今週から斎宮歴史博物館で三重大学人文学部考古学研究室の学生を対象としたインターンシップが始まった。簡単に言えば学生の職業体験である。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/21/ce/6d6154d53d8eb00c16063def53c5ed6e.jpg)
(ぎこちない初日の復原作業)
どこの大学も生き残りに必死だ。特に就職率が問題にされることが多い。インターンシップとは学生の就職率を高めるために、企業に、就職希望の学生達を対象に現場体験を実施してもらう制度だ。いろいろな事情から三重県斎宮歴史博物館で初めて実施されることになった。
月曜から金曜までの5日間を2サイクル、10日間の「研修」である。もちろん今年はそれまでに既に何度か報告したように斎宮跡第146次発掘調査で現場実習をしてきたので、現場の雰囲気や気心は知れている。学生としても受け入れ側としてもやりやすい点はあるに違いない。さらに今年は斎宮博との連携で竹内さんを始め数人の方々のリレー講義もしていただいているから、学生達にとっては先生でもある。
初日はインターンシップの概要を聞いた後、早速現場体験らしい「仕事」が待っていた。台風19号は今回東海地方にはさほど大きな影響をもたらせなかったが、何せ広大な斎宮跡である、台風の後には必ず見回りをしなければならないという。遺跡の各所を歩いて回り、異常がないか点検する仕事である。いかにもインターンシップらしい仕事である。
帰って来るや、昨年発掘調査し、今年報告書を出す予定の調査地出土遺物の写真の準備である。いずれ遺物写真の実習もするという。写真を撮るために一度復原した遺物のうち一部が破損したり、まだ未復原の遺物があるので、その修復も仕事のうちだ。もちろん大学での考古学演習で一通りはしているのだが、周りには作業員のおばさま達の厳しい目が光っている。雑談をしながらの演習とは大違いだ。学生達の所作の一つ一つが緊張で引き締まっていた。もちろん久しぶりの復原作業である。要領の悪いことこの上ない。受け入れ側にとっては迷惑に違いない。しかし、お願いしている側(その引率者として三日間一緒に作業を見て回った)としてはこの雰囲気を見るだけで効果があるな!と感じた。
二日目はいよいよ現場に出て第146次発掘調査地の壁面図の実測である。もちろんこれも一通りの実習は積んでいるのだが、現場によって土の顔が違うことはいうまでもない。ましてや曰わくのある今回の現場である。「プロ」でも識別が難しいという黒色のクロボクといわれる遺構面を切り込む多数の黒色系の遺構の断面図である。難しい土色の違いを自らの目で判断し、識別し、線を引いていく、一つ間違えば遺構の前後関係を誤ることになる。これまた緊張する瞬間である。もちろん竹内氏の厳しい目が光っている。わずか二日間の体験だけで学生達の成長ぶりが手にとるように感じられる。本当にやってもらってよかった!と実感した。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/21/5f/fe23df72978a775bde9545e37f3da501.jpg)
(二日目から始まった土層断面図作り。この壁にもピットが・・・)
ところで、久しぶりに現場の断面を見て驚いた。例の大きな柱跡の出た南側のトレンチの東壁に規模は小さく60cm前後なのだが、全く同じようにクロボクと黄色い地山の土の混じり合った土で埋まるピットが引っかかっているのだ。但し間隔がえらく広く3.9~3.6mもある。きっと、東西に並ぶ柱列の一部を切っているのだろう。残念ながら平面はシートで覆われていて見えないのだが、「これって、本当に平面で検出できないのかなー」と密かに思った瞬間である。
学生達には微妙な層の違いも見落とさないよう指摘して、「とにかく自分の目を信じて、線を引いた以上説明ができるようにしておきなさいよ」と伝えて現場を去った。現場の複雑な社会関係も学習の一つかも知れない。
ところで昨日は、滋賀県立琵琶湖博物館の宮本さんに現場で出た線状に延びる礫層の確認に来てもらった。ひょっとすると大規模な墳砂か?等と言ってきてもらったのだが、一目で、これは違うよ、といわれてしまった。こんな墳砂があったらこの辺の家はもちろん大木もみんな倒れる大地震、地殻変動だと笑われてしまった。そんなもののために来月からアフリカに出張するという宮本さんにわざわざ斎宮まで来てもらって申し訳なかった。しかし、その後第146次調査地の断面を見てもらったりして、斎宮の地盤の情報を一部頭に入れてもらえたことはよかったと思う。今後こうした学際的な交流が斎宮においても継続されることが望まれる。いろんな人に現場を直接見てもらい一緒に調査するという経験が斎宮には必要だとさらに感じた瞬間であった。宮本さんも「また見せて下さい」と気持ちよく言って帰られた。有り難いことだ。是非これから一緒にGISなどを用いて、斎宮の詳細な宮地表面の復原地形図なども作っていきたいものだ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/18/33/76e7df3cac9df0e976955555edfec2b8.jpg)
(琵琶湖博の宮本さんによる地質調査。現場は多くの目で見る必要性をつくづく感じた。史跡の学術調査なら特にそうだろう。)
今年の夏は斎宮での授業体験などを通して初めて斎宮の「実態」を目と体で知ることができた。それと共に大学と三重県というそれなりに大きな組織同士が「共同」することの難しさを改めて思い知らされた。さらに国史跡をいかなる技術で掘るかと言うことについても、先に訪れた多賀城での「旧調査地の再発掘」の様子などから考えさせられた。間もなく夏休みは終わる。この貴重な体験を秋以降の研究に活かしていきたい。
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(ぎこちない初日の復原作業)
どこの大学も生き残りに必死だ。特に就職率が問題にされることが多い。インターンシップとは学生の就職率を高めるために、企業に、就職希望の学生達を対象に現場体験を実施してもらう制度だ。いろいろな事情から三重県斎宮歴史博物館で初めて実施されることになった。
月曜から金曜までの5日間を2サイクル、10日間の「研修」である。もちろん今年はそれまでに既に何度か報告したように斎宮跡第146次発掘調査で現場実習をしてきたので、現場の雰囲気や気心は知れている。学生としても受け入れ側としてもやりやすい点はあるに違いない。さらに今年は斎宮博との連携で竹内さんを始め数人の方々のリレー講義もしていただいているから、学生達にとっては先生でもある。
初日はインターンシップの概要を聞いた後、早速現場体験らしい「仕事」が待っていた。台風19号は今回東海地方にはさほど大きな影響をもたらせなかったが、何せ広大な斎宮跡である、台風の後には必ず見回りをしなければならないという。遺跡の各所を歩いて回り、異常がないか点検する仕事である。いかにもインターンシップらしい仕事である。
帰って来るや、昨年発掘調査し、今年報告書を出す予定の調査地出土遺物の写真の準備である。いずれ遺物写真の実習もするという。写真を撮るために一度復原した遺物のうち一部が破損したり、まだ未復原の遺物があるので、その修復も仕事のうちだ。もちろん大学での考古学演習で一通りはしているのだが、周りには作業員のおばさま達の厳しい目が光っている。雑談をしながらの演習とは大違いだ。学生達の所作の一つ一つが緊張で引き締まっていた。もちろん久しぶりの復原作業である。要領の悪いことこの上ない。受け入れ側にとっては迷惑に違いない。しかし、お願いしている側(その引率者として三日間一緒に作業を見て回った)としてはこの雰囲気を見るだけで効果があるな!と感じた。
二日目はいよいよ現場に出て第146次発掘調査地の壁面図の実測である。もちろんこれも一通りの実習は積んでいるのだが、現場によって土の顔が違うことはいうまでもない。ましてや曰わくのある今回の現場である。「プロ」でも識別が難しいという黒色のクロボクといわれる遺構面を切り込む多数の黒色系の遺構の断面図である。難しい土色の違いを自らの目で判断し、識別し、線を引いていく、一つ間違えば遺構の前後関係を誤ることになる。これまた緊張する瞬間である。もちろん竹内氏の厳しい目が光っている。わずか二日間の体験だけで学生達の成長ぶりが手にとるように感じられる。本当にやってもらってよかった!と実感した。
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(二日目から始まった土層断面図作り。この壁にもピットが・・・)
ところで、久しぶりに現場の断面を見て驚いた。例の大きな柱跡の出た南側のトレンチの東壁に規模は小さく60cm前後なのだが、全く同じようにクロボクと黄色い地山の土の混じり合った土で埋まるピットが引っかかっているのだ。但し間隔がえらく広く3.9~3.6mもある。きっと、東西に並ぶ柱列の一部を切っているのだろう。残念ながら平面はシートで覆われていて見えないのだが、「これって、本当に平面で検出できないのかなー」と密かに思った瞬間である。
学生達には微妙な層の違いも見落とさないよう指摘して、「とにかく自分の目を信じて、線を引いた以上説明ができるようにしておきなさいよ」と伝えて現場を去った。現場の複雑な社会関係も学習の一つかも知れない。
ところで昨日は、滋賀県立琵琶湖博物館の宮本さんに現場で出た線状に延びる礫層の確認に来てもらった。ひょっとすると大規模な墳砂か?等と言ってきてもらったのだが、一目で、これは違うよ、といわれてしまった。こんな墳砂があったらこの辺の家はもちろん大木もみんな倒れる大地震、地殻変動だと笑われてしまった。そんなもののために来月からアフリカに出張するという宮本さんにわざわざ斎宮まで来てもらって申し訳なかった。しかし、その後第146次調査地の断面を見てもらったりして、斎宮の地盤の情報を一部頭に入れてもらえたことはよかったと思う。今後こうした学際的な交流が斎宮においても継続されることが望まれる。いろんな人に現場を直接見てもらい一緒に調査するという経験が斎宮には必要だとさらに感じた瞬間であった。宮本さんも「また見せて下さい」と気持ちよく言って帰られた。有り難いことだ。是非これから一緒にGISなどを用いて、斎宮の詳細な宮地表面の復原地形図なども作っていきたいものだ。
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(琵琶湖博の宮本さんによる地質調査。現場は多くの目で見る必要性をつくづく感じた。史跡の学術調査なら特にそうだろう。)
今年の夏は斎宮での授業体験などを通して初めて斎宮の「実態」を目と体で知ることができた。それと共に大学と三重県というそれなりに大きな組織同士が「共同」することの難しさを改めて思い知らされた。さらに国史跡をいかなる技術で掘るかと言うことについても、先に訪れた多賀城での「旧調査地の再発掘」の様子などから考えさせられた。間もなく夏休みは終わる。この貴重な体験を秋以降の研究に活かしていきたい。
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