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写真よりもう少し暗く寂しい地底という雰囲気のホームに降り立ったのは僕ひとり。ここから高低差81m、462段の階段を上らなくてはならない。輪行袋を担いでその長い階段を上るのはちょっときつそうなので、ホームでMTBを組み立てて、組みあげたMTBをいつも里山でやるように肩でかついで階段を上るつもりだった。しかし降り立ったホームはあまりにひっそりとして寂しい雰囲気だった。あまり長居はしたくない雰囲気だった。僕は仕方なく、そのまま輪行袋を担いで階段を上りはじめた。
駅寝。学生時代はよく駅で寝た。水があり、便所があり、屋根がある。そんな駅舎は一夜の仮の宿には最適だった。
もちろん駅寝しやすい駅舎もあれば駅寝しにくい駅舎もある。当然駅寝なんてさせてくれない駅もある。駅寝といえるかわからないけれども、一度高知駅の隅でテントを張ったときは駅員に追い出された。今考えると当然だと思うし、自分でも非常識だと思うけれども、当時はそれが非常識なこととはこれっぽちも思わなかった。同じくらいの大きさの釧路駅では何も言われなかったのにと理不尽に思ったりしたものだった。
いくつかの印象深い駅もある。四国の駅は高知以外はとても寝心地良く快適な駅が多かった気がする。駅員さん、あるいは管理をまかされている方、そして地元の人も不思議にとても親切だった。阿波加茂、阿波池田、大歩危、名前は忘れてしまったけれども四万十川のすぐ近くの小さな駅。どこもとても寝やすかった気がする。寝苦しさとは無縁の寒い季節で、それだけに駅舎がありがたく感じられたということも関係しているのかもしれないけれど・・・
北海道では、同じようにそこで駅寝をしようとしているサイクリストやライダーと酒盛りになることが多かった。当時僕はかなりのアルコール嫌いで、先輩から無理矢理酒を飲まされることが嫌でたまらなかったけれども、そいうときは自らすすんで何本かビールを飲んだ。そしてお互いの旅の話などをした。それは旅に出る前に憧れていた風景のひとつだった。
若い頃にそんなことをしたせいか、今でも小さな駅舎を見ると、そこが駅寝しやすそうか駅寝しにくそうかをつい瞬時に判断してしまう。これはきっとそういう旅をしたことのある多くの人に共通することだと僕は思っているのだけれどもどうだろう?
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そんな懐かしい駅寝を久し振りにした。おそらく15年振りくらいに。で、そんな懐かしい駅寝はとても快適とはいえない代物だった。
明るすぎる照明の大きすぎる駅舎。登山口に近い結構有名な駅ということもあって、深夜も人の出入りが絶えない。駅前の駐車スペースに夜中着いた人が、なんとなく駅舎に入ってきたりする。それから流行っていないキャンプ場のバンガローに漂っているようなこちらが暗く寂しくなるような匂い。エアマットをふくらませてゴアのシュラフカバーに入ると思いのほか蒸してとても寝苦しい。夏でも昔は普通にシュラフにくるまって眠れていたと思うのだけれども、歳をとって体温調節機能が衰えたのだろうか?そして寝苦しくてシュラフカバーから体を出すと、想定外の蚊の襲来。今まであまり蚊に悩まされた記憶なんてないのに。これまた歳をとって蚊の好む変な匂いが体から発せられているとかそんなことなのだろうか?仕方なく半袖の腕にアームカバーをつけ、顔にはウィンドブレーカーの背中のメッシュの部分をかぶせて、なるべく肌の露出を少なくしたのだが、あの心地良い、懐かしい駅寝はどこにいったのだという気分だった。
結局眠れたのはは1~2時間だろうか?これなら体を横にはできないけれども、空調が効いた夜行列車での仮眠のほうがまだましだったかもしれない。もっともそんなことを言っても、この駅に停まる夜行列車はないので仕方ないのだが。
とにかく、それが僕の久々の駅寝であった。