時のバンドは主要メンバーが大量離脱した逆転どん底期……。

しかし何んとかバンドを存続させんと踏ん張ったブライアン・オーガーは唯一人、自分に追従してくれたベース奏者のバリー・ディーンの人脈を頼りに新メンバーを集めたと言われています。

そしてここに新生オブリヴィオン・エクスブレスを構成したのは、ブライラン・オーガー(org,el-p,key,vo)、ジャック・ミルズ(g)、バリー・ディーン(b)、ゴッドフリー・マクレーン(ds)、レノックス・レイトン(per) という5人組なんですが、気になる点は専任ボーカリストが居ないという点でしょう。

これについてはブライアン・オーガーが自ら歌うという苦肉(?)の策をメンバーに納得させるため、レコーディング直前まで巡業ライプを続けていたそうですから、その意気込みは大いに共感を覚えるところですし、実際、このアルバムに記録された演奏からは、個人的に以前に気になっていたブライアン・オーガーの歌唱力のトホホな雰囲気が、それほど感じられません。

否、それが逆に濃厚な演奏の中にあって、不思議な和みを醸し出しているとさえ、思えるのです。

A-1 Whenever You'er Ready
 いきなりセッションが開始される前のリラックスした雰囲気までも録音されているムード良さが、そのまんま自然に発展していく展開がたまりません♪ そしてグルーヴィにして熱気溢れるファンキーハードロックのムードが、ブライアン・オーガーの本来持っているモダンジャズの素養にジャストミート!
 加速した演奏の中から浮かび上がって来るボーカルパートもイヤミなく、なによりもドラムスとパーカッションのテンションが高いですから、続くブライアン・オーガーのオルガンアドリブも鋭く突進していくのです。
 また如何にものリズムギター、土台を固めるベースとエレピの安定感も流石だと思います。そして当然ながら、これは当時はクロスオーバーと呼ばれたフュージョンですが、随所に正統派モダンジャズの味わいが滲み出ているのにも、ニヤリ♪♪~♪ おぉ、至上の愛!

A-2 Happiness Is Just Around The Bend
 初っ端からブライアン・オーガーのエレピがハービー・ハンコックではありますが、パックのラテングルーヴが当然ながら、リアルタイムで人気のサンタナになっているは潔いかぎりです。
 そしてボーカルパートに入っては、スティーリー・ダンがブリティッシュロックしたような、実にマニア泣かせの展開にシビレがとまりません♪♪~♪ 彩りに使われるシンセのエグイ雰囲気は、やりすぎ寸前の危険信号でしょうか。
 う~ん、それにしてもブライアン・オーガーはエレピを弾いても気持良いグルーヴを提供してくれますねぇ~♪
 ちなみに、これはスティーリー・ダンの最初のヒット曲「Do It Again」との類似性も指摘されるところだと思いますが、ほとんど「鶏と卵」かもしれません。

A-3 Light On The Path
 これまたサンタナとスティーリー・ダン、さらにハービー・ハンコックあたりがゴッタ煮となった演奏ですが、ブライアン・オーガーのオルガンからはブリティッシュロックの香りが立ち昇ってくるという、なかなか魅力的なインスト曲♪♪~♪
 しかも、そこにはウケを狙った美味しいフレーズなんか、ひとつも出さないという、本当にハードコアな姿勢が潔いかぎりです。
 それはギターのジャック・ミルズにも言えることで、あくまでも個人的な感想では決して超一流のプレイヤーではないと思うのですが、しかしここでの思いつめたようなアドリブソロは幻想的な味わいも強い、正統派プログレ風ロックジャズになっています。 

B-1 Compared To What
 これは基本が一発録りの魅力というか、素晴らしく自然体のグルーヴが楽しめるアドリブ主体の快演です。ヒーヒー泣きまくるブライアン・オーガーのオルガンは、本当にモダンジャズですよ。
 しかし要所に配されたキメ、強いビートを叩き出すドラムスとベースのコンビネーション、熱いアクセントを隠し味としたパーカッションが侮れません。
 そして、いよいよ出てくるブライアン・オーガーのダブルトラックによるボーカルが、なかなか根性の入った憎めないスタイルですし、ジャック・ミルズのギターソロも健闘しています。
 特に中盤以降、後半へ向けての熱気は煮詰まった美味しさでしょうね♪♪~♪

B-2 Inner City Blues
 ご存じ、マービン・ゲイの代表曲のひとつとして、今や1970年代ソウルやレアグルーヴの枠に留まらない認識度がありますから、後追いで楽しまれる皆様にも気になる演奏でしょう。
 ここではオリジナルのダークでメロウな、ある意味では心地良い倦怠感を活かしつつ、さらに如何にもジャズ優先主義でありながら、実はロック感覚の加味も忘れていない秀逸なバージョンに仕上げられています。
 ただし、それゆえに物足りない部分も確かにあって、もう少しアドリブパートのエグ味が欲しいところなんですが……。
 実はこの演奏は本来、シングル盤を作るためのものだったらしく、実際に発売された7インチのバージョンを聴くと、その音圧の強さとメリハリの効いたミックスが最高に魅力的なんです。ちなみにアルバムバージョンは約4分半、シングルバージョンが約3分半なんですが、もちろん基本は同じながら、幾分の演奏の違いも散見されていますので要注意!
 CDでの復刻については未確認ですが、機会があれば、このシングルバージョンはなかなか気持が良いんで、お楽しみ下さいませ。

B-3 Voice Of Other Times
 そして前曲の些か煮え切らないムードを上手く引き継ぎ、これぞっ、メロウファンクの極みつきといも言うべき、実に素敵なグルーヴが放出される、このオーラス!
 無機質なドラムスのイントロが、最高に心地良いコード進行の響きに溶け込んでいく最初のパートから、ツボを掴みきった短いギターソロ、脱力系のボーカルにグッと気分を高揚させるベースの定型パターン♪♪~♪
 このあたりは今で言う「ハウス」系の味わいでもあり、それゆえにブライアン・オーガーのエレピとオルガンが琴線にふれまくりですよ♪♪~♪ あぁ、この浮遊感♪♪~♪ さらにパーカッションが素敵なアクセントになっているのは言うまでもありません。

ということで、なかなか魅力的なアルバムとして、私は発売当時から夢中になったのですが、実は今となってはブライアン・オーガーの諸作の中では、それほどの名作ではないと思います。

ただし1973年という時代からすれば、これは当時のクロスオーバーからフュージョンへの懸け橋的な評価もあるわけですし、何よりも英国のロックミュージャンとしてしか見られなかったブライアン・オーガーが立派にジャズの本流を演じていたという認識が、特に我国の評論家の先生方やイノセントなジャズファンに芽生えたというあたりは、今さら隠しておく話でもないでしょう。

また当時の現実として、このアルバムはイギリスではCBS、アメリカではRCAという大手から配給されながら、特にアメリカでは、このフヌケたジャケットデザインが象徴するように、レコード会社からは全く期待されていなかったようですし、実際、業界での評判は芳しいものではありませんでした。ちなみにそれは、イギリス盤の素敵なジャケットデザインと比較すれば、まさに一目瞭然! 呆れるほどです。

そしてグループそのものの状況も厳しく、このレコーディングも低予算を逆手にとったスタジオライプ形式だったと言われていますし、プロモーションを兼ねた巡業も完全に自腹だったというのですから……。

しかし、それが好転したのが、アメリカでの地道なライプ活動だったそうで、主に大学を巡ったツアーから人気がジワジワと沸騰していったのは、ほとんど大衆的ではないブライアン・オーガーの音楽性と上手くリンクしていた当時の若者の「ロックに飽きた気持」だったのかもしれません。

時代はフュージョン全盛期に入り、またポップスもジャズ風味が感じられるAORが流行の兆しとなっていれば、ブライアン・オーガーが提供するイケイケのハードロックジャズと心地良いメロウグルーヴのゴッタ煮は、とても美味しかったというわけです。

最後にもう一度、このジャケットのダサダサの話を書いておけば、これを新譜として発見したサイケおやじは、もしかしたら、そのあまりの酷さゆえ、これは未発表作品集かと思ったほどです。それが実際に聴いてみれば、当時としては本当に画期的に熱い演奏ばかりでしたから、忽ち私は各方面に素晴らしさを喋りまくり、このアルバムも仲間達の間を転々と貸し出されていきました。

掲載したジャケ写の傷みも当然ですよね。

そして後に、全く別なデザインのイギリス盤を発見して、そのあまりの違いに愕然とさせられたわけですが、実際の音に関して言えば、アメリカ盤の方が音圧が高くて結果オーライだと思います。

このあたりはCDで聴けば、何の問題もないはずですから、お楽しみ下さいませ。

あぁ~、それにしても、こうして書いていながら、私はブライアン・オーガーのグルーヴ天国にどっぷり♪♪~♪ 抜け出せなくなりました。

お詫び
現在、イギリス盤が手元にありません……。
それゆえ、ジャケットを比較掲載することが叶いませんでした。
ご容赦下さい。

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ブライアン・オーガーの意地は痛快!

2009-12-15 11:53:51 | Rock Jazz

Definitely What / Brean Auger & The Trinity (Marmalade)

最近は我国でも人気が著しく安定したイギリスのキーボード奏者、その名もブライアン・オーガー&ザ・トリニティの2枚目のアルバムですが、実はデビュー盤だった前作「オープン」、および関連シングル曲がバンドメンバーだった女性歌手のジェリー・ドリスコール名義で売り出されたことから、ブライアン・オーガーは怒り頂点!

そこで当時のプロデューサー兼マネージャーだった凄腕興行師のジョルジォ・ゴメルスキーと大喧嘩の末に、ようやく実質的なリーダー盤として制作されたのが本作の真相という逸話は有名なところでしょう。

そしてもちろん、中身は秀逸なロックジャズ♪♪~♪

というか、如何にも1960年代末のイギリスという、爛熟したポップサイケとモダンジャズが最高に上手く融合した傑作だと思います。

メンバーはブライアン・オーガー(org,p,vo)、デイヴ・アンブローズ(b)、クライヴ・サッカー(ds) というトリオを中心に、ジャズ系のビッグバンドやストリングスのセッションオーケストラ、また男女混声のコーラス隊が大きく参加していますが、ブライアン・オーガーのボーカルはともかく、オルガンのアドリブや演奏全体の熱気、さらにツボを押さえたアレンジの妙が実に秀逸!

A-1 A Day In The Life
 ご存じ、ビートルズが至高の名曲として、その楽曲の完成度の高さもありますから、モダンジャズでもウェス・モンゴメリー(g) やグラント・グリーン(g) 等々、ソフトロックとソウルジャズの巧みな折衷名演が多数残されていますが、このブライアン・オーガーのバージョンも素晴らしいです♪♪~♪
 いきなりオルガンがリードしていく曲メロの背後には重厚にしてメリハリの効いたオーケストラが配され、しかもボサロックなドラムスにソウルフルなエレキベース! もう、ここだけで完全にサイケおやじが大好きな世界です。
 ちなみにアレンジャーとしてジャケットにクレジットされているのはリチャード・ヒルとブライアン・オーガー本人ですが、両者共に当時のヴァーヴやCTIあたりの所謂イージーリスニングジャズを相当に研究したと思われる仕事は、流石に目配りが秀逸だと思います。
 そして肝心のブライアン・オーガーのオルガンは、そのクールな雰囲気と押さえ気味のアドリブがバックのオーケストラと自然に融合し、中盤からの盛り上がりには血が騒ぎますよ。さらに最終盤のピアノの一撃は、オリジナルへの敬意でもありますが、次曲への繋ぎとしても最高の効果になっています。

A-2 Geoge Bruno Money
 で、そのピアノの一撃を合図に、間髪を入れずスタートするのが、このスピード感が心地良すぎるオルガンジャズの決定版! ほとんどジミー・スミス&オリバー・ネルソンの世界を疑似体験する痛快な潔さです。
 しかも、これは賛否両論でしょうが、ブラアン・オーガーが自ら歌ったと思われるボーカルは正直、オトボケとしか思えないものがあります。しかし、その一生懸命さゆえに可愛くもあり、憎めません。
 まあ、それはそれとして、ここではやっぱりオルガンジャズの楽しさを徹底的に楽しめることを楽しみましょうね。スバリ、楽しいんですよ♪♪~♪

A-3 For Horizon
 これまたモードジャズにどっぷりのボサロック系サイケデリック演奏で、その幻想的で深みのある曲メロが一瞬、ハービー・ハンコック?
 と思った次の瞬間、心地良く脱力したボーカルが聞こえてくる展開が、如何にも当時の最先端を狙ったものでしょう。しかし、ここでも演奏パートの方が魅力的なのは言わずもがな、全体のアレンジの綿密にして分かり易いところは、後のフュージョンに繋がるものかもしされません。

A-4 John Brown's Body
 あまりにも有名なメロディを素材にソウルフルなロックジャズが遠慮なく楽しめます。
 ファンキー&ゴスペルなブライアン・オーガーのオルガン、セカンドラインまでも叩いてしまうドラムス、そして重心をさらに低くして蠢くエレキベース! 本当に最高♪♪~♪
 おまけに大コーラスとオトボケのホーンセクション、各種のお遊び風効果音が、最後の最後で正体を現すという仕掛けも憎めませんねぇ。

B-1 Red Beans And Rice
 スピード感満点に突っ走るロックジャズのインストですから、当然ながらブッカーT&MG's のオリジナルバージョンをブリティッシュロックで解釈したと書くべきなんでしょうが……。
 率直に言えばハードロックと4ビートの味わいばかりが強調され、個人的には、もう少しソウルフルなムードを望みたいところです。
 しかし爽快感は抜群で、これを聞きながら車の運転をしていると、完全にスピードオーバーでしょうね。アブナイ、アブナイ!

B-2 Bumpin' On Sunset
 これは嬉しい選曲で、もちろんウェス・モンゴメリーが秀逸なオリジナルバージョを残しているイージーリスニングジャズの素敵なメロディ♪♪~♪ それをブライアン・オーガーは実に愛情溢れる解釈で、まさに薬籠中の快演を聞かせてくれます。
 リズム隊の定型ビートを土台に、まるっきりそのまんまのアレンジが逆に潔いオーケストラを従え、ブライアン・オーガーのキーボードが冴えわたりアドリブパートは、要所にキメを入れつつも、極めて自然体の計算が働いているようです。
 そして本人にとっても会心の仕上がりだったのでしょう、後々までライプでは人気の演目となり、また再演バージョンも残されていますが、ここでのテイクは流石に素晴らしいと思います。

B-3 If You Live
 ブライアン・オーガー流儀のジャズブルースというか、ピアノを弾き語るようなムードは失礼ながら本人のヘタウマボーカルによって、なかなか十人十色の好みが魅力的かもしれません。
 ただし結論から言うと、次曲の「Definitely What」が些か凝り過ぎのところがありますから、その前段として、こういうリラックスした演奏が配置されたアルバム構成は用意周到でしょう。実際、間奏でのピアノは実にグルーヴィなアドリブを聞かせてくれますから、私はそれなりに楽しい気分にさせられてしまうのですが……。

B-4 Definitely What
 土人のリズムと原始の響きを思わせるフルート、それがフリージャズなペースソロに繋がり、またまたフルートによる素朴なメロディが流れてくるという、ちょいと???の展開ですから、う~ん……。
 実はブライアン・オーガーの、これが悪いクセというか、自分のリーダー作では、ほとんど毎回、ひとつはやってしまう毎度の凝り過ぎなんですよねぇ……。おそらく何かの意地か、失礼ながら勘違いの創作意欲なんでしょうが、個人的には楽しくありません。
 しかしアルバム全体の流れからすれば、オーラスに意味不明の進歩(?)的な演奏を入れるというのは、当時のロックでもジャズでも、はたまたポップスの世界でさえも、ひとつの「お約束」になっていた売れセンの歴史もありましたですねぇ。
 そのあたりを覚悟して聴けば、これも悪くないという苦しい言い訳なのでした。

ということで、このアルバムもまた、今日ではCD化されていますので、機会があればお楽しみ下さい。

また同時期に出していたシングル曲も、今日では様々な形で復刻されていますが、そこには尚更に大衆的なロックジャズやソウルジャズが刻まれていて、このアルバムには収めきれなかった快楽主義が楽しめますので、要注意だと思います。

ちなみに私は当然ながら後追いで聴いたわけですが、これが世に出た1968年はロックもジャズもR&Bもポップスも、ある意味ではひとつの頂点にあった時期でしたから、その狭間で揺れながら様々にクロスオーバーを試みていたブライアン・オーガーの奮闘は十分に価値のある仕事だったと思います。

それゆえに今日の人気もムペなるかな、1970年代のフュージョンブームでのブレイクも含めて、残された作品群は好きな人には好き! そういう頑固さを弁護してくれるのが、ブライアン・オーガーの魅力のひとつかもしれません。

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ここ一番のブライアン・オーガー

2009-09-04 11:08:57 | Rock Jazz

Second Wind / Brian Auger's Oblivion Express (Ghost Town / Polydor)

ジャズロックとロックジャズが、どう違うのか?

その議論からはひとまず逃げながらも、私は初期イエス、初期スティーリー・ダン、ジョン・マクラフリン、ジェフ・ペック……等々と並んで、いや、もしかしたら中でも一番好きなミュージシャンがブライアン・オーガーかもしれません。

キャリアのスタートはR&Bやモダンジャズというオルガン&ピアノ奏者ですが、イギリスという土地柄ゆえでしょうか、次第にブルースロックからソウルジャズに傾倒! ついに1967年になって自己のバンドを結成し、そのトリニティ名義で「オープン」という隠れ名盤を出しています。

しかし、この人は愚直なまでに頑固な生き様というか、決して世渡りは上手くないようですねぇ……。

イギリスや欧州では相当な力を持っていたマネージメントのジョルジオ・ゴメルスキーとの関係も上手くいかず、それは自分の道か、お金への執着かという二者択一とはいえ、その一途な情熱が、残された作品群に顕著に感じられるのは確かです。

つまり売れなくとも、好きな人には、たまらなく好きになるしかない! そんな演奏ばっかりなんですよ。

さて、本日ご紹介のアルバムは、ブライアン・オーガーが前述したジョルジオ・ゴメルスキーと別れ、独力で結成したオプリヴィオン・エクスプレスという新バンド名義の3作目ですが、発売された1972年当時としては最高にハードでカッコ良すぎるロックジャズが満載♪♪~♪ 前2作にあった迷いが見事に払拭された名盤だと思います。

メンバーはブライアン・オーガー(p,el-p,org) 以下、アレックス・リジャーウッド(vo,per)、ジム・ミュレン(g)、バリー・ディーン(b)、ロビー・マッキントッシ(ds) という、今でもちょいと無名に近い面々ですが、その腕前は強靭無比!

A-1 Truth
 重いビートとキメまくりのリフ、随所に仕掛けられた罠を潜り抜けて披露される演奏は、強靭なグルーヴとロックだけが持つ爽快感に満ちています。作者の強みを活かしたアレックス・リジャーウッドのボーカルも、実に熱いですよ。
 う~ん、しかしこれは、最初に聴いた時から唸ってしまったんですが、曲の構成やキメが、前年に発売されたジェフ・ペックのリーダー盤「ラフ・アンド・レディ(Epic)」に収録の「Situation」に、丸っきりのそのまんま!?! もちろん歌詞は変えてあるんですが、実はアレックス・リジャーウッドは、そのジェフ・ペックのアルバムセッションに最初は参加しながら、ソリが合わずに追い出されたと言われています。そうした経緯から、「Situation」はジェフ・ペックが書いた曲ということになっていますが、ご存じのように、ジェフ・ペックは曲が作れない有名ロックスタアの筆頭ですからねぇ……。何となく裏事情が読めてきそうな感じですし、曲タイトルも意味深!?!
 まあ、それはそれとして、とにかくここでの熱気溢れる演奏は圧巻!
 言ってはならないとは思いますが、ジェフ・ペックの「Situation」と比較しても、こちらが好きな皆様も多いんじゃないでしょうか。
 ジム・ミュレンの白熱のギター、ブライアン・オーガーのエキセントリックなオルガンとモード節が出まくったピアノのアドリブ! ヘヴィなビートを提供するベースとドラムスのコンビネーションも最高ですが、中でもハードロックがど真ん中の大嵐から、ブライアン・オーガーがピアノで見事なモダンジャズへと場面転換を演じる瞬間は、ゾクゾクして感涙悶絶♪♪~♪ ロックジャズを聴く喜びに満ちていると思います。 

A-2 Don't Look Away
 ファンキーフュージョンのブリティッシュロック的な展開とでも申しましょうか、歯切れの良いファンクビートに抑揚の無い曲メロ、さらに怖いキメを多用したブライアン・オーガーのエレピが、極めてジャズっぽいアドリブを披露しています。
 このあたりの無機質なグルーヴは、完全に同時代ではクロスオーバーと呼ばれたフュージョン前期のモデルケースのひとつだと思います。何よりもバンドとしての一体感が最高ですね♪♪~♪
 ちょっと聴きには馴染めない演奏かもしれませんが、中毒症状は必至でしょう。

A-3 Somebody Help Us
 これは初期スティーリー・ダンを更にハードした雰囲気が濃厚!
 アップテンポで痛快なリズムギターを聞かせてくれるジム・ミュレンは、井上バンドの「太陽にほえろ!」ですよっ。思わずニヤリとする皆様が、きっといるはずです。
 そしてアレックス・リジャーウッドは、この曲調では、当然ながらドナルド・フェイゲン風になるのですが、ここぞっ、での熱血シャウトは、やはり一味違います。
 また、それに追い撃ちをかけるのが、ブライアン・オーガーの激走するオルガンアドリブ♪♪~♪ このスピード感、実にたまらんですねぇ~♪

B-1 Freedom Jazz Dance
 さてさて、これはタイトルからしてもご推察のとおり、エディ・ハリスが畢生の名曲に独自の歌詞が付けられた人気演奏♪♪~♪ モダンジャズではフィル・ウッズやマイルス・デイビス……等々、有名なバージョンが数多残されていますが、ロックジャズではブライアン・オーガーを外すわけにはいきません。
 実際、ハードロックなボーカルとファンクビート主体の演奏パートが、ジワジワとリスナーを興奮させてくれる、その高揚感がクセになります。ミディアムテンポで深みのあるリズム、またビートのヘヴィな躍動感は、決して一筋縄ではいきませんが、安直な快楽主義に走らないブライアン・オーガーの頑固な姿勢が、そのまんまの凄みになっているようです。

B-2 Just You Just Me
 これまたアップテンポのファンキーロックで、いきなり緊張感を撒き散らすギター、刹那的なボーカルが曲メロを愚直に歌う背後からは、バンドの陰湿な思惑が滲んできます。しかし、これが実に心地良いですねぇ~♪
 そのフィール・ソー・グッドな時間を提供してくれるのが、ブライアン・オーガーのエレピという仕掛けがニクイばかり♪♪~♪ ただし、それとて快楽主義を優先させているわけではありません。あくまでもハードなグルーヴを追及しつつ、人生「苦」もありゃ、なんとやら♪♪~♪
 こういう、そこはかとないロックジャズのソウル風味こそが、このバンドの特異体質かもしれませんね。私は好きです。

B-3 Second Wind
 アルバムタイトル曲はプログレ風味も強いゴスペルフュージョンのヘヴィロック!
 と、例によって回りくどい表現しか出来ませんが、勿体ぷった中にもジワジワと表出してくるストレートな熱気が良い感じです。ただし一抹の重苦しさが、賛否両論でしょうねぇ……。

ということで、当時のブライアン・オーガーは経済的に相当に苦しかったと言われています。なにしろ巡業移動の交通費にも事欠き、レコーディングでは借金だらけ……。このあたりは弱小のプロレス団体のようですが、しかし何時だって手抜きをしない姿勢は、ようやくこの頃になって認められ、このアルバムも真っ当な売れ行きを示したそうです。

実際、私はこのアルバムによって、ますますブライアン・オーガーのロックジャズ天国へと導かれ、コンプリート収集の道を模索し始めたのです。

しかし現実はやはり厳しく、ようやく売れかけたバンドからはジム・ミュレンとロビー・マッキントッシが去ってしまい、ここで聞かれた熱血のロックジャズは、二度と再現されることがありませんでした……。

ちなみにロビー・マッキントッシは直後にアベレージ・ホワイト・バンドの結成に参加しているとおり、もっとソウルファンク的な演奏がやりたかったのかもしれません。

その意味ではブライアン・オーガーも、続くレコーディングでは黒人系のグルーヴを旗幟鮮明に追及していくのですが、個人的にはそれも好きとはいえ、だんだんと普通のフュージョンになっていたったのは残念……。

やはりロックジャズを演じているブライアン・オーガーが、一番好きなのでした。

近年はCD化もされておりますので、ぜひともお楽しみ下さいませ。特にA面ド頭の「Truth」は必聴ですよ。

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ジェリー・ドリスコールの素敵な横顔

2009-06-29 12:09:19 | Rock Jazz

Open / Julie Driscoll &  Brian Auger (Marmalade)

ブライアン・オーガーはイギリスでロックジャズやキーボードロックをやり続けてきた偉人だと思いますが、ようやく近年になって我が国でも人気が出たのは嬉しいところです。

私がブライアン・オーガーを知ったのは昭和44(1969)年でしたが、告白すればブライアン・オーガーが先ではなく、ジェリー・ドリスコールという女性歌手を通じてのことでした。

それは彼女が歌う「Tramp」というR&Bのスタンダード曲をラジオの洋楽番組で聴き、その真っ黒な歌唱に完全KO! 早速翌日、レコード屋へ行って、またまた仰天! なんとジェリー・ドリスコールは白人だったという衝撃は、今も鮮烈な記憶になっています。

そして横揺れしながら、しかし強烈なロックビートを生み出すバックの演奏が、ブライアン・オーガーが率いるトリニティというバンドだったんですねぇ~♪

しかも気に入った「Tramp」には完全にアメリカ南部風味が濃厚なホーンセクションまでもが付いていたんですから、たまりません。ちょうどブッカー・TとMG's のようなトリニティの演奏は、それ以上にジャズっぽい味わいもサイケおやじの好むところでした。

とは言え、その時にはレコードを買うことが出来ませんでした。

何故ならば、その「Tramp」はシングル盤が出ておらずLPだけだったんですねぇ……。

こうして悔しい気持ちを抱えつつ、時が流れました。その間、ブライアン・オーガーはアメリカでも人気が出ていましたし、1970年代からのクロスオーバーやフュージョンのブームがあって、そのキーボードを主体とした演奏は「キモチE~♪」ものの代名詞となり、さらに近年のレアグルーヴとかモッドなんて呼ばれる流行にもジャストミートしていたらしく、ブライアン・オーガーの人気は定着していくのですが……。

肝心のジェリー・ドリスコールは様々な芸能界的な問題から、ついに大ブレイクすることがありませんでした。

さて、本日ご紹介のアルバムは前述した中学生のサイケおやじをシビレさせた「Tramp」が入っているジェリー・ドリスコールのデビューアルバムで、当然というか、リアルタイムの日本盤よりは遥かに素敵なデザインが最高のイギリス盤です。

そして実はこれを入手したのは1974年だったんですが、またまた驚いたことにA面がブライアン・オーガーのリーダーセッション、そしてB面がジェリー・ドリスコールの歌をバックアップするブライアン・オーガー&トリニティという構成になっていたのです。

 A-1 In And Out
 A-2 Isoal Natale
 A-3 Black Cat
 A-4 Lament For Miss Baker
 A-5 Goodbye Jungle Telegraph

 ブライアン・オーガーはイギリス生まれの白人ですが、そのオルガンスタイルはズバリ、ジミー・スミスです。どうやら最初はホレス・シルバーに熱中してモダンジャズのピアノを弾いていたらしいのですが、ちょうどイギリスでブームになっていた黒人ブルースやR&Bにも傾倒し、ついにジミー・スミスに邂逅してからはハモンドオルガンをメインに演奏するようになったそうです。
 当然ながら、そうした活動はイギリスでも当時は珍しかったそうですが、実際の仕事としてはロッド・スチュアートの下積み時代として有名なスティームパケットと名乗る一座に入って注目され、そこで一緒だったのが、ジェリー・ドリスコールでした。
 そしてイギリスでは広くコネクションを有するジョルジオ・ゴメルスキーという興行師に見出されるように、ブライアン・オーガーはトリニティという自分のバンドを結成し、同時にジョルジオ・ゴメルスキーが契約したジェリー・ドリスコールのバックバンドとなるのですが……。
 このあたりの経緯には諸説があり、一概に書くことは出来ません。
 ブライアン・オーガーにしてみれば、あくまでも自分が主役と思っていたら、実はジェリー・ドリスコールばかりが売り出されて腐っていたとか……。
 で、そんなこんながあって作られたデビューアルバム「Open」が、ジャケットの表にジェリー・ドリスコール、しかしレコードのA面はブライアン・オーガーという構成になったのはムべなるかな、しかも曲間には様々に工夫した効果音が入れられた疑似トータルアルバムになっているのも意味深だと思います。
 肝心のトリニティの演奏はモダンジャズがモロ出し!
 メンバーはブライアン・オーガー(org,p,arr,vo)、ゲイリー・ボイル(g)、デヴィッド・アンブローズ(el-b)、クライヴ・サッカー(ds) という4人を中心にビックバンド風のオーケストラが加わっていますから、言うなればジミー・スミスとオリバー・ネルソン楽団の共演作品のような趣があります。
 4ビートで痛快にスイングする「In And Out」、ボサロックな「Isoal Natale」と続く2連発にはモード手法も当たり前に使われ、ブライアン・オーガーのオルガンの素晴らしさにはイノセントなジャズファンも満足させられるはずです。
 また当時は高校生だったと言われるゲイリー・ボイルのギターがオクターブ奏法から過激な早弾きまで、全く見事! 後年の大活躍を鑑みれば、我が国の渡辺香津美とイメージがダブってしまいますねぇ~♪
 そしてブライアン・オーガーの些か暑苦しボーカルが空回りしたような「Black Cat」はご愛敬かもしれませんが、オルガンのアドリブは地獄の炎! さらに一転してシンミリしたピアノが印象的な「Lament For Miss Baker」のビル・エバンスっぽい味わい深さも絶品だと思います。
 ただし「Goodbye Jungle Telegraph」は自意識過剰というか、妙なアフリカ趣味が??? 当時の流行だった新しいジャズの試みとしては秀逸かもしれませんが、フリーなサックスやフルートは……。
 
 B-1 Tramp
 B-2 Why
 B-3 A Kind Of Love In
 B-4 Break It Up
 B-5 Season Of The Witch / 魔女の季節

 さてB面は既に述べように、ジェリー・ドリスコールをメインにしたR&Bのロックジャズ的な展開が最高に楽しめます♪♪~♪
 まずは「Tramp」の熱いフィーリングにグッと惹きつけられ、ビックバンドをバックにした「Why」の気だるいムードが、エグ味の強い彼女のボーカルで煮詰められていく心地良さは、完全にヤミツキになるほどです。
 ただし続く「A Kind Of Love In」は大袈裟なオーケストラが??? まあ、これも当時の流行だったのかもしれませんねぇ……。シャーリー・バッシーでも意識したんでしょうか?
 しかし「Break It Up」のグルーヴィな歌いっぷり、強靭なトリニティの演奏とのコラボレーションには溜飲が下がります。スキャットボーカルによるピアノとのアドリブの応酬が痛快至極! 全く短いのが勿体無い! ブライアン・オーガーのピアノが低音打楽器奏法でゴリゴリと迫ってくれば、ジェリー・ドリスコールがエッジの鋭い唸りで応戦するという、実に最高の瞬間が楽しめますよ。
 さらにオーラスの「魔女の季節」はご存じ、サイケフォークのドノバンがオリジナルの名曲ですが、それをモダンジャズとサイケデリックブルースの美しき化学変化に仕上げた傑作バージョンが、これです♪♪~♪ 実際、この「魔女の季節」という素材は、当時のジャズロックやニューロックでも頻繁に演奏されていたわけですが、ここでのブライアン・オーガーのジャズを愛して、ニューロックも視野に入れた姿勢は特筆すべきだと思います。
 もちろんジェリー・ドリスコールも、気だるいセクシームードとグイノリのR&Bフィーリングを存分に活かした熱唱が眩いばかり!

ということで、これは個人的な愛聴盤ではありますが、最近は相当に多くの皆様にもファンがいらっしゃるはずと、推察しております。

ちなみにジェリー・ドリスコールは当時、歌手としては売れずにヤードバーズのファンクラブを手伝ったり、いろんなアルバイトをやっていたそうですが、やはり美貌と歌手としての才能は周囲が放っておくはずもなく、ブライアン・オーガーと組んだ巡業は苛烈を極めるほどの評判になります。

しかし、またそれゆえに芸能界的なあれこれも当然あったようで、トリニティとのコラボレーションはアルバムをもう1枚、それにシングル曲と未発表テイクを幾つか残した後、心身ともにボロボロになってリタイアしています……。

またブライアン・オーガーにしても、契約では自分のリーダーセッションのはずが、出来あがってみれば脇役扱いだったことから激怒! 結局、マネージャーのジョルジオ・ゴメルスキーに直談判の末に、次作のアルバムはジャズ色が極めて濃いセッションとなりました。

そして以降、ブライアン・オーガーは自己のバンドをメインにイギリスばかりでなく、アメリカでもブレイクしたというわけです。

最後になりましたが、このトリニティというバンドはドラムスもベースも、なかなか黒っぽい部分に加えて、ロック魂もなかなかイケてます。おまけに4ビートもシャープですし、最近の再評価は、それゆえかもしれません。

残念ながら、このバンドは1970年末には解散を余儀なくされ、ブライアン・オーガーは新たにオプリヴィオン・エクスプレスという、さらにジャズ寄りのグループを結成するのですが、そこでは些かロック風味が薄まってしまった印象もあることから、トリニティの存在感は私の中で尚更に大切なのでした。

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ファンキーインストでドライヴ

2009-06-19 11:40:26 | Rock Jazz

Pick Up The Pieces / Average White Band (Atlantic / ワーナーパイオニア)

既に何度も書いているように、洋楽ヒットにラジオが必須だったのが、「昭和」の事情でした。勉強しながら聴いていた深夜放送、車の中ではカーラジオ、そして海辺のラジカセ♪♪~♪ 全てが今となっては懐かしい過去の遺物でしょうか……。

さて、本日ご紹介のシングル曲は、昭和50(1975)年春から夏にかけて、ラジオから流れまくっていた実にカッコ良いファンキーインストの大ヒットです。

演じているのは平均的白人楽団!?

なんていう、やっている事とは正反対の皮肉っぽい名前のバンドで、実際、彼等はイギリスの白人グループでした。メンバーはヘイミッシュ・スチュアート(g,vo)、オニー・マッキンタイア(g,vo)、ロジャー・ボール(key,sax)、アラン・ゴーリー(b,vo)、ロビー・マッキントッシュ(ds,per)、モリー・ダンカン(sax,fl) という6人組! どうやらバンド結成までは各々がロンドンのスタジオで働いていたようです。

それが1972年頃にバンドとして纏まり、翌年にはデラニー&ポニーを解散してソロ活動をスタートさせていたボニー・リンのバックバンドに起用され、そのまま渡米して彼女のアルバムセッションに参加したことになっていますが、残念ながらそれにはクレジットが全くありません。

実はこのあたりの事情は後に推察出来たのですが、アベレージ・ホワイト・バンド=AWBとなった彼等6人組はレコード制作の契約を最初はMCAと結んでいます。しかしメンバーの気持ちは本場のR&Bで偉大なる実績を誇るアメリカのアトランティックへと傾いていたらしく、前述の渡米中に新しい話が進んでいたようです。

そして、とりあえずはMCAからデビューアルバムとなる「Show Your Hand」を1973年に発売した後、アトランティックへ移籍し、このシングル曲を含む名盤アルバム「Average White Band」を作るのですが、プロデューサーが黒人音楽の良き理解者だったアリフ・マーディンですから、その出来栄えは言うまでもありません。

このシングル曲にしても、サックスがメインのソウルインストではありますが、決して往年のジャズロックではなく、あくまでもロックを基本にしたファンキーグルーヴが最高に演出されていますし、もちろんジャズっぽさも自然体なアドリブが痛快♪♪~♪ また、何よりも覚え易いキメのリフが最初っから出し惜しみされずに使われているのも、ヒット曲の必要十分条件を満たしています。

現実的にはAWBはライブバンドだと思いますし、アルバムを楽しむのが基本でしょう。しかし、こういうイカシたシングルヒットがあってこその魅力も最高です。ジャケットに記載されている「全米第1位」というウリに偽り無し!

ちなみにAWBは、このセッションの後にドラマーが不慮の死……。あらたに黒人ドラマーのスティーヴ・フェローンが加入したことでバンド名が純粋では無くなりましたが、しかし尚更に強靭なファンキーグルーヴを獲得したことで、本格的な快進撃が始まり、1970年代後半から1980年代前半にかけてのフュージョンブームがあったにせよ、実に熱い活動を繰り広げてくれました。

機会があれば、皆様にはぜひとも聴いていただきたいバンドのひとつです。

そしてサイケおやじは、どうにか自分の車を中古で買ったばかりの1979年、AWBをカーステレオで鳴らしていたあの頃が、懐かしくなるのでした。

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トラフィックの復活と永遠

2009-04-22 11:39:41 | Rock Jazz

John Barleycorn Must Die / Traffic (Island)

トラフィックはブリティッシュロックの歴史を作った名バンドのひとつですが、ご存じのようにデイヴ・メイソン(g,vo) とジム・キャパルディ(ds,vo) が組んでいたザ・ヘリオンズという売れないグループに、当時は既にスタアになっていたスティーヴ・ウインウッドが参加して作られたという経緯は、後になって凄腕プロデューサーのクリス・ブラックウェルが目論んだ真相として、明らかにされています。

それゆえトラフィックというバンドは離散集合の繰り返しが、1967年のデビュー当時からの繰り返され、特にデイヴ・メイソンに至っては、素晴らしい曲と演奏を残している反面、アルバム単位では全てに参加していないという真相が、さもありなんです。

今となっては、その大きな原因がスティーヴ・ウインウッドのワンマン主義というか、ピアノもオルガンもギターもベースもボーカルさえも、全部自分で演じていたというところに、他のメンバーの反発がミエミエでしょう。

しかしスティーヴ・ウインウッドの才能は圧倒的!

全く、痛し痒しという結果がトラフィックの魅力でもあったわけですが、そこに居て、バンドをしっかりと纏めていたのが、クリス・ウッド(sax,fl) ではなかっでしょうか?

さて、このアルバムはスティーヴ・ウインウッドがトラフィックを一端は解散させ、例のスーパーバンドだったブラインド・フェィスの結成と分裂を経た後、再びトラフィックとして発表した傑作盤です。

録音は1970年の早春とされ、当初はスティーブ・ウインウッド(vo,p,org,g,etc) のソロアルバムとなるはずでしたが、セッションに参加したジム・キャパルディ(ds,per.vo) &クリス・ウッド(sax,key,fl,vo) という元トラフィック勢と意気投合した結果、トラフィックの再結成となったようです。

A-1 Glad
 何とも印象的なピアノイントロのキメフレーズからノリノリのテーマ演奏が流れてくると、あぁ、この雰囲気は1970年代の日活ロマンポルノのサントラ音源、そのまんま!
 という、実に魅惑的なインスト曲です。
 しかも驚くのは、メンバー3人だけの演奏なので、ベースやピアノ、キーボードは当然ながらスティーヴ・ウインウッドが何役もこなした多重録音であるにもかかわらず、極めて自然体のグルーヴが強烈無比! 重心の低いエレキベースの蠢きも、全く私の好むところですし、ヘヴィなビートと転がるようなドライヴ感は、明らかにニューオリンズ系R&Bの影響が大きいと感じます。
 その中で時にはワウワウ系の電気サックスまで聴かせるクリス・ウッドは、イノセントなジャズファンからすれば物足りないところもありましょうが、如何にも英国産ロックジャズと多国籍フィーリングが好ましく混ぜ合わされたスタイルとして、これも私は大好き♪♪~♪
 そして訪れるクライマックスは、スティーヴ・ウインウッドが弾く、まさにヨーロッパ教会音楽を強く連想させられるオルガンとピアノの様式美です。あぁ、この美しき流れの心地良さ♪♪~♪ その静謐な盛り上がりには、感動するしかありません。

A-2 Freedom Rider
 前曲からいきなり繋がって始まるのが、この熱いボーカル曲! そこに絡んでくるクリス・ウッドのフルートも最高にビューティフルです。
 プログレもソウルもジャズロックもゴッタ煮とした曲調は、これぞトラフィックなんですが、このあたりは後のスティーリー・ダンにもパクられたキメのリフがあったり、演奏パートの熱気は唯一無二の素晴らしさとして、これも後々のプログレバンドに大きな影響を与えていると思います。
 もちろん蠢きまくるエレキベースの快感は言わずもがな、アドリブパートでのフルートの響きを聴いていると、これまた1970年代の我が国アクション&エロ映画のサントラ音源がモロ♪♪~♪ 唸り続けるオルガンも最高ですから、全くサイケおやじには御用達の演奏として、永遠に不滅です。
 強烈なクライマックスの盛り上がりから、すぅぅ~とクールダウンしていくエンディングも素敵の決定版ですよ。

A-3 Empty Page
 英国メロディと黒人R&Bが巧みにミックスされた曲だと思いますが、その悪びれない演奏スタイルには好感が持てます。なんかブラインド・フェィスが演じてもOKかもしれませんね。
 しかしここでもエレピやオルガンが主体ですから、エレキギターが出ないロックの典型として、これも立派だと思いますし、エレキベースの大活躍はニクイほど!
 それとスティーヴ・ウインウッドのボーカルは本当に真っ黒で、流石は16歳の頃から天才少年として人気を確立していたのもムベなるかなです。

B-1 Stranger To Himself
 英国トラッドとスワンプロックの素敵な結婚という感じでしょうか、生ギターの凝ったキメのリフとかファンキーに躍動するリズムとビート、酔いどれてヤケッパチ気味のコーラスや暑苦しいギターソロあたりを聴いていると、気分はまさに1970年代ロックのど真ん中!
 その中にあって、スティーヴ・ウインウッドの歌唱は本当にツボを抑えたものでしょうねぇ。なんか出来すぎが逆に物足りないという……。

B-2 John Barleycorn
 そして続くのが、このアコースティックで素朴なメロディのアルバムタイトル曲♪♪~♪ 英国トラッドをメンバーがアレンジしたそうですけど、生ギターの素敵な味わいとクリス・ウッドのフルートが、なんとも魅力的です。
 そしてスティーヴ・ウインウッドのボーカルが原曲のメロディを大切にした歌い方というか、その気負いの無い説得力が最高じゃないでしょうか。

B-3 Every Mothers Son
 比較的自然主義の曲が続いた後に置かれた大団円が、この名曲にして名演です。
 熱いボーカルが冴えわたり、オルガンが唸り、ギターが叫ぶ展開の中で進む演奏は、メインの泣きメロが絶妙のスパイスとなって、グングンと盛り上がっていくのです。あぁ、聴いているだけで、力が漲ってきますよっ!
 そして中盤からのオルガンソロ、それを支えるジム・キャパルディのドラミングにもシンプルな魅力がありますから、重層的にダビングされたピアノやギターが尚更に演奏を熱くしているようです。
 最後のゴスペル大会も美しき「お約束」だと思います。

ということで、ロックジャズなA面、英国トラッドのゴスペル的展開というB面、と味わいが少し別れていますが、どちらもトラフィックというゴッタ煮バンドでしか作り出しえない演奏が楽しめます。

そこにはスティーヴ・ウインウッドという天才的なボーカリストにしてマルチプレイヤーの存在が、もちろん強いわけですが、A面でのクリス・ウッドの存在感も侮れませんし、作曲面でも貢献しているジム・キャバルディのドラミングが、けっこう良い味だと思います。

既に述べたように、A面はギター抜きが顕著なトリオということで、発表当時は違和感が確かにあったようです。実際、リアルタイムで聴いた私にしても、完全に??? なにしろ当時はエマーソン・レイク&パーマーもブレイク前でしたし、英国トラッドブームも我が国では無縁でした。もちろんフュージョンなんて分野もありませんでしたから、ジャズロックとしても中途半端だった感は否めません。

しかし虚心坦懐に聴いていると、とても心地良く、少しずつ私の感性にジャストミートしていったのです。

ちなみにその頃、これを聴いていたのは、某国営FMラジオ局からのエアチェックで、当時はアルバムを丸ごと流す豪気な番組があったのですよっ! ありがたい思い出です♪♪~♪

そしてアルバムを買ってからも、現在まで愛聴している1枚となりました。う~ん、やっぱり良いです♪♪~♪ 元祖ジャムバンド!?

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展覧会の絵

2009-04-20 10:01:20 | Rock Jazz

Pictures At An Exhibition / Emerson Lake & Palmer (Island)

クラシック音楽のジャズ化があれば、当然ながらロック化もあるのが大衆音楽の理でしょう。

例えば我が国の寺内タケシが演じた名盤「レッツゴー運命」は世界的にもヒットして高い評価を得ていますし、クラシックのメロディから大きなインスピレーションを得ているリッチー・ブラックモアにしても、前述した寺内タケシのアルバムに収録されていた「運命」や「白鳥の湖」を聴いてからギタリストとして目覚めたと語っているほどです。実際、リッチー・ブラックモアがディープパープルとして初来日した時には、寺内タケシのアルバムを買っていた伝説が残されています。

その他にも多くの名演が世界中にあるわけですが、本日ご紹介のアルバムも、そのひとつとして最も成功した人気盤だと思います。

主役のエマーソン・レイク&パーマーは、元ナイスのキース・エマーソン、元キング・クリムゾンのグレッグ・レイク、そして元アトミック・ルースターのカール・パーマーで結成された説明不要のプログレバンドで、1970年の正式結成以来、素晴らしいアルバムを作り続けたわけですが、同様にライブ演奏も強烈無比! それはメンバー各人の抜群のテクニックと音楽性の証明ではありますが、何よりもプログレでありながら、大衆性も忘れていないサービス精神の表れでもありました。

で、このアルバムはタイトルどおり、ロシアの作曲家、ムソルグスキーのピアノ組曲「展覧会の絵」をモチーフにしたトータルアルバムですが、驚いたことには、全篇がライブ演奏だということです。

事の発端はバンドリハーサルでキース・エマーソンが弾いていた「展開会の絵」をメンバーが覚えて、それがジャムセッションに発展し、ついには独自の解釈を施した組曲として完成させたと言われていますが、それは自分達だけの楽しみだったそうです。しかしある日、実際のステージで演奏したところが大ウケにウケまくり♪♪~♪ 1970年末頃の巡業からは定番演目となったそうです。

しかしバンドには、これを発売する意思がなく、それとは反する形で流出したライブ音源から作られた海賊盤がバカ売れしていた事実を鑑みれば、レコード会社からは猛烈な催促があっての結果が、このアルバムです。

その背景には、もうひとつの事情があり、キース・エマーソンが十八番のクラシック趣味が強く現れる「展覧会の絵」という演目に、他のメンバーが反発していたというわけですが……。実際にレコーディングされ、発売直後からベストセラーになってみれば結果オーライ! エマーソン・レイク&パーマーの人気は決定的なものになりました。

録音は1971年3月26日、イギリスはニューキャッスルのシティホールで行われたライブレコーディングから、メンバーはキース・エマーソン(org,key)、グレッグ・レイク(vo,b,g)、カール・パーマー(ds) が熱演を繰り広げています。

A-1 Promeande / プロムナード
 曲の紹介から観客が大熱狂という拍手喝采に続き、あまりにも有名なメロディが原曲の趣を大切にする厳かにして静謐なムードで提示されます。ここで聞かれるキース・エマーソンのオルガンが実に爽やかにして重厚♪♪~♪ 以降、LP片面をブッ続けて展開される組曲の印象を見事に決定づけています。

A-2 The Gnome / こびと
 これはムソルグスキーの原曲にカール・パーマーが別なパートを付けた演奏で、ドラムスとベースのキメが痛快という、いきなりテンションの高いアンサンブルは圧巻! そして続くヘヴィでプログレなバンド演奏は、この後の怖い展開を象徴するように、キース・エマーソンのムーグシンセが唸るのですが、クライマックスの嵐の予感が凄いです。

A-3 Promeande / プロムナード
 そして一転、またまた静謐なテーマメロディに、今度はグレッグ・レイクが独自の歌詞を付けたボーカルバージョン♪♪~♪ その静かな情熱が滲み出るような歌唱は、キング・クリムゾン時代からの魅力もそのままに、短いながら実に味わい深いものです。

A-4 The Sage / 賢人
 さらに続くのが、このグレッグ・レイクが畢生の名曲・名演♪♪~♪
 クラシックの影響が色濃いメロディとアコースティックギターの響きが、もう最高です。特に間奏で聞かせるギターソロは、簡潔なクラシックギターの味わいが新鮮で楽しく、またボーカルのせつせつとした感じも高得点でしょう。
 これはグレッグ・レイクの、ほとんど一人舞台なんですが、そこがミソ♪♪~♪

A-5 The Old Castle / 古い城
 こうして突入するのが前半のハイライト!
 キース・エマーソンのエキセントリックなシンセサイザーとドカドカ煩いカール・パーマーのドラムスが、あてどない会話を演じた後、ビシバシのシャッフル系ロックビートで繰り広げられるアドリブパートの痛快さ! ピック弾きでエレキベースを蠢かせるグレッグ・レイクも熱演です。
 まあ、こういう部分はジャズ者からすれば、物足りないと思うかもしれませんが、それは後のお楽しみ!

A-6 Blues Variation
 前曲から続いて突入するこのパートでは、実にスカッとするブレイクから、キース・エマーソンが得意のハモンドオルガンで、ジミー・スミスのロックジャズ化を見事に演じてくれます。そしてビンビンビンに弾けるグレッグ・レイクのエレキベースからは、後年のジャコ・パストリアスが十八番のキメに使っていたマシンガン単音フレーズが飛び出し、あっけないほどの元ネタばらしが痛快至極!
 さらに中盤からの場面転換のパートで演じられるテーマリフが、アッと驚くビル・エバンスの「Interplay」なんですから、もう絶句ですよっ! キース・エマーソンの両手両足をフルに使ったキーボードのロック魔術は、それこそジャズもクラシックのゴッタ煮の見事さです。

B-1 Promeande / プロムナード
 B面は再びテーマの提示から、ブッ続けの演奏が続きます。
 そしてこれは、そのヘヴィなバージョンですから、これから後のハードな展開は「お約束」というイントロになっています。

B-2 The Hut Of Baba Yaga / パーバ・ヤーガの小屋
B-3 The Curse Of Baba Yaga / パーバ・ヤーガの呪い
B-4 The Hut Of Baba Yaga / パーバ・ヤーガの小屋

 上記の3曲は完全なる一体感として楽しめる名演で、ムソルグスキーのオリジナルメロディを挟んだ中間部の「The Curse Of Baba Yag」はバンドのオリジナルパートですから、プログレハードでロックジャズな展開が存分に楽しめます。
 その土台を支え、バンドをガンガンにリードしていくがカール・パーマーのシャープでパワフルなドラミング! 実際、ここでのビシッとタイトな熱演は強烈無比の存在感ですから、キース・エマーソンが各種キーポードを全開させる大嵐も、またグレッグ・レイクのシャウトとエレベの暴れも、全く見事に熱くなっています。

B-5 The End - The Great Gates Of Kief / キエフの大門
 こうして迎える大団円が、この感動の名曲! グレッグ・レイクが歌詞をつけたボーカルバージョンではありますが、前曲のクライマックスから突如として歌い出されるメロディの大きな展開は、本当に泣きそうになりますよっ!
 キース・エマーソンの重層的なキーボード、カール・パーマーのヤケッパチ寸前のドラミングも、最後の静謐な締め括りには欠かせないという、実にクサイ芝居が憎めません♪♪~♪ もちろん観客からも感極まった拍手喝采なのでした。

B-6 Nutrocker
 これは完全なるアンコールの演奏で、曲はムソルグスキーではなく、チャイコフスキーでお馴染みの「くるみ割り人形」というのが嬉しい限り♪♪~♪
 実はこの曲もクラシックのロック化には欠かせないメロディとして、古くは1962年に Billy Bumble & The Stingers がヒットさせ、さらにベンチャーズの名演も残されている因縁があるほどですから、エマーソン・レイク&パーマーにしても避けてとおれない大快演♪♪~♪
 ノリまくったカール・パーマーのドラムス、自分が楽しんでいるとしか思えないキース・エマーソンの浮かれたキーボード、さらにグレッグ・レイクのエレキベースもジャコ化しています。最後のブル~スなキメも、わかっちゃいるけどやめられない♪♪~♪
 ちなみにこのバージョンはアルバムからシングルカットされ、当時のラジオからは流れまくっていましたよ。

ということで、私はこれが好きでたまりません。それほどに楽しくて分かり易く、しかもジャズもロックもクラシックもゴッタ煮の美味しさがあるんですねぇ~♪

初めて聴いたのはリアルタイムの高校生の時でしたが、その頃にはジャズにも浸りこんでいたサイケおやじにしても、全く圧倒されたほどにジャズっぽかったです。

ちなみにキース・エマーソンは、アマチュア時代にデイブ・ブルーベックあたりを好むジャズバンドをやっていたそうですが、プロになってからは1967年頃にクラシックとロックやジャズを融合させたバンドの先駆けとして有名な The Nice を結成し、数枚のアルバムを残しています。そしてなんとキース・エマーソンのピアノやオルガンは独学だっというのですから、なかなか驚きますよ。

そしてキース・エマーソンこそが、ロックでもキーボードが主役になれることを実証した偉大な先人! それまでのヒーローはギタリストでしたからねぇ。

またグレッグ・レイクはご存じ、キング・クリムゾンで「Epitaph」を歌って歴史を作った、この人も偉人ですが、クラシックやジャズ優先主義のキーマ・エマーソンをロックやフォークを含んだ所謂プログレに繋ぎとめたのも、大きな役目でした。

ここにカール・パーマーという強靭なテクニックを誇るドラマーが入ることで、キーボード・トリオという、当時は珍しかったバンド形態で大ブレイクを果たしたのは、1970年代前半の音楽界では、ひとつの奇跡だったかもしれませんが、それを可能したのが、このアルバム「展覧会の絵」の大ヒットだったと思います。

エマーソン・レイク&パーマーは、一応はロックということで敬遠されているジャズファンの皆様にも、これは機会があれば聞いていただきたい名盤と、本日も独断と偏見により断言致します。暴言、ご容赦下さい。

コメント (6)
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