OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

ブライアン・オーガーの危機脱出

2009-12-17 12:55:27 | Rock Jazz

Closer To It / Brian Auger's Oblivion Express (Ghost Town / RCA)

最近はコメントを書きこんでいただける皆様の温かいご厚情に甘え、初期ニューミュージックの女性シンガーとブライアン・オーガーを交代アップしておりますが、そういうウケ狙いもサイケおやじの本性ということで、本日も続けているわけです。

で、このジャケットが死ぬほどダサいアルバムは、ブライアン・オーガーが自らお気に入りと公言している名盤として、もちろんファンにも認識された1枚です。

制作されたのは1973年、前作の大傑作盤「セカンド・ウインド」に続くアルバムですから、本来は最高の状況でレコーディングされるはずが、実は当時のバンドは主要メンバーが大量離脱した逆転どん底期……。

しかし何んとかバンドを存続させんと踏ん張ったブライアン・オーガーは唯一人、自分に追従してくれたベース奏者のバリー・ディーンの人脈を頼りに新メンバーを集めたと言われています。

そしてここに新生オブリヴィオン・エクスブレスを構成したのは、ブライラン・オーガー(org,el-p,key,vo)、ジャック・ミルズ(g)、バリー・ディーン(b)、ゴッドフリー・マクレーン(ds)、レノックス・レイトン(per) という5人組なんですが、気になる点は専任ボーカリストが居ないという点でしょう。

これについてはブライアン・オーガーが自ら歌うという苦肉(?)の策をメンバーに納得させるため、レコーディング直前まで巡業ライプを続けていたそうですから、その意気込みは大いに共感を覚えるところですし、実際、このアルバムに記録された演奏からは、個人的に以前に気になっていたブライアン・オーガーの歌唱力のトホホな雰囲気が、それほど感じられません。

否、それが逆に濃厚な演奏の中にあって、不思議な和みを醸し出しているとさえ、思えるのです。

A-1 Whenever You'er Ready
 いきなりセッションが開始される前のリラックスした雰囲気までも録音されているムード良さが、そのまんま自然に発展していく展開がたまりません♪ そしてグルーヴィにして熱気溢れるファンキーハードロックのムードが、ブライアン・オーガーの本来持っているモダンジャズの素養にジャストミート!
 加速した演奏の中から浮かび上がって来るボーカルパートもイヤミなく、なによりもドラムスとパーカッションのテンションが高いですから、続くブライアン・オーガーのオルガンアドリブも鋭く突進していくのです。
 また如何にものリズムギター、土台を固めるベースとエレピの安定感も流石だと思います。そして当然ながら、これは当時はクロスオーバーと呼ばれたフュージョンですが、随所に正統派モダンジャズの味わいが滲み出ているのにも、ニヤリ♪♪~♪ おぉ、至上の愛!

A-2 Happiness Is Just Around The Bend
 初っ端からブライアン・オーガーのエレピがハービー・ハンコックではありますが、パックのラテングルーヴが当然ながら、リアルタイムで人気のサンタナになっているは潔いかぎりです。
 そしてボーカルパートに入っては、スティーリー・ダンがブリティッシュロックしたような、実にマニア泣かせの展開にシビレがとまりません♪♪~♪ 彩りに使われるシンセのエグイ雰囲気は、やりすぎ寸前の危険信号でしょうか。
 う~ん、それにしてもブライアン・オーガーはエレピを弾いても気持良いグルーヴを提供してくれますねぇ~♪
 ちなみに、これはスティーリー・ダンの最初のヒット曲「Do It Again」との類似性も指摘されるところだと思いますが、ほとんど「鶏と卵」かもしれません。

A-3 Light On The Path
 これまたサンタナとスティーリー・ダン、さらにハービー・ハンコックあたりがゴッタ煮となった演奏ですが、ブライアン・オーガーのオルガンからはブリティッシュロックの香りが立ち昇ってくるという、なかなか魅力的なインスト曲♪♪~♪
 しかも、そこにはウケを狙った美味しいフレーズなんか、ひとつも出さないという、本当にハードコアな姿勢が潔いかぎりです。
 それはギターのジャック・ミルズにも言えることで、あくまでも個人的な感想では決して超一流のプレイヤーではないと思うのですが、しかしここでの思いつめたようなアドリブソロは幻想的な味わいも強い、正統派プログレ風ロックジャズになっています。 

B-1 Compared To What
 これは基本が一発録りの魅力というか、素晴らしく自然体のグルーヴが楽しめるアドリブ主体の快演です。ヒーヒー泣きまくるブライアン・オーガーのオルガンは、本当にモダンジャズですよ。
 しかし要所に配されたキメ、強いビートを叩き出すドラムスとベースのコンビネーション、熱いアクセントを隠し味としたパーカッションが侮れません。
 そして、いよいよ出てくるブライアン・オーガーのダブルトラックによるボーカルが、なかなか根性の入った憎めないスタイルですし、ジャック・ミルズのギターソロも健闘しています。
 特に中盤以降、後半へ向けての熱気は煮詰まった美味しさでしょうね♪♪~♪

B-2 Inner City Blues
 ご存じ、マービン・ゲイの代表曲のひとつとして、今や1970年代ソウルやレアグルーヴの枠に留まらない認識度がありますから、後追いで楽しまれる皆様にも気になる演奏でしょう。
 ここではオリジナルのダークでメロウな、ある意味では心地良い倦怠感を活かしつつ、さらに如何にもジャズ優先主義でありながら、実はロック感覚の加味も忘れていない秀逸なバージョンに仕上げられています。
 ただし、それゆえに物足りない部分も確かにあって、もう少しアドリブパートのエグ味が欲しいところなんですが……。
 実はこの演奏は本来、シングル盤を作るためのものだったらしく、実際に発売された7インチのバージョンを聴くと、その音圧の強さとメリハリの効いたミックスが最高に魅力的なんです。ちなみにアルバムバージョンは約4分半、シングルバージョンが約3分半なんですが、もちろん基本は同じながら、幾分の演奏の違いも散見されていますので要注意!
 CDでの復刻については未確認ですが、機会があれば、このシングルバージョンはなかなか気持が良いんで、お楽しみ下さいませ。

B-3 Voice Of Other Times
 そして前曲の些か煮え切らないムードを上手く引き継ぎ、これぞっ、メロウファンクの極みつきといも言うべき、実に素敵なグルーヴが放出される、このオーラス!
 無機質なドラムスのイントロが、最高に心地良いコード進行の響きに溶け込んでいく最初のパートから、ツボを掴みきった短いギターソロ、脱力系のボーカルにグッと気分を高揚させるベースの定型パターン♪♪~♪
 このあたりは今で言う「ハウス」系の味わいでもあり、それゆえにブライアン・オーガーのエレピとオルガンが琴線にふれまくりですよ♪♪~♪ あぁ、この浮遊感♪♪~♪ さらにパーカッションが素敵なアクセントになっているのは言うまでもありません。

ということで、なかなか魅力的なアルバムとして、私は発売当時から夢中になったのですが、実は今となってはブライアン・オーガーの諸作の中では、それほどの名作ではないと思います。

ただし1973年という時代からすれば、これは当時のクロスオーバーからフュージョンへの懸け橋的な評価もあるわけですし、何よりも英国のロックミュージャンとしてしか見られなかったブライアン・オーガーが立派にジャズの本流を演じていたという認識が、特に我国の評論家の先生方やイノセントなジャズファンに芽生えたというあたりは、今さら隠しておく話でもないでしょう。

また当時の現実として、このアルバムはイギリスではCBS、アメリカではRCAという大手から配給されながら、特にアメリカでは、このフヌケたジャケットデザインが象徴するように、レコード会社からは全く期待されていなかったようですし、実際、業界での評判は芳しいものではありませんでした。ちなみにそれは、イギリス盤の素敵なジャケットデザインと比較すれば、まさに一目瞭然! 呆れるほどです。

そしてグループそのものの状況も厳しく、このレコーディングも低予算を逆手にとったスタジオライプ形式だったと言われていますし、プロモーションを兼ねた巡業も完全に自腹だったというのですから……。

しかし、それが好転したのが、アメリカでの地道なライプ活動だったそうで、主に大学を巡ったツアーから人気がジワジワと沸騰していったのは、ほとんど大衆的ではないブライアン・オーガーの音楽性と上手くリンクしていた当時の若者の「ロックに飽きた気持」だったのかもしれません。

時代はフュージョン全盛期に入り、またポップスもジャズ風味が感じられるAORが流行の兆しとなっていれば、ブライアン・オーガーが提供するイケイケのハードロックジャズと心地良いメロウグルーヴのゴッタ煮は、とても美味しかったというわけです。

最後にもう一度、このジャケットのダサダサの話を書いておけば、これを新譜として発見したサイケおやじは、もしかしたら、そのあまりの酷さゆえ、これは未発表作品集かと思ったほどです。それが実際に聴いてみれば、当時としては本当に画期的に熱い演奏ばかりでしたから、忽ち私は各方面に素晴らしさを喋りまくり、このアルバムも仲間達の間を転々と貸し出されていきました。

掲載したジャケ写の傷みも当然ですよね。

そして後に、全く別なデザインのイギリス盤を発見して、そのあまりの違いに愕然とさせられたわけですが、実際の音に関して言えば、アメリカ盤の方が音圧が高くて結果オーライだと思います。

このあたりはCDで聴けば、何の問題もないはずですから、お楽しみ下さいませ。

あぁ~、それにしても、こうして書いていながら、私はブライアン・オーガーのグルーヴ天国にどっぷり♪♪~♪ 抜け出せなくなりました。

お詫び
現在、イギリス盤が手元にありません……。
それゆえ、ジャケットを比較掲載することが叶いませんでした。
ご容赦下さい。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 扉の冬を押し開けて | トップ | ユーミンがデビューの初々しさ »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

Rock Jazz」カテゴリの最新記事