yaaさんの宮都研究

考古学を歪曲する戦前回帰の教育思想を拒否し、日本・東アジアの最新の考古学情報・研究・遺跡を紹介。考古学の魅力を伝える。

第13回三校交流会in三重大開催の条

2010-11-21 18:26:58 | 歴史・考古情報《日本》-1 宮都


 昨日20日は三重大学、奈良女子大学、京都府立大学三大学の考古学研究室に所属する学生達による研究成果発表会であった。

 今年で13回目を迎えるこの会は、1998年、当時まだ奈良女子大学にいらっしゃった広瀬和雄さんと始めた交流会である。どうしても内に閉じこもりがちな地方大学、女子大学の学生を刺激して、相互の研究、調査、思考等々をぶつけ合って刺激し合うという主旨で始まった。

 関西にある奈良女子大学ならばいくらでも刺激の場はあるのだが、三重となると周辺を見渡してもその様な機会はほとんどない。せいぜい私たちがやっている考古学研究会東海例会や、名古屋大学の方々が中心となって開催されている古代史研究会がある程度である。

 しかし、いずれも相当の研究者が発表する場であって、学生や院生のレベルではとても機会を得ることは難しい。そこでこうした場を設けて一年に一度他流試合をしようと言うことで始めたのである。主体は学生達であって教官は基本的に口を挟まないことにしている。

 広瀬さんが歴博へ移られてからも続き、途中、京都府立大学の学生達にも参加してもらって、今は三校で順番に回している。今年は三重大学が当番校となった。13時から17時まで熱い議論が続いた。

 昨日の報告は次のようなものであった。

1 松本薫(三重大学M1)「古代伊勢の葬送ー横穴式木室と火化の考察からー」

 古墳時代後期から古代にかけて、遠江から伊勢へ伝来したとされる横穴式木室の構造と火化(木室墓に火を付けて焼くこと)の時期に着目して火化の意味を考察するというものであった。木室を分類し、六世紀初頭から七世紀後半までの同埋葬形態の時期毎の分布を示したまではよかったのだが、その結果当初の課題である火化の目的や意味について考察するには至らなかった。会場からもこの点が厳しく指摘され、現段階の見解でいいから示して欲しいという要望があったが残念ながらそれすら表明されなかった。資料を集めるだけに終わるという典型的な学生の発表であった。
 今改めて構造毎の分布や地域に着目してみると、A形態とされた最も多いタイプが遠江中部の天竜川と太田川に挟まれた地域で、G・H形態が天竜川以西の地でMT15型式の時期に発生したことが判る。A形態という中央に主柱穴を持ち、4辺の溝中からも柱穴が確認されるしっかりした構造の木室墓と、溝だけで形成される木室墓が同時期に別々の地域で成立することに違和感を感じるのだが、G・H形態が浜松市を中心とした天竜川以西に集中するのに対し、A形態が以東の磐田市周辺部に駐中するという地域差によるのかも知れない。これらはいずれも火化されることはなく、木室墓と火化との関係が当初からどの地域にもあるわけではないことを暗示している。
 これが爆発的に増えるのがTK10型式の時期で、天竜川以西と以東(太田川以西)の地域で同時に一挙に事例を増やす。この時期に伊勢国にも伝えられ、津市の君ヶ口古墳や伊勢市の南山古墳でこの時期にはまだ畿内およびその周辺部には展開しない。また、この時期においても火化された可能性は低く、これによっても横穴式木室墓と火化とは当初は関係ないことが予想できる。
 火化が一般化するのがTK43型式の時期で、この時期に初めて畿内およびその周辺部(丹波)に展開し、一部で火化が始まる。火化されるのはA形態のものと、F形態のもので、地域差は認めがたい。ほぼ同時期に遠江、畿内で始まったらしい。畿内(和泉)で始まった点が興味深い。

 せめてこれくらいの分析はして欲しかったのだが、やや準備不足というところであろうか。ま、これからの分析・考察に期待したい。

2 片岡沙霧(奈良女子大学4年)「東部瀬戸内の高地性集落ー弥生時代中期~後期の淡路島北部を中心としてー」

 本報告では淡路島北部が分析の対象とされたのだが、あまりに対象資料が少なく、この資料でもって「東部瀬戸内」を論ずること自体に限界があったと思う。当該地域の高地性集落の研究は大変多く知られており、この点からも少し物足りなかった。一つ一つの遺跡の分析はそれなりに丁寧にやれているだけに惜しまれる。

3 藤原光平(京都府立大学M1)「古墳時代前期における石製品の製作技術について」

 前期古墳時代の石製品、主に椀飾類を中心にしてその製作技術と石材の産地との関係から複数の製作者集団を復元し、石材の流通にも関与した「緊密なネットワーク」の存在を指摘した。

 石材毎に製作技法が異なるのは当然だと思うのだが、それがネットワークを組むというのがどうも解りづらい。今後もう少し事例分析を加えて、列島全体での比較研究できれば面白くなるのだが・・・。

 報告会の後簡単な鍋パーテーを開いて無事本年度の交流会を終わらすことができた。皆さんお疲れ様でした。また来年を楽しみにしておきます。

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