さぶりんブログ

音楽が大好きなさぶりんが、自作イラストや怪しい楽器、本や映画の感想、花と電車の追っかけ記録などをランダムに載せています。

【読書録】鐔(つば)は知っている~土佐の幕末維新

2018-08-30 23:13:14 | 読書録
小島博明 著/坂本龍馬財団

桂浜の坂本龍馬記念館で買ってきた本。

昔、剣道をやっていた時、初心者用のプラスチックの鐔(鍔)から革の鐔に替えた時、異様に胸が高まったことをいまさらながなら思い出したが、武士にとっての刀の鐔とは当然ながら猛烈にこだわりのあるもの。今回、その鐔には、装飾性だけでなく、メッセージ性がある・・ということを初めて理解した。

山内容堂は戦国時代の名工・信家による「一心不乱にの信家」を愛用し、それを容堂の時代の名工・宗義に忠実に写させた「一心不乱にの宗義」を後藤象二郎に渡していた。山内家には「徳川家あっての山内家」という思いがずっとあり、作られた時代は異なるが、将軍への忠義の証である「一心不乱にの信家」は山内容堂にとって徳川家への忠義の証であった。そしてその写しである「一心不乱にの宗義」は徳川家への忠義を忘れない山内容堂の身代わりであった。つまり山内容堂も後藤象二郎も心の奥底ではつねに佐幕だったのである。

この本を「龍馬暗殺の真相はこれだ」というキャッチに惑わされて、推理小説のように読んでしまうとやや拍子抜けるかもしれない。実行犯は京都見廻り組の佐々木唯三郎、今井信郎、桂隼之助、渡辺吉太郎らとし、黒幕は謎のままである。後藤象二郎は相当に怪しいが、黒幕ではない。後藤象二郎は、龍馬の脱藩罪の赦免や、いろは丸事件の紀州藩との裁判、大政奉還において、龍馬を常に助け、いわば同士であったが、大政奉還後に龍馬とは利害関係がズレてくるのである。大政奉還について、容堂以下土佐藩の幹部は象二郎が考えたものだと思っていたから恩賞がもらえるのは象二郎であるが、考えたのが龍馬だと知られたら・・という恐れがあった。いろは丸事件の紀州藩からの賠償金受け取りに際しては、龍馬の海援隊と象二郎の土佐商会のどちらが主体になるかという問題があった。ましてやいろは丸事件で紀州藩船に衝突されたことによる土佐側の損害は、龍馬と岩崎弥太郎が積荷目録には箱としかかかれていないのをよいことに中身を偽って被害額をつりあげており、象二郎も黙認したことにより秘密を共有していることになるが、紀州藩にバレた場合のダメージは土佐重役である象二郎の方が大きい・・・等いろいろあったらしい。だがこの本の中では、象二郎は龍馬を一定期間捕えさせることでやりすごし、紀州藩との賠償問題が片付き、ほとぼりが冷めたところで、牢から出されるように画策していた。だから暗殺の黒幕ではない。

まぁ、そこだけを取り出してしまうとこの本の魅力を半分も楽しめないことになってしまう。今大河ドラマで「西郷どん」を見ているせいで、幕末が薩摩視点になってしまっているが、「龍馬伝」を思い出しつつ、土佐視点であらためて整理すると、薩摩視点とはだいぶ違ってくるのである。

感慨深いのは、容堂が最終的に「一心不乱にの信家」を手放す場面だ。要は明治の代になり、佐幕のメッセージをもつ「一心不乱にの信家」をこれ以上持っていることができなくなったのだ。鐔おより佐幕の心と決別する山内容堂の姿はちょっと涙を誘う。

龍馬伝では山内容堂を近藤正臣が演じていたし、藩主としては隠居していたから、すごく年上の人に思っていたけれど、山内容堂が亡くなったのは数え年で46歳。この本の表紙の左上にも載っているが、容堂の肖像を意外に若く感じるのは、40代で亡くなった人だからだ・・と合点がいった。
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