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OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

ジェスロ・タルって!?!

2010-04-21 16:07:24 | Rock Jazz

Bouree / Jethro Tull (Reprise / 日本ビクター)

ネットやMTVなんてものが無かった昭和40年代の我国洋楽事情において、ラジオや音楽雑誌が大きな情報源だった話は、これまでも度々書いてきたことですが、その「音」と「静止画像」による伝えられ方は、場合によっては大きな誤解と妄想の原因にもなっていました。

例えば本日ご紹介のジェスロ・タルというイギリスのグループは、まずバンド名が奇異な感じでしたし、雑誌に掲載された写真では、メンバー全員が丸っきり老人のようなルックスで……。

しかもステージ写真では中心人物とされるイアン・アンダーソンという老人(?)が、薄汚い風采で片足上げてのフルート演奏という、完全に当時のロックのイメージから逸脱した佇まいが?▼☆!△◎???

どうやらやっているのはジャズっぽいロックらしいことは文章からも知れたのですが、そんな頃の昭和44(1969)年にラジオから流れてきたのが、掲載したシングル盤A面曲の「Bouree」でした。

う~ん、なんとそれはバッハが書いたクラシックのメロディをロックジャズで演じたインストだったんですが、その格調高くて真摯な雰囲気は、雑誌で見ていたジェスロ・タルのホームレス集団のようなイメージとは完全に逆のものです。

律儀な4ビートから始まり、何時しかポリリズムに依存したロックジャズへと進展していく演奏の見事な纏まりは、当然ながらアレンジとアドリブが共存共栄した作り物ではありますが、そんな真っ当なことをやるには、ジェスロ・タルという写真でしか見たことのないバンドのイメージが許せるものではなかったのです。

後に知ったところでは、1968年にレコードデビューした当時のジェスロ・タルはミック・アブラハムスという優れたギタリストを擁したブルースロックの正統派だったそうですが、最初のアルバムを作った時点からグループ内にゴタゴタが頻発し、ミック・アブラハムスが脱退して以降は、イアン・アンダーソンが完全に主導権を掌握し、英国流儀のフォークやジャズ、さらにクラシックの要素までもゴッタ煮とした独自の音楽性を目指す活動に入ったようです。

そしてこのシングル曲「Bouree」をヒットさせた時のメンバーはイアン・アンダーソン(vo,fl,key,g)、マーティン・パレ(g,fl)、グレン・コーニック(b)、クライヴ・バンカー(ds.per) という4人組になっていて、既に当時からステージでは「狂気のフラミンゴ」とまで称されていたイアン・アンダーソンの異才が強烈!

特にローランド・カークからの影響が大きいフルートの妙技は、リアルタイムから新鮮な驚きとなっていたようですし、実際、サイケおやじはローランド・カークを知るより以前にイアン・アンダーソンを聴いていましたから、本家のローランド・カークをイアン・アンダーソンの影響下にある人だなんて、本当にバカなことを逆印象したほどです。

現実的には日本でどの程度の人気があったのか、ちょっと知る由もないのですが、ルックスが意図的にしろ老成していましたから、パッとしたものではなかったはずです。しかし音楽雑誌等々のレコード評は高得点!? また来日公演も1970年代にあったと記憶していますから、決してマニアックな存在ではなかったのでしょう。

しかしサイケおやじは、この「Bouree」が全てというか、ロック喫茶あたりで聴く機会もあった名作アルバム群にも、イマイチ食指が動きませんでした。それでもレコード屋に行けば、相当数出ているジェスロ・タルの諸作が気になったりするのですから、やはり存在感は強く印象づけられているんですよね。

実際、このシングル盤を買ってしまった前科も打ち消せません。

まあ、それもイアン・アンダーソンという鬼才ゆえのことだと、妙に納得しているのでした。

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サイボーグのウェザー・リポート

2010-04-12 17:07:24 | Rock Jazz

I Sing The Body Electric / Weather Report (Columbia)

ウェザー・リポートの諸作の中で、おそらくは一番に聴かれていないのが1972年に発表された、この公式セカンドアルバムじゃないでしょうか? 特に我国ではジャズ喫茶から率先して嫌われ続けていたように思います。

 A-1 Unknown Soldier (1971年11月録音)
 A-2 The Moors (1971年11月録音)
 A-3 Crystal (1972年1月録音)
 A-4 Second Sunday In August (1972年1月録音)
 B-1 Medley (1972年1月13日録音)
      1) Vertical Invader
      2) T.H.
      3) Doctor Honoris Causa
 B-2 Surucucu
(1972年1月13日録音)
 B-3 Directions (1972年1月13日録音)

上記の収録演目はA面にスタジオでの新録音、B面にはライプ音源という構成が本国アメリカでは目新しかったかもしれませんが、そのB面が来日公演からだった所為で、なんと同じソースを使った2枚組「ライブ・イン・トーキョー(ソニー)」が日本独自発売になっていたのです。

さらに何ともSFしているジャケットは、当時のイノセントなジャズファンにとっては特に忌み嫌う要素になっていました。

もちろんサイケおやじもリアルタイムのジャズ喫茶で聴いたことは、ほとんど無い!? という記憶でしたから、ウェイン・ショーターへの義理を果たすべく買ったのも、輸入盤が安くなった1974年のことでした。

そして聴いて吃驚!

そこには多彩なゲストを起用したスタジオ録音にレギュラーグループだけのB面という、まさにアナログ盤LPならではの両面性が見事に構築されていたのです。

まずA面冒頭からの2曲、「Unknown Soldier」と「The Moors」には前述したとおり、多くの助っ人ミュージシャンが集められ、中にはラルフ・タウナー(g) やヒューバート・ロウズ(fl) といった有名人から数名のコーラスシンガーやストリングスセクションまでも動員した、相当に練り込んだ演奏が作られています。

ちなみに当時のウェザー・リポートはウェイン・ショーター(ss,ts)、ジョー・ザビヌル(key)、ミロスラフ・ビトウス(b) の3人が所謂「Shoviza Productions Inc.」として制作全般の責任を負い、他に一応のレギュラー扱いだったのがエリック・グラバット(ds) とドン・ウン・ロマン(per) だったようです。

で、とにかく「Unknown Soldier」は4ビートのスタートですから、ジャズ者にも親しみがあって当然なんでしょうが、テーマらしき部分ではコーラスが入っていますし、どこがアドリブなのかわからないような展開では……。しかしその流れの中で炸裂するエリック・グラバットのドラミングや自由闊達に暴れるミロスラフ・ビトウスのペースは痛快ですし、多重録音で空間を自在に飛翔して出現するウェイン・ショーターのソプラノ&テナーのアグレッシプなソロプレイには、後年の全盛期には感じられない突飛さがあるのです。

さらに作曲したジョー・ザビヌルの趣味だと思われますが、様々な効果音やキメのコードワークも、なかなかに味わい深いですねぇ。

ただしそれは、当時のモダンジャズでは許容範囲を超えていたと思います。

ですから続く「The Moors」にしても、いきなりラルフ・タウナーのアコースティック・ギターが弾き出される展開に、ついていけないものを感じてしまうのでしょう。実際、始まりから曲全体の半ばまではギターソロなんですよ!?! そしてようやく作者のウェイン・ショーターがソプラノサックスで斬り込んで来たかと思えば、演奏は短いクライマックスで終息してしまうのです……。

そしてミロスラフ・ビトウスが書いた「Crystal」が、これまた問題というか、如何にも優しいメロディのようで、かなり抽象的なテーマと全体演奏が曲者です。極言すれば「アイランド」期のキング・クリムゾンのようでもあり、ソフトマシーンの類似系でもあるような、しかしそれでいて、これはウェザー・リポートでしかありえないのは、ウェイン・ショーターが多重録したサックスの真っ当なジャズっぽさがあるからでしょうか……。

そんな不可解なミステリは「Second Sunday In August」にも継承されていて、演奏をリードしていくウェイン・ショーターの足を引っ張るが如き他のメンバーの意地悪さが、実はひとつの終焉に向かっていくのですから、侮れません。

あぁ、疲れるなぁ~~。

でも、どこか心地良いんですよねぇ~~♪

という気分でレコードをひっくり返したB面は、いゃ~、本当にスカッとしますよっ!

基本は1972年の来日公演から渋谷公会堂でのライプ音源なんですが、巧みな編集によって前述した日本独自発売の2枚組アルバムよりも、ある意味では楽しめます。

まずはエリック・グラバットのドカドカ煩いドラムスが全力疾走し、千変万化のロックジャズが展開される「Medley」の中には、電気アタッチメントを使ったミロスラフ・ビトウスのアルコ弾きのアドリブが、なんとマイルス・デイビスがウリにしていた電気ワウワウのトランペットと同じ味わいになっています。

またリングモジュレーターやエレピを駆使するジョー・ザビヌルが、本当にファンキーロックがど真ん中の熱演ですから、ウェイン・ショーターが尚更に奇怪なフレーズを連発するという展開は、完全に当時の主流派ジャズから逸脱していたと思います。

ただし意地悪い観点としては、結局はマイルス・デイビス抜きのマイルスバンドであり、そこに至ったマイルス・デイビスが如何にジョー・ザビヌルやウェイン・ショーターといった、かつての子分達からアイディアを貰っていたかが実証されているのかもしれません。

まあ、どっちが先だったかは鶏と卵だと思いますから、とにかく聴いてシビレる演奏さえやってくれればOK!!

怖い異次元ミステリのような「Surucucu」から4ビートの快感へ導かれる「Directions」と続く流れも、最高に計算されつくした王道なんでしょうねぇ~♪ 私は好きです♪♪~♪

ということで、告白すれば最初はB面ばっかり聴いていました。もう前述の「ライブ・イン・トウキョー」よりも好きなほどです。おそらくジャズ喫茶で鳴ったとしても、違和感は無いと信じているのですが、現実は厳しく……。

ご存じのようにウェザー・リポートは、その存在感とは裏腹に初期の作品群はウケが悪く、どうにか一般的な人気を得たのは、ミロスラフ・ビトウスが脱退してからだったと思います。

その意味で、このアルバムなんか、もうミロスラフ・ビトウスのベースワークが無ければ成り立たないほどの怖さがあって、それはフリージャズにギリギリ近づいた暴虐や意想外のロックっほさの同居じゃないでしょうか?

もちろん、その居心地の悪さが、アルバム全体の人気の無さに直結しているように思います。

そして今こそ、聴かなければ勿体無い!

これを大声で訴えることが出来るのでした。

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フォーカスの偏愛ライブ盤

2010-04-01 17:23:35 | Rock Jazz

Focus At The Rainbow (Polydor)

1970年代初頭、オランダから世界的にブレイクした幾つかのバンドがありました。それは所謂ダッチロックというブームで、ご存じ「Venus」のトップヒットを放ったショッキング・ブルーやゴールデン・イアリング、アース&ファイアー等々は有名ですが、しかし中でも特に強烈な印象を残したのが、フォーカスという4人組のグループでした。

なにしろやっていたことが、クラシックや欧州教会音楽の影響をモロに出したロックジャズ! もちろんほとんどがインストだったんですが、ボーカル曲にしてもハラホレヒラヒラの模擬裏声を使ったヨーデル唱法やスキャット主体という、当時としては、あまりにも温故知新なスタイルを貫いていたのです。

メンバーはタイス・ヴァン・レア(key,vo,fl) とヤン・アッカーマン(g) の2人を中心に変遷が多く、それゆえに1970年に出したデビュー盤は不発……。ところが紆余曲折を経て発売したシングル曲「悪魔の呪文 / Hocus Pocus」が1972年末頃からジワジワとヒット! これは我国でも同じ頃、突如としてラジオから流れ出た瞬間、そのヨーデルスキャットとクラシック趣味をロックジャズで味付けした演奏が強い印象を残し、忽ちのヒットになっています。

そして続くシングル曲「Sylvia」もインストながら、今では井上陽水の「少年時代」の元ネタともいうべき、実に「Let It Be」的なメロディがクセになる魅力があっての連続ヒット♪♪~♪

当然ながらアルバムも前述のデビュー盤から、その頃までには3作が発売され、何れもロックジャズとプログレが見事に融合した内容は、高く評価されています。

そして1973年の晩秋、ついに出たのが、ロックジャズのバンドには避けて通れないライプ盤! それが本日の1枚です。

 A-1 Focus Ⅲ
 A-2 Answers? Questions! Questions? Answers!
 A-3 Focus Ⅱ
 B-1 Eruption (excerpt)
 B-2 Hocus Pocus / 悪魔の呪文
 B-3 Sylvia
 B-4 Hocus Pocus / 悪魔の呪文 (reprise)

録音は1973年5月のロンドンはレインボーシアターで、メンバーはタイス・ヴァン・レア(key,vo,fl)、ヤン・アッカーマン(g) 、バート・ルイチー(b,vo)、ピエール・ヴァン・ダー・リンデン(ds)という最強時代の4人ですから、ハナからケツまで熱い興奮が渦巻く演奏ばかり!

幕開けの「Focus Ⅲ」は後年のリー・リトナーあたがやってしまいそうな、とても物分かりの良いメロディで構成された、これは早すぎたフュージョンでしょうねぇ~♪ と書いたのも、この頃の我国には未だ「フュージョン」なんて言葉は無かったんですが、フォーカスの演奏で一番にファンの心を刺激するのが、ヤン・アッカーマンの繊細で豪胆なギターというのは、異存の無いところだと思います。

実際、ここでの曲メロはクセになる魅力があるんですよねぇ~♪

しかしステージ進行は、そのまんま熱くて危険極まりないアップテンポの「Answers? Questions! Questions? Answers!」へと過激に突入! ドカドカ煩いロックジャズのビートが炸裂し、キメにキメまくるバンドの勢いは、千変万化の美しき流れに収斂してきますが、もちろんヤン・アッカーマンのギターは細かいフレーズを積み重ねつつ、スリルとサスペンスをたっぷりと大サービス♪♪~♪

一方、タイス・ヴァン・レアはストレートなオルガンとモダンジャズなフルートの両刀使いで、その魅惑の音楽性を完全披露していますから、もう中盤からは完全にジャズといって良いかもしれません。

当然ながら自由度の高いドラムスとベースの蠢きも、たまらないところでしょう。

それはAラスの「Focus Ⅱ」に入っても怯むことのない存在感で屹立し、モロにクラシック調の曲メロがドラマチックに演じられる中で、その盛り上げに貢献しているのです。

まあ、正直に言えば、ライプならではの荒っぽさが裏目に出る寸前までいっていますから、その雑なムードがスタジオレコーディングで顕著だった構成の完璧さを幾分ではありますが、殺いでいる気もします。

しかし「ロックバンドのライプ盤」という観点からすれば、結果オーライ♪♪~♪

ですからB面に移ってからの白熱の名演「Eruption」から、怒涛のヒットメドレーとなる終盤への流れは圧巻ですよっ!

特に「Eruption」は似たような構成の演奏をエマーソン・レイク&パーマーが既にやっていたとはいえ、幾つかの細かいパートを連続させることによる緩急自在の組み立ては、やはり凄いテクニックと音楽性に裏打ちされたものでしょう。そして何よりも、分かり易いものを演じるという姿勢が、明確に感じられます。

つまり怖いイメージがあるロックジャズやプログレのハードなところを、食わず嫌いにならないように指向していたんじゃないでしょうか? だから私はフォーカスが大好きだと、自己分析するほどです。

そして「Sylvia」を間に挟んだクライマックスでは、「悪魔の呪文」の潔さ♪♪~♪

当然ながらシングルヒットしたスタジオバージョンよりもテンポアップして、幾分ヤケッパチな雰囲気でブッ飛ばすという、如何にも当時のロックライブの真骨頂が楽しめると思いますが、それにしてもメンバー各人のテクニックは恐ろしいほど!?!

ちなみに「悪魔の呪文」では、ウリだったヨーデルのハナモゲラ語が、決してデタラメじゃなかった!?! という永遠の命題に突き当たる楽しみもありますよ。

ということで、まずはヤン・アッカーマンのギターにシビレること請け合いです。その強靭でしなやか、悪辣寸前の早弾きフレーズ、泣きの音色とアドリブスケールの選択の上手さ、もちろん運指とピッキングも流石としか言えません。そのスタイルはジョン・スコフィールドとリー・リトナーの折衷という感じかもしれませんが、もちろん、その2人よりも早く、自分の個性を確立していたのが、ヤン・アッカーマンだったのです。

またタイス・ヴァン・レアはメイン楽器のオルガンだけでなく、ちょっとローランド・カーク風のフルートにも素晴らしい才能があって、本物のジャズミュージシャンと共演しても遜色の無い実力者だと思います。当然ながら作編曲も巧みで、一応はバンドのオリジナルとされる曲でも、どっかで聞いたことのあるような、クラシック系のメロディがテンコ盛りという憎めなさ♪♪~♪

しかし残念ながら、フォーカスはこのライプを区切りにしたかのようにバンドは分裂の繰り返し、セカンド&サードアルバムのような密度の濃い作品は生み出せずに時が流れてしまいました。もちろんヤン・アッカーマンもタイス・ヴァン・レアも自身のリーダー盤を制作していますが………。

ですからフォーカスといえば、やっぱりこのライプまでに強い愛着があって、この手の音楽に何時も夢中なサイケおやじは、聴く度に熱くさせられるのでした。

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ロックジャズ極みのジェフ・ベック

2010-03-30 14:35:15 | Rock Jazz

Wired / Jeff Beck (Epic)

天才ギタリストのジェフ・ペックが1976年初夏に発表した、本格的なインスト路線の第二弾アルバムで、まさにギターで究極のロックジャズ!

名曲「哀しみの恋人達」を含む大ヒット盤「ブロウ・バイ・ブロウ」を遥かに凌駕する物凄い演奏は、既にブームになっていたフュージョンの中でも異常な尖がり様が強烈でした。

もちろん当時はラリー・カールトンやリー・リトナーといったスタジオセッションの世界から飛び出してきた白人ギタリストが流麗な技を存分に披露していましたし、ロイ・ブキャナンやヤン・アッカーマン等々、凄腕のインスト系ギタリストが大きな注目を集めていた時期ですから、ジェフ・ペックが引き続き同じ手法の演奏をやったところで不思議はないでしょう。

しかし何かしら決定的に違うのは、ジェフ・ペックには如何にも英国流の頑固さ、みたいなものを私は強く感じるのです。

それは、ある意味ではジコチュウでしょうし、本人は曲が書けない代表的なミュージシャンのひとりでもありますから、周囲のお膳立ても大切だったかもしれません。

ですから、前作の「ブロウ・バイ・ブロウ」にはジョージ・マーティンという、ビートルズの我儘を完全に仕切った名プロデューサーが起用され、それがベストセラーに結びついた事を思えば、ここでの引き続きの起用も部分的ではありますが、納得されるところです。

そして尚更に凄いのが、このセッションに参集した盟友のマックス・ミドルトン(key)、ヤン・ハマー(key,ds)、ウイルバー・バスカム(b)、ナラダ・マイケル・ウォルデン(ds,per,key)、エド・グリーン(ds)、リチャード・ベイリー(ds) という怖い面々の存在感でしょう。それはとにかく、アブナイ! としか言いようがないほどでした。

 A-1 Led Boots
 A-2 Come Dancing
 A-3 Goodbye Pork Pie Hat
 A-4 Head For Backstage Pass
 B-1 Blue Wind
 B-2 Sophie
 B-3 Play With Me
 B-4 Love Is Green

既に述べたように、このアルバムは全篇がインスト!

ですからジェフ・ペックのギターはもちろんのこと、共演者の力量も限りなく試される場ということで、前作の「ブロウ・バイ・ブロウ」で使われていたストリングス等々の装飾を排除し、ここでは完全なるバンドサウンドが追及されています。

その中ではヤン・ハマーとナラダ・マイケル・ウォルデンという、ジョン・マクラフリンのマハヴィシュヌ・オームストラからやってきた2人が、まさにアルバムの色合いを決定づける大活躍!

まずA面ド頭「Led Boots」に針を落とせば、いきなりドカドカ煩く、シンコペイトしまくったドラムスが炸裂し、後は一気呵成のロックジャズ大会♪♪~♪ 曲の骨格はヤン・ハマーとマックス・ミドルトンが操るシンセやクラヴィネットで決められているんでしょうが、やはりビシバシにブッ飛んだリズム的な興奮が凄まじく、その中でジェフ・ペックのギターが大暴れするんですから、たまりません♪♪~♪

そういう爆裂のリズムとビートは、当然ながらロックだけではなく、当時はニューソウルと呼ばれていた黒人音楽の意匠をも含んでいるのですから、続く「Come Dancing」では、その道の名人ドラマーだったエド・グリーンが強靭なグルーヴを叩き出し、エレピやシンセのキーボードが最高に心地良い設定を整え、結果的にジェフ・ペックのギターが一番に目立たないという妙な展開も、実は結果オーライだと思います。

しかし流石はジェフ・ペックという本領発揮が、モダンジャズの怒れるベース奏者だったチャールズ・ミンガスの代表曲「Goodbye Pork Pie Hat」です。それはオリジナルの不思議な浮遊感を湛えた曲メロを、繊細なスライドギターや絶妙のトーンコントロールで再現しながら、さらに全く「らしい」展開へと発展させていく天才の証明! 力強いロックビートを大切にしながらも、これは唯一無二のロックジャズフュージョンでしょうねぇ~~♪

ちなみに、このセッションでのジェフ・ペックは、そんなにエフェクター類に拘っている雰囲気は感じられませんが、いかがなもんでしょう。もちろんオーバーダビングでの音色の変化や意図的(?)なズレによる効果は狙っていたんでしょうが、やはり自然体の感性で勝負したかったのでしょうか……。

という推察は完全なるサイケおやじの妄想ではありますが、Aラスの「Head For Backstage Pass」やB面に入っての「Play With Me」で繰り広げられるアップテンポのフュージョンジャム、幾分の纏まりの悪さが楽しい「Sophie」あたりを聴いていると、ジェフ・ペックならではの先鋭性によるリズム外しや不明瞭な音程も散見されるフレーズ等々が、鉄壁なリズム隊の中で浮いてしまうという、実にトンデモなスタアの証が、もう、最高♪♪~♪

そして発売当時から極みつきの名演とされていた「Blue Wind」が、ジェフ・ペック対ヤン・ハマーの直接対決という、過激な作りになっているのもムペなるかな!! ドラムスを含めて、ほとんどの音をヤン・ハマー自らがオーバーダビングで作り出した演奏パートは、今となっては古臭い感じもするんですが、しかし見事な緊張と緩和は圧巻ですよっ! なによりも、ジェフ・ペック本人が納得してやったか、否か、そのあたりの面白さも抜群だと思います。

さらにオーラスの「Love Is Green」はナラダ・マイケル・ウォルデンが作曲し、自らピアノまで弾いた美しい小品ながら、ジェフ・ペックのアコースティックギターが良い味、出しまくり♪♪~♪ もちろんエレキも泣きますから、本当に短いのが残念至極!?!

ということで、これがギター好きを刺激しなかったら、それは嘘という仕上がりでした。当選ながらフュージョンやジャズが好きなファンもシビレたと思います。

ただ、当時の王道フュージョンにはジャズ寄りのものとロックテイストが強いもの、そのふたつがあって、ラリー・カールトンやリー・リトナーは、どちらかと言えば前者でしたから、イノセントなジャズファンにも受け入れられる要素がありました。

しかしジェフ・ペックは既にロックのスタアギタリストでしたし、怖さをモロ出しにしたガチガチにハードな音作りは、ジャズ評論家の先生方からも敬遠され気味のところが、確かにありました。

そして似たような感触はジョン・マクラフリンにもあったところですから、その共演者だったヤン・ハマーとナラダ・マイケル・ウォルデンが起用されたのも、当然の流れだったかもしれません。

以降、ジェフ・ペックはヤン・ハマーのバンドに客演する形でライプ盤を作ったり、ナラダ・マイケル・ウォルデンのリーダーセッションに参加する等の活動から、ついにはスタンリー・クラーク(b) との心底恐ろしいハードロックフュージョンのバンドをやってしまうのですが……。

もう、そこまで行ってしまうと、後が無いという感じで、しばらくの沈黙期に入るのです。

その意味で、この「ワイアード」こそが、ギタリストとしてのジェフ・ペックがやったロックジャズの頂点かもしれません。

ご存じのとおり、飽きっぽいとしか言えないジェフ・ペックは、それからもハードロックとフュージョンの道行を繰り返しては今日に至っていますが、なんと近々、ナラダ・マイケル・ウォルデン(ds)、ロンダ・スミス(b)、ジェイソン・リベロ(key) という興味津津のメンバーを引き連れて来日公演予定!

あぁ、行ってみようかなぁ~~♪ エグイお姉ちゃんベース奏者のロンダ・スミスも気になるし♪♪~♪

と、忙しい最中にも決意させる魅力が、ジェフ・ペックには今もあるのでした。

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アージェント! アージェント!

2010-03-22 13:24:12 | Rock Jazz

Ring Of Hands / Argent (Epic)

1971年に発売されたアージェントのセカンドアルバムですが、率直に言って扱いは良くなかったと思います。これといったシングルヒットも無く、当然ながらこの作品も売れていません。

しかし中味の充実度はソンビーズの衣鉢を受け継いだというか、実にクールなジャズっぽさと所謂プログレと称されはじめたサイケデリックロックの進化形が混然一体に融合した素晴らしさ♪♪~♪

メンバーは前作同様にロッド・アージェント(vo,key)、ラス・バラード(vo,g,key)、ジム・ロッドフォード(b,vo)、ロバート・ヘンリット(ds,per) の4人編成ですが、実はゾンビーズ時代からロッド・アージェントの盟友だったクリス・ホワイトが曲作りとプロデュースに大きく参画し、それがデビュー盤以上の成果となって記録されました。

また、一方、ラス・バラードのハードロック王道の資質も見事に開花し、つまりは両極端な歌と演奏がギリギリのところで接点を見出したという緊張感が、たまりません。

 A-1 Celebration (Argent/White)
 A-2 Sweet Mary (Argent/White)
 A-3 Cast Your Spell Uranus (Ballard)
 A-4 Lothlrien (Argent/White)
 B-1 Chained (Ballard)
 B-2 Rejoice (Argent/White)
 B-3 Pleasure (Argent/White)
 B-4 Sleep Won't Help Me (Argent/White)
 B-5 Where Are We Going Wrong (Ballard)

収録された上記演目には参考までにソングライターのクレジットを入れておきましたが、既に述べたようにアージェント&ホワイト組が手掛けた楽曲はロックジャズ風味が強く、ラス・バラード単独の作品はロックど真ん中の雰囲気が濃厚です。

しかし双方とも、決して難解なことはやっておらず、当時の流行をしぶとく意識した作風も姑息ではないと思います。

それは先行シングルとして英米で発売された「Celebration」に特に顕著なんですが、ピアノと緻密なコーラスワークに彩られた快活な曲メロが、幾分バタバタしながらも力強いリズム隊にサポートされて演じられる時、そこには何の真似でもないアージェントだけのポップな世界が現出するのです。もちろん重ねられたギターやオルガンの響きも用意周到!

また続く「Sweet Mary」はアージェント流儀のスワンプロックとして、決してドロドロしない軽いフィーリングがジャズっぽく、う~ん、どっかで聞いたことがあるような……!? という落とし穴が憎めません。

そして一転、暗く躍動的な「Cast Your Spell Uranus」になると、ハードな展開の中に見出される元祖ゾンビーズの味わいが非常に興味深くなるのです。このあたりはコーラスワークも含めて、後にデビューしてくるクイーンを想起させられてしまうのですが、間奏の熱いオルガンアドリブにはバロックとモダンジャズの要素がゴッタ煮となった特有の熱気があり、短いのが勿体無い限り!

しかしご安心下さい。A面のラストを飾る「Lothlrien」は最高にテンションの高い名曲名演で、バロックを基調にした曲メロをロックジャズに変換していくグループの纏まりと躍動は驚異的♪♪~♪ 極言すれば、これもまた後の第三期ディープパープルを軽くしたような感じではありますが、ロッド・アージェントのエレピやオルガンがバリバリのモダンジャズですから、後半ではラス・バラードもテンションコードを用いたバッキングを演じる等、とにかくこれはロックジャズ! 当然ながらドラムスは千変万化のビートを叩き出し、ベースが堅実に蠢くという基本も大切にされた8分近い演奏です。

こうして熱い興奮に満たされた後、レコードをB面にひっくり返せば、そこにはさらに素晴らしい世界が広がっています。

まずは如何にもラス・バラードという「Chained」の重いハードロックとコーラスワークの融合にゾクゾクさせられますが、これまた前作に収められていたバンドの代表曲「Liar」と同じく、スリー・ドッグ・ナイトにカパーされているのは当然が必然でしょう。作者本人の刹那のシャウトとロッド・アージェントのエレピが対峙する展開は、本当にたまりませんよ。

で、それを露払いにした以降の3曲の流れが、このアルバムのハイライト♪♪~♪

荘厳なバロック趣味を丸出しにしたオルガンのイントロから清らかなメロディが歌われる「Rejoice」、その穏やかな雰囲気を尚更に神聖なものへと昇華させた「Pleasure」は、聴いているうちに思わず身体に力が漲ってくる感じが秀逸の極み! もちろん緻密なコーラスワークとジャズっほいアドリブパートも最高です。

あぁ、これは現代の「歓喜の歌」といって過言ではないと思いますねぇ~♪

そしてナイーブで感傷的な曲メロを重厚に熱く演じた「Sleep Won't Help Me」の完成度の高さは圧巻! 本当に我知らず涙が滲んできますが、間奏のエレピの呪術的な味わいも秀逸としか言えません。

う~ん、何度聴いても感動の美しき流れ♪♪~♪

それが締め括られるオーラスの「Where Are We Going Wrong」が、なんとも一般的なパワーポップなのも気が利いています。直線的な曲構成と輝かしいコーラスワーク、さらにロックジャズなピアノのアドリブ、炸裂するドラムスのビート、蠢くベースのグルーヴが、とにかく熱いです!

ということで、全く自分の感性にジャストミートした私的名盤!

しかし告白すれば、もちろんリアルタイムでは聴けず、実質的にアージェントがブレイクしたシングルヒット「Hold Your Head Up」を含むサードアルバム「オール・トゥゲザー・ナウ」が我国でも発売された後、昭和48(1973)年暮れになって、ようやくゲットしたものです。つまり聴く順番が逆になってしまったのが大いに残念なところでした。

それは件のヒット曲が出た頃のアージェントは既にソンビーズの面影が薄れ、当時の最先端だったプログレ、もっと言えばエマーソン・レイク&パーマーを意識したようなキーボードロックの王道に沿ってしまっていたからで、それはそれなりに素晴らしいことではありましたが、やはりゾンビーズ直系の味わいを希求すれば肩すかしだったのです。

ところが、このセカンドアルバムは違います!

もう完全なるニューゾンビーズとして、英国流ロックジャズの魅力が全開していますし、収録楽曲の味わい深さも絶品ですよ♪♪~♪

そしてこれを聴くことによって、シングルヒットも出せるようになった以降の全盛期が許容されるのです。なにしろアージェントの本質はアルバムにあるのですから!

決意表明すれば、この「リング・オブ・ハンズ」はアージェントの最高傑作で、特にB面を愛聴しているのでした。

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怖さ全開のライフタイム

2010-03-15 14:33:21 | Rock Jazz

(turnitover) / The Tony Williams Lifete (Polydor)

分かってはいるけれど、ど~しても否定しなければならないものとして、ジャズの世界ではトニー・ウィリアムスがやっていたライフタイムというバンドが、そのひとつでしょう。

なにしろ栄光のマイルス・デイビス・クインテットを辞めてまで始めたのが、ギンギンのハードロックとフリージャズを融合させたようなサイケデリックな演奏でしたから、ガチガチの評論家の先生方からは、それがジャズであれ、ロックであれ、どちらからも拒絶され、さらにファンも戸惑うしかなかったのが、デビュー作となった「Emergency!」でした。

しかし好きな人にも、これほど狂熱させられるバンドも他に無く、おそらくは実際のライプステージに接した幸せなファンも日々、増大していたと思います。

そしてそうした前向きにジコチュウな思惑が最大限に発揮された傑作盤が、本日ご紹介のセカンドアルバムでしょう。

録音は1970年、メンバーはトニー・ウィリアムス(ds,vo)、ジョン・マクリフリン(g)、ラリー・ヤング(org)、そして元クリームのジャック・ブルース(b,vo) が部分的に参加したというのが、ロックサイドからの注目でもありました。

A-1 To Whom It May Concern - Them
A-2 To Whom It May Concern - Us
 クレジットにはチック・コリア作とありますが、この録音時期までに作者本人のバージョンがあったかは、勉強不足で確認出来ていません。しかし、ここでは完全なるライフタイムの音楽として、その激しい演奏が成立しています。
 そのミソはもちろん強烈なディストーションに満ちたジョン・マクラフリンのギターであり、ヤケッパチなポリリズムのロックビートを叩きまくるトニー・ウィリアムス、さらにクールに浮遊しつつ、実は相当にエグイ事をやらかしているラリー・ヤングのオルガンが曲者です。
 ちなみにジャック・ブルースは、このパートには参加している形跡が感じられませんし、演奏そのものも、ふたつのパートは双子のような関係ということでしょうか、どこが切れ目か、ほとんど不明という連続したものになっています。
 まあ、このあたりはテープ編集が使われているのかもしれませんが、それにしても特に後半のプチキレは痛快!
 
A-3 This Night Song
 これが全く、当時から散々に悪く言われた演奏で、フヌケたトニー・ウィリアムスの御経のようなボーカルが噴飯物!? どろ~ん、としたインストパートのダレきったムードも、今でこそ意味深に聴けますが、正直に言えば、イライラとモヤモヤが……。
 絶対、ドタマにきますよっ!

A-4 Big Nick
 しかし一転、これが物凄い演奏ですっ!
 曲はご存じ、ジョン・コルトレーンのオリジナルですから、ここでもアップテンポの豪快な4ビートに徹するバンドの勢いは最高潮! なにしろ前曲が酷かったですからねぇ~~。
 アグレッシヴなラリー・ヤングのアドリブから、ジャック・ブルースの4ビートウォーキングを土台にメチャ弾けたトニー・ウィリアムスのドラミングが熱いです。
 う~ん、これを聴いていると、「This Night Song」が実は周到に用意された仕掛けの妙だと勘繰りたくなりますよ。

A-5 Right On
 こうして迎えるA面ラストが、これまた激ヤバのアップテンポ演奏で、歪みまくったジョン・マクラフリンのギターがブッ飛ばせば、トニー・ウィリアムスがドタバタのドラムスで背後から煽るという構図が確立し、好き勝手なラリー・ヤングと必死で正統派ジャズに拘るジャック・ブルースという、なんとも倒錯した展開が!?!
 いゃ~、2分に満たない演奏時間の短いさが惜しいという感じですが、しかし、こんなのを長く聴いていたら、発狂は間違いないところでしょうか……。

B-1 Once I Loved
 有名なカルロス・ジョビンの曲ということになっていますが、その演奏実態は所謂スペーシーなサイケデリックがそんまんま!?! オリジナルの美メロを期待すると、完全に怒りますよ。しかもトニー・ウィリアムスかジャック・ブルースの気抜けのボーカルがトドメのイライラ!?!
 確かにイノセントなジャズファンや評論家の先生方からダメの烙印を押されるのも当然が必然でしょうね。
 しかし、これも深淵な企み……?

B-2 Vuelta Abajo
 前曲で我慢の時間を過ごした後に炸裂するのが、この激しいロックジャズの決定版!
 もうハナからケツまでグイノリと過激なビートが全開ですから、トニー・ウィリアムスのドカドカ煩いドラミングが堪能出来ますし、クリームしまくったジャック・ブルースのベースはもちろんのこと、ジョン・マクラフリンの唯我独尊が痛快至極!
 本当に溜飲が下がりますねぇ~~♪

B-3 A Famous Blues
 これまた意味不明のボーカルパートが不気味な変質者の囁きという感じですし、演奏そのものも煮え切らないスタートですが、中盤から突如としてテンションが高くなり、ラリー・ヤングの暴走オルガンとトニー・ウィリアムスの千変万化のパワフルドラミングが良い感じ♪♪~♪ また終盤のボーカルに重なってくるリムショットやハイハットの使い方が、往年のマイルス・デイビスのバンドで聞かせてくれた名演を強く想起させてくれるのも嬉しいですよ。

B-4 Allah Be Praided
 そしてオーラスが、このアルバムの中では一番にキャッチーというか、浮かれたようにハードロックなリフを使ったテーマからアップテンポの4ビートがメインのアドリブパートへと流れる展開が痛快至極!
 ラリー・ヤングとジョン・マクラフリンのアドリブソロの応酬、如何にもモダンジャズなトニー・ウィリアムスとジャック・ブルースの4ビートグルーヴには安心感さえ表出していますが、いえいえ、そんな生易しい安逸なんて、ここではお呼びじゃないでしょうね。

ということで、あくまでも怖さに徹した演奏がぎっしり収められています。しかも特筆すべきは意図的に置かれたと思しき歌がメインの演奏で、それがあるからこそ、インスト主体の過激なロックジャズが尚更に刺激的!

このあたりは現代のCD鑑賞では、好きなトラックだけ選んで楽しむ実態には当てはまりませんが、アナログ盤LPレコードという片面単位のプログラムでは、必須の美しき流れが楽しめますよ。

しかもそうやって何度も聴いているうちに、バカみたいにフヌケたトニー・ウィリアムスのボーカルが無ければ物足りない雰囲気になってくるのが、これまた怖いです。

極言すれば、特にA面の「This Night Song」から「Big Nick」に続く流れを聴きたくて、じっと我慢を決め込むという、些かM的な自分に呆れるほどなんですが、しかし実際、煮え切らなさが頂点に達した後にスタートする「Big Nick」の最初の一撃だけで、思いっきりスカッとした気分に!!!

もちろん当然というか、ジャズ喫茶全盛期だった1970年代の前半に、このアルバムが店内で鳴らされていたという記憶が私にはありません。むしろトニー・ウィリアムスのライフタイムは禁句であり、忌み嫌われていたといって過言ではないでしょう。

ですから、このあたりを聴くためには、まず危険を冒して買うという行為しかなく、それでハズレと思ってしまえば、リスナーとしての資格が無かったということかもしれません。幸いにしてサイケおやじの感性にはジャストミートだったことに、今は感謝するだけです。

そして裏ジャケットの原盤ライナーには「Play It Loud」、さらに「Play It Very Very Loud」とそ強調して書いてあるのが、全くそのとおり! ガンガン聴けば、気分は爽快♪♪~♪

こんな上から下までミチョウチキリンな事になっている現代でこそ、真価を発揮出来るアルバムかもしれませんね。

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バーナード・パーディのハミングバード

2010-02-28 15:30:06 | Rock Jazz

We Can't Go On Meeting Like This / Hummingbird (A&M)

ハミングバードはボビー・テンチ(g,vo)、マックス・ミドルトン(key)、そしてクライブ・チャップマン(b,vo,hmc) という、1970年代のジェフ・ペックを支えた縁の下の力持ち達がやっていたスタジオプロジェクトのバンドで、もちろんその音楽性はキャリアに裏打ちされたクロスオーバー&フュージョンのファンキーロックでした。

その最初のアルバムは1975年に発売され、玄人筋を中心に評判を呼びますが、その気持良すぎる仕上がりとは裏腹に参加メンバー間には確執があったそうで、結果的にメインで曲作りをやっていたコンラド・イシドアという素晴らしいドラマー兼ソングライターが去り、ここに仕切り直しのレコーディングとなって完成されたのが、本日ご紹介の妖しいジャケ写も眩しいアルバムでした。

メンバーは前述の3人に加えて、バーニー・ホランド(g)、ロバート・アーワイ(g)、バーナード・パーディ(ds)、そして女性コーラス隊としてマデリン・ベル、ジョアンヌ・ウィリアムス、リサ・ストライクが顔を揃えていますが、注目はなんといってもファンキードラマーの大御所たるバーナード・パーディでしょう。

そのキャリアはアメリカ黒人音楽のビートを司ったといって過言ではなく、スタジオセッションからモダンジャズの現場、あるいは歌伴や音楽監督の仕事等々、マイルス・デイビスやクインシー・ジョーンズ、アレサ・フランクリン、スティーリー・ダンさえも頭が上がらないという、なんでもござれのスーパードラマーですから、ハミングバードに参加したのも、おそらくはジェフ・ペックとの仕事の繋がりだったと推測されます。

そして1976年夏頃に発売されたこのアルバムには、思わず腰が浮く、本当に凄いビートと享楽のソフト&メロウがぎっしり♪♪~♪ もちろん当時はフュージョンやAORが全盛期でしたから、忽ちの大ヒットになりました。

 A-1 Fire And Brimstone
 A-2 Gypsy Skys
 A-3 Trouble Maker
 A-4 Scorpio
 A-5 We Can't Go On Meeting Like This
 B-1 The City Mouse
 B-2 A Friend Forever
 B-3 Heaven Knows (Where You've Been)
 B-4 Snake Snack
 B-5 Let It Burn

とにかくA面ド頭の「Fire And Brimstone」からバーナード・パーディのファンキードラミングが全開! もう、それだけで演奏全体が押しきられているんですよっ! そこになんとか存在意義を見出さんと奮闘するクライブ・チャップマンのペースが必死なのも感度良好なんですが、それをまた逆手に活かしてバンド全体のグルーヴをキメまくるバーナード・パーディは流石の貫録です。ドカドカ煩い中にビシバシのアクセント、パンッパンッという十八番の連発にもシビレますが、猥雑なボーカルとコーラスを完全サポートする基本も蔑にせず、ですから間奏パートが完全にリズム主導のビート天国で構成されているのも納得されますよ♪♪~♪

極言すれば、この1曲にアルバムの魅力が全て詰まっていると思うほどです。

しかし他のメンバーも負けてはいません。特にマックス・ミドルトンはエレピやムーグシンセを適材適所に使いながら、アドリブもバンドアンサンブルも用意周到に演じています。、

例えばメロウな「Gypsy Skys」や某有名曲をモロパクリした「The City Mouse」あたりのフイールソーグッドなインスト演奏では、その資質が存分に発揮されています。そして実際、本当に気持E~~♪

またギターがメインで活躍する「Scorpio」は、如何にも当時の流行というフュージョンにどっぷりですが、バーナード・パーディの花を持たせる演出が効いていますし、我国のAOR歌謡曲にもパクられまくったアルバムタイトル曲「We Can't Go On Meeting Like This」は、スティーリー・ダンの下世話な解釈として、その周辺でも強い存在感を示していたバーナード・パーディのヘヴィなドラミグがあればこそ♪♪~♪

まあ、そういう流行に敏感な体質はスタジオ系ミュージシャンの特質でもありますが、その意味でハーモニカを使い、リー・オスカーやトゥーツ・シールマンスあたりを想起させられる「A Friend Forever」には、失礼ながら、ちょいと失笑……。しかし、それもバーナード・パーディをメインに聴くことで、良い気持になるんですから、流石でしょうね。マックス・ミドルトンのエレピもイカシていますよ。

そしてウェザー・リボートかリトル・フィートを意識した「Snake Snack」が、これまたゴキゲンな二番煎じの決定版! これは決して、ほめ殺しではなく、むしろそのふたつのバンドに先駆けたファンキーロックな演奏が、たまたまフュージョンに近づいたということで、ご理解願いたいところなのですが、それにしてもアルフォンソ・ジョンソンみたいなクライブ・チャップマンのベースワークが賛否両論かもしれません。

そのあたりの目論見はマックス・ミドルトンが随所でやってしまうジョー・ザビヌルの真似っこにも顕著なんですが、そこはバーナード・パーディの凄いグルーヴに免じて、ニンマリするしかないでしょうね。私は憎めません。

ということで非常にジャズフュージョンした内容なんですが、どっこい、本質は英国産ロックジャズ、そしてロック魂を決して捨てていない矜持が確かにあります。それはオーラスの「Let It Burn」で滲み出るブルージーな味わいのゴスペルロックに顕著! ボブ・テンチの歌いっぷりが、どっぷりとブリティッシュなんですねぇ~♪

当然ながらアルバム全篇の色合いを決定づけてしまったのは、バーナード・パーディの凄すぎるドラミングで、それだけ聴いていても満足するのは確かです。否、それを楽しむために、このアルバムが存在すると断言しても後悔しません。

しかし同時に、ハミングバードというイギリスのロックジャズバンドが、極めてアメリカっぽい音作りに挑戦し、見事に自己流の結果を出した名演になったのも、また間違いの無い事実でした。

そして実際にレコードを聴いた時、多くのリスナーは瞬時にシビレて、グウのネも出せないほど気分が高揚させられるのです。

もちろん当時はスタッフとかジェントルソウツとか、似たような事をやっていたスタジオミュージシャンによるバンドが幾つもありましたが、我が国ではハミングバードを意識したバンドも相当にあったと思います。それはロック寄りの姿勢が強かったからじゃないでしょうか。

全く見事な1976年の音!

レアグルーヴとはちょいと違いますが、ファンキーロックやファンクジャズに少しでも興味が抱ける皆様であれば、ぜひともお楽しみいただきたい人気盤なのでした。

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快楽のライブはデッドの本領

2010-02-12 14:42:40 | Rock Jazz

Dick's Picks Volum One / Grateful Dead (GDCD)

スタジオ録音よりは明らかにライプステージでの演奏に魅力を発揮出来るミュージシャンが確かに存在し、例えばグレイトフル・デッドは、その代表格かもしれません。

ですからライプアルバムも数多く出していますし、巡業公演から作られたブートもどっさり出回っていますが、それはグレイトフル・デッド側の寛容な姿勢によって、会場毎に決められた料金さえ払えば、ファンは堂々と録音出来る環境が許されていたからです。

もちろんグレイトフル・デッド本人達にしても、実は正式デビューした1967年以前から、自分達のステージのほとんどを録音していたという、実に几帳面なところがあって、ついに1993年頃は、その中から選んだ音源を自ら発売するという企画がスタート!

それが「ディックス・ピックス」と呼ばれるシリーズで、本日のご紹介は、とりあえず、その最初となった2枚組のCDです。

☆CD ONE
 01 Here Comes Sunshine
 02 Big River
 03 Missiesippi Half Step
 04 Weather Report Suite
 05 Big Railroad Blues
 06 Playing In The Band
☆CD TWO
 01 He's Cone →
 02 Truckin' →
 03 Nobody's Fault But Mine →
 04 Jam →
 05 Other One →
 06 Jam →
 07 Stella Blue
 08 Around And Around

既に述べたようにグレイトフル・デッドというバンドは、1960年代中頃からのサンフランシスコでサイケデリックロックの代表選手でしたから、アドリブどっさりの長尺演奏は得意中の得意でしたが、その側面というか裏側として、LSDという薬物による実験や各種ドラッグとの相乗効果による、所謂トリップを音楽で表現したり、あるいはそういう状態をさらに具象化していく狙いがバンドとしての存在意義だったことは諸説ありながらも、ある意味では外れていないと思われます。

ですからグレイトフル・デッドには、通称「デッドヘッズ」という熱心なファンが存在し、巡業の追っかけを長年やっている信者が大勢いるのです。

実は、これはちょっとヤバイ実情なのですが、グレイトフル・デッドのライプに常に大観衆が集まるのは、そこで良質のドラッグ類が容易く手に入るからだと言われています。

まあ、それはそれとして、とにかくグレイトフル・デッドのライプ演奏は、クセになる心地良さを秘めているのは間違いなく、例えそんなものに頼らなくとも、聴いているだけで音楽的な快楽を得られる大勢のファンの存在だって無視出来ないでしょう。

さて、このCDに聞かれるのは1973年12月19日、フロリダはタンパでのライプ音源で、これまで公式盤として出してきたライプアルバムと決定的に違うのは、ステージを極力、そのまま収録していることです。

ご存じのようにグレイトフル・デッドのライプは演奏時間が長く、それはアドリブパートや演奏の膨らみ具合により、決して毎回が同じではないところに魅力の一端があります。

それゆえに「ディックス・ピックス」のシリーズは今日まで、いろんな時代の壁を超え、かなりのボリュームになっていますが、その全てに聴きどころがあり、このひとつだけでは、とてもシリーズの存在意義を語ることなど不可能です。

しかし、この音源が残された時期のグレイトフル・デッドは、デビュー以来のワーナーから自分達のレーベルを設立しての最初のアルバム「新しき夜明け」を発表した直後とあって、タイトルどおりに気分一新の意気込みがあったように思われます。

メンバーはジェリー・ガルシア(vo,g)、ボブ・ウィア(vo,g)、フィル・レッシュ(b)、ビル・クルーツマン(ds)、そして特別参加のキース・ゴドショウ(p,key) の5人組だと推察出来ますが、その演奏は実に伸びやかな自然体♪♪~♪

繰り返しますが、グレイトフル・デッドのステージ進行は基本が同じでも毎回、その時の気分によって大きく変化していくのが常で、ここではまず前述の最新アルバム「新しき夜明け」に収録されていた「Here Comes Sunshine」がユル~く始まります。もちろん観客にはピカピカの新曲ということで期待と不安があるんでしょうが、演奏は何時しか浮遊感に満ちた展開となり、そこにはジェリー・ガルシアの不思議界ギターとも言うべき、所謂スペーシーなアドリブを中心に、各メンバーがジコチュウと協調のバランスを取りながら、グループとしての纏まりを追及していく構成が気持良いかぎり♪♪~♪

つまりライプの現場では、ひとつの楽曲がテーマとなってアドリブパートが膨らんでいくという、ジャズと同じ手法が繰り広げられているのです。

まあ、こうしたやり方は同時代のオールマン・ブラザーズ・バンド等々にも聞かれますが、例えばオールマンズが演奏の要所にキメのリフやお約束を盛り込んでいるのに対し、グレートフル・デッドはあくまでもナチュラルな姿勢というか、ある意味では成り行き任せの展開から起承転結を作り出しているように思います。

ですから、ひとつ間違えると、ユルユル過ぎて、素面では聴いていられないところも確かにあるんですが、虚心坦懐にグレイトフル・デッドの演奏に身を任せていれば、快楽の桃源郷は必ず現出するというのが、このグループのライプならではの素敵なところじゃないでしょうか。

この時期の演奏スタイルとしてはサイケデリックロックの残滓、カントリーロック、フュージョンとフォークソングのゴッタ煮、さらにR&R保守本流の躍動が、それこそ千変万化に消えては現れるメドレー形式が特徴的です。特に「CD TWO」では演目に「→」がわざわざ表記されているとおり、本当に美しき流れが堪能出来ますよ。

ちなみにグレイトフル・デッドに、どうしてこんな演奏が出来るのかはミステリアスな部分も多いのですが、おそらくはモダンジャズでは普通のモード手法の導入とか、暗黙の了解があってのことでしょう。素人には計り知れぬ奥行なんでしょうねぇ。

ただし、そんな理論的なことは関係なく、グレイトフル・デッドの演奏は不思議に心地良いですよ♪♪~♪

大まかに演奏をリードしていくのはジェリー・ガルシアのギターなんですが、そこへ執拗に絡んでいくボブ・ウィアのサイドギター、陰湿に暗躍するフィル・レッシュのペース、反応が適材適所に素早いビル・クルーツマンのドラミング、さらに的確な伴奏としぶとい演出をサポートするキース・ゴドショウのピアノは、繰り返しますが自然体でありながら阿吽の呼吸で纏まっています。

ちなみに、このシリーズの命名に関しては、主に音源管理をやっているスタッフのディック・ラトヴァラに因んだもので、倉庫が満杯になるほどのテープの山から、本人の好み優先で選んではCD化しているとか!?!

そういえば一時期、グレイトフル・デッドの優良ライプ音源が夥しく出回ったことがありましたが、それは件の倉庫の賃借料金が滞納された所為だったとか!?!

というように、書けば書くほど止まらなくなるのが、グレイトフル・デッドのミステリです。

幸いにも私は1990年に唯一度だけ、グレートフル・デッドのライプに接することが出来ましたが、まず会場には可愛らしい熊の人形とか、ステッカーやTシャツ等々の公認グッズがいろいろと売られていて、そのホンワカしたムードにサイケデリックな先入観を覆されました。

また前述したように客席には特別料金のプライベート録音エリアがあって、そこには各々が大袈裟なマイクを立てたり、昔ながらの巨大なオープンリール、あるいは最新のDATを駆使しながら、演奏が始まってもモニターばかりに気をとられている熱心なマニアが大勢いたことにも驚きました。

そして演奏は本当に長時間続き、会場はフリーエリア状態でしたから観客は立ったり、寝そべったり、もちろんラリルレロで踊っているやつも目立ちましたですね。しかし決して暴動なんかにはなりそうもない、非常に良い感じだったのが思い出に残っています。

グレートフル・デッドは長いバンドの歴史の中で、多くの演奏を残してくれましたから、最初はどっから聴いて良いのか迷われるかもしれませんが、個人的にはどれでも良いから、まずはライプ音源から楽しむことをオススメ致します。

ちなみに「ディックス・ピックス」のシリーズは、公式発売を想定したレコーディングではなく、サウンドボード直結のライン録音がメインなので、左右と真ん中から分離し、団子状になったサウンド作りになっていますから、観客の声援や拍手も控えめにしか聞こえませんので、臨場感は希薄です、

しかしそれゆえにライプの現場での一発勝負の生々しさは半端ではありません。当然ながら凡ミスも散見されますし、チューニングの狂いや時には楽器の不調といったハプニングが記録されていることもあります。

でも、それがグレイトフル・デットという魔法のバンドにあっては、全てが良い方向に作用していると感じるのは、サイケおやじの思い込みでしょうか……。もちろん、その日によっての演奏の良し悪しは確かにあって、あくまで個人的な基準としては、フィル・レッシュが好調だと、バンドのノリや創造力も高まっているように思います。

ということで、皆様にも、ぜひ、お楽しみいただきたいのが、グレートフル・デッドのライプです。ただし中毒性が強いですから、ご用心、ご用心。

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初めて買ったフランク・ザッパ

2010-02-10 14:01:04 | Rock Jazz

Hot Rats / Frank Zappa (Bizarre / Riprise)


フランク・ザッパについて、何をどうやって書けば良いのでしょう……。

そんなことを思うより他はないほど、フランク・ザッパという人は鬼才、異能の天才、大衆音楽の芸術家、サイケデリックロックの巨匠、凄腕ギタリスト、ジャズロックフュージョンの開拓者、現代音楽の面汚し、等々の異名がどっさりあって、もちろんそれは制作発表してきたレコードや夥しいライプステージに接した人々の十人十色の気分を素直に表したものでしょう。

しかしフランク・ザッパについては、その名前だけが独り歩きしている感じが確かにあって、特に我国では1960年代末頃から音楽雑誌に記事やレコード評が載っていても、なかなか実際には聴く気になれなかったのが、サイケおやじの気持でした。

なにしろラジオから流れてくるようなシングルヒットも無く、ジワジワと日本盤も出ていたLPにしても、言葉が理解出来ないと十分に楽しめない云々という評論解説があっては、高いレコードに手が出るはずもありません。

そして時が流れました。

昭和40年代も後半なると輸入盤が安く買える環境になったその頃、私の前に忽然と現れたのが、本日ご紹介のアルバムです。

これは結論から言うと、だいたいが自分のバンドだったマザーズを率いての活動をやっていたフランク・ザッパが、あえてソロ名義で作り、1969年に発表したもので、内容はジャズフュージョン系のインスト演奏がメインになっていますから、言葉の問題を抜きにして楽しめる、実に嬉しいレコードだったのです。

 A-1 Peaches En Regalia
 A-2 Wille The Pimp
 A-3 Son On Mr. Green Genes
 B-1 Little Umberllas
 B-2 The Gumbo Variations
 B-3 It Must Be A Camel

参加メンバーはフランク・ザッパ(g,b,per) 以下、マザーズの要だったイアン・アンダーウッド(p,key,sax,fl,etc)、ジャン・リュック・ポンティ(vln)、マックス・ベネット(b)、ジョン・ゲラン(ds)、ポール・ハンフリー(ds)、Ron Selico(ds) といったジャズ系のミュージャンに加え、シュギー・オーティス(b)、シュガー・ケイン・ハリス(vln)、キャプテン・ビーフハート(vo) 等々の大衆芸能組も侮れない活躍をしています。

まずA面ド頭「Peaches En Regalia」が今日に至るもフランク・ザッパの代名詞のひとつになっている、実に強烈なゴッタ煮フュージョンの極みつき! その親しみやすくて不思議なテーマメロディは民族音楽のようでもあり、極楽浄土の和みのようでもあって、実に素敵ですよ。きっとYMOのメンバーや渡辺香津美も大好きじゃないのかなぁ~。各方面で相当にパクられているのは言わずもがな、僅か3分半の密度の濃さは圧巻!

また同系の「Son On Mr. Green Genes」はフランク・ザッパの旧作なんですが、自身の強烈なギターソロをメインに大幅に雰囲気を変更してのジャズフュージョン決定版! ポール・ハンフリーのドタバタファンクなドラムス、マックス・ベネットの蠢くエレキベース、イアン・アンダーウッドが重層的な彩りを添えるサックスやキーボードによって、尚更の混濁を演出しています。

そして正統派モダンジャズを歪めたような「Little Umberllas」は、例えば今日のフレッシュ・サウンド・ニュー・タレントあたりで若手のモダンジャズプレイヤー達がやるような屈折感がありますし、全くの正面突破でロックジャズを演じきった「The Gumbo Variations」には、プログレの連中がモダンジャズに挑戦した数々の目論見を粉砕するが如きエネルギーが充満しています。

気になるキャプテン・ビーフハートの吠えるボーカルは「Wille The Pimp」で楽しめますが、ここでは黒人大衆芸能の人気者だったシュガー・ケイン・ハリスのバイオリンが良い味出しまくり♪♪~♪ 過激で猥雑な両者の競演が、淡々として濃密なリズム隊に支えられているようで、しかし意地悪く躍動するマックス・ベネットのペースが激ヤバですよ。もちろんフランク・ザッパの呪術的ギターがジワジワと存在感を強めていくあたりも流石だと思います。う~ん、このギターソロ、中毒しますよ♪♪~♪

で、こうした演奏も含めて、このアルバムはダビング作業やテープ編集によって作られたものですが、そうした手際の良さが目立ちつつもイヤミはそれほど感じないと思います。

それはオーラスの「It Must Be A Camel」を聴けば納得というか、ローランド・カークと共通するような、異端でありますが、極めてジャズっぽい演奏ですから、そこに様々な詐術があったとしても、ジャズ者には一概に否定出来ないところじゃないでしょうか、苦しい言い訳かもしれませんが……。

まあ、それはそれとして、このアルバム全篇を通して活躍が顕著なイアン・アンダーウッドは正式な音楽教育を受けた曲者ですから、ピアノやキーボード、サックス等々の担当楽器の至極真っ当な音の出し方、幅広い音楽性を感じさせるアドリブや伴奏の上手さは要注意でしょうね。フランク・ザッパの参謀として、最高の適役を長くやってくれたのは幸いでした。

ということで、フランク・ザッパのある一面しか表現されていないとはいえ、入門用としては聴き易いアルバムです。

実際、サイケおやじが最初に買ったフランク・ザッパのレコードが、これでした。

本当に普通のジャズフュージョンとしても楽しめると思いますよ。

ただし安易な和みを求めるとハズレます。

告白すれば、私がこれを買ったのだって、楽器屋に集う諸先輩方のご意見に従ったわけで、その時にも覚悟が要求されていました。

そして結果は個人的に大正解! 以降、ぼちぼちではありますが、フランク・ザッパの後追いとリアルタイムでの修行を積み重ねる、つらい悲喜こもごもがスタートしたのです。

最後になりましたが、丸っきりホラー映画のポスターみたいなジャケ写とデザインもインパクトが大きいですよね。CD化もされていますが、機会があればアナログ盤もぜひ、体験していただきとうございます。

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目眩くイエス

2010-02-08 14:35:14 | Rock Jazz

Relayer / Yes (Atlantic)

1970年代のクロスオーバーからフュージョンに至る大ブームは、大衆音楽のあらゆる分野に影響を及ぼしましたが、それは緻密なアレンジとバンドアンサンブル、躍動感とリラックスしたアドリブを含む演奏能力、そしてもちろん素敵なメロディと歌の魅力が必須でした。

そして当然、ジャズ畑からの台頭が目立っていた現実にロック系の歌手やバンドは押され気味だったんですが、どっこい、プログレをやっていた連中にとっては、まさに水を得た魚!

本日ご紹介の1枚は、中でも特に凄まじい結果を出してしまったアルバムで、主役のイエスは説明不要、プログレの代表選手として本国イキリスはもちろん、世界中で決定的な人気があるウルトラテクニック集団!

これを出した1974年当時のメンバーは、ジョン・アンダーソン(vo,per)、スティーヴ・ハウ(g)、パトリック・モラーツ(key)、クリス・スクワイア(b)、アラン・ホワイト(ds,per) という、実はこれっきりの集合体でした。

というのも、前作の2枚組アルバム「海洋地形学の物語」を出した後の巡業をもって、人気キーボード奏者のリック・ウェイクマンが脱退し、その後任オーディションの最中も、グループはレコーディングをやっていたという事情のようですから、新参加のパトリック・モラーツにしても、本人の意向もあっての準レギュラー扱いだったのです。

ちなみにイエスの音楽性としては初期2枚が、テーマ~アドリブ~テーマという構成のロックジャズ系だったものが、ピーター・バンクス(g) やトニー・ケイ(key) からスティーヴ・ハウとリック・ウェイクマンが交代参加した3枚目以降のアルバムで聞かれるそれは、ひとつのテーマ曲の前後左右に緻密なアレンジや秀逸なアドリブで彩りを添え、歌と演奏全体を膨らませていく手法へと転換した、まさにプログレの王道をいくスタイルとなって作られた「こわれもの」や「危機」により、ようやく世界的にブレイクしたのですから、またまたのメンパーチェンジは如何に!?!

結論からいうと、リアルタイムで聴いたサイケおやじは、そのあまりのテンションの高さと完成度の凄さに圧倒され、唖然とさせられましたですねぇ~~。

 A-1 The Gates Of Delirium / 錯乱の扉
 B-1 Sound Chaser
 B-2 To Be Over

アルバム1枚で、全3曲! こういう大作主義はイエスの十八番とはいえ、ここで聴かれる演奏の恐るべき緻密さは、まさにフュージョン!

強烈な変拍子の嵐! アドリブの応酬と複雑なアレンジが施されたバンドアンサンブルの徹底的な追及! 緊張と緩和が見事な曲構成! 

それは当然ながら、スタジオ内の仕事ですから、綿密なリハーサル、テープ操作やダビング作業の繰り返しで仕上げられたのでしょう。しかしイエスの凄いところは、レコードに収められたものと大差の無い演奏がライプステージでもやれたことが、後に発売されたライプ盤「イエスショウズ」で証明されるのですから、圧巻!

まずアナログ盤A面全部を使った「錯乱の扉」からして、タイトルに偽り無しの劇的な演奏で、いきなり多重層的に絡み合うギターとキーボードのカラフルな導入部から、重心の低いドラムスとベースの蠢き、さらにメルヘンで哲学的な歌詞を爽やかな子供の歌みたいなボーカルで表現した後は、激しいテンションが満ち溢れた変拍子大会! 随所で自己主張する各人のアドリブプレイもヤバすぎますが、既に述べたように、これほどの緻密なモザイクジグゾーパズルがライプの現場では、ちゃ~んと再現出来るんですから、決してハッタリではありません。

例えばアル・ディメオラ(g) が在籍していた時期のリターン・トゥ・フォーエバーにしても、ここまで過激で緻密な演奏が出来るでしょうか!?

なんて冒涜的妄想が、至極真っ当に思えるほどですよ。

ちなみに終盤のパートは後に編集され、「Soon」と題されてシングルカットされたほどの和みも忘れていないのは流石です。

そしてB面が、これまた強烈に熱くて、目眩がするほどの完成度!

初っ端からビシバシにキメまくるメンバーの個人技の応酬から、フルスピードでブッ飛ばす「Sound Chaser」は、並みのフュージョンバンドには太刀打ちできない世界でしょう。本当に一瞬も弛んだところなんか、見つけようとしても無駄な抵抗です。

思わず、うぁっ、うぁぁぁ~、なんて唸ってばかりの私の気持は、何時聴いても変りません。

もちろん素晴らしい和みの時間も用意されているのは、憎たらしいほど♪♪~♪

それがオーラスの「To Be Ove」で、スティーヴ・ハウという天才ギタリストが如何にメロディを大切にしているかが実感出来ると思います。本当に全篇、夢見るようなギタープレイとアグレッシプな早弾き、幅広い音楽性に裏打ちされた一期一会の名演じゃないでしょうか。

ということで、サイケおやじは最初に聴いた瞬間から、何時までも驚きと新鮮な感動を持ち続けているわけですが、本当のイエスファンからの評判は芳しくありません。

というか、イエスの一連の作品の中では明らかに異なる色彩ゆえに、異端児扱いのようです。人気者のリック・ウェイクマンの後釜に入ったパトリック・モラーツのジャズフュージョン志向が目立ち過ぎるのも、その要因だと言われていますが……。

しかし、これまでよりもずっと前向きに過激なスティーヴ・ハウのギターに象徴されるように、フュージョンだろうが、ロックジャズだろうが、はたまたプログレだとして、イエスという超絶技巧集団には何時か通過せねばならない王道の儀式が、このアルバムだと断言しても、私は後悔しません。

それほど圧倒的な完成度、過激で濃密に仕上がったフュージョンアルバムだと思います。

特にドラムスとベースの存在感は凄いとしか言えませんし、辛辣なテンションで大活躍していた前任ドラマーのビル・ブルフォードと常に比較される宿命のアラン・ホワイトにしても、このアルバムでは常日頃の冷静さに加えて、ジャズならではの瞬間芸的な大技小技を周到に積み重ね、実は主役ではないかという嬉しい疑念も浮かんでくるほどです。

そしてイエスを語る時、必ず言われるのが、所謂「ロック魂」云々でしょう。

確かにロックはテクニック至上主義よりは、スピリットの問題とか、感性の鋭さがリアルタイムで求められているのは否定出来ません。しかし、だからといって、テクニックに優れて、それをウリにしているミュージシャンを貶すことで自己主張するのは、間違いじゃないでしょうか。

悔しかったら、やってみろっ!

なんてことをイエスの面々は言うはずもありませんが、現実的に残された凄い演奏は、何時まで経っても聴く人を圧倒するものがあります。なんというか、行きついたプログレが、一回転してロックジャズに戻ってきたのが、このアルバムかもしれません。

あとは、好き嫌い、それだけでしょうね。

私は好きです。

コメント (4)
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