ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

オペラ「影のない女」

2010-06-12 23:05:47 | オペラ
6月1日新国立劇場オペラパレスで、リヒャルト・シュトラウス作曲のオペラ「影のない女」を観た(指揮:エーリヒ・ヴェヒター、管弦楽:東京交響楽団、演出:ドニ・クリエフ)。

リヒャルト・シュトラウスのオペラと言えば「ばらの騎士」と「サロメ」しか知らなかったが、このオペラはシュトラウスの円熟期に作られ、最高傑作とも言われている由。「ばらの騎士」がモーツアルトの「フィガロの結婚」を元に作られ、その次に「魔笛」の精神によるオペラを書こうとしてできたのが、この「影のない女」だという。

筋はものすごく込み入っている。
霊界の大王カイコバートの娘は父からもらったお守りによって獣に変身できる。
彼女が付き添いの乳母から離れ、白いカモシカになって遊んでいる時、鷹狩りに来た(人間界の)皇帝に捕まってしまう。その瞬間カモシカは元の美しい女の姿に戻り、皇帝は彼女を妻とする。乳母は皇后となった娘に付き添っている。
11ヶ月が過ぎ、二人は愛し合っていたが、皇后はまだ人間の女になるまでには至らず、体内から光が出るので影ができない。そのため子供も産めない。
カイコバートは娘が人間と結婚したことを怒り、月に一度乳母の所に使者を送り、皇后に影がないかどうか尋ねさせる。
実は大王は皇帝に呪いをかけていた。結婚して12ヶ月たっても皇后に影ができなければ、皇帝は石と化すことになっていたのだ。

さて、これがあらすじ・・だと思ったら大間違い!ここまでは第1幕の始まる前に起こった出来事なのだった!

皇后は夫にかけられた呪いを知り、何とかして影を手に入れたいと願う。乳母に相談すると、乳母は人間界の染物師バラクの妻に目をつける。この女は夫に不満があり、子供を生もうとしないので、影を売ってくれるかも知れない、と考えたのだ・・・。

この長いストーリーを考え出したのはホフマンスタール、あの「ばらの騎士」の台本を書いた人と作曲家自身である。二人はいろいろな物語やあちこちの伝説からアイディアを借りてきて自由にこのオペラを創り出した。例えばペルシャの詩からは「妖精と結婚した人間の男は一年以内に子供が生まれなければ石とならねばならない」というアイディアを借り、「アラビアン・ナイト」からは傷ついた鷹、カモシカに姿を変えた妖精などのアイディアを借り、染物師バラクはアラビアから、霊界の大王カイコバートはペルシャから、また影が多産の象徴であるというのは北欧の伝説であり、「魂を悪魔に売り渡す」というキリスト教の伝説が、影を売ることに代わり、悪魔の代わりに多少とも悪い性格を与えられた乳母が登場するという具合だ。これらの素材を用いて彼らが言わんとするテーマは「魔笛」と同じく、試練を経て真の愛が結ばれる、というもの。

音楽は始めから終わりまでただもう美しいので、ここでは何も言うことはない。
歌手たちもうまい。ただ舞台の床がデコボコしていたのが気になった。大変な難曲なのだから歌に集中したいだろうに、足元にも気を配らないといけないなんて可哀想だ(美術もドニ・クリエフ)。

大詰めで4人の運命が劇的に転換する場面が唐突に思えた。それまでの大前提であった、大王の恐ろしい呪いがひっくり返るのだから、天地が裂けるとか雷がとどろくとかしないと、ただ石壁の中に閉じ込められていた皇帝がふらっと出てくるだけでは納得いかない。ここは大王カイコバート御自ら登場して直接娘に語りかけるシーンがほしい。

とは言え、ラスト、染物師の前に妻が現れ、後ろから強いライトが当たって彼女の影が家の壁にくっきりと映った時にはつい涙が溢れ出てしまった。全く敵(演出家)の思う壷である。我ながら御し易いお客・・・。

乳母は一人罰せられて、あれほど軽蔑していた人間界に送られる。「魔笛」の夜の女王一味に当たる役回りだからそうなるのだろうが、彼女は本当は霊界に戻りたいのに女主人のために仕方なく知恵を絞って影を手に入れてあげようとしただけなのだから、この結末は気の毒にも見える。だが染物師夫婦の苦しみを見ながら(女主人と違って)全く同情しなかったのがいけなかったのだろう。

音楽とは関係ないが、観ていて、子供を生むことにこだわり過ぎているように思えた。夫婦愛を賛美するのにどうして子供が必要不可欠なのだろうか。子供が生まれないと愛は成就しないのか。かつて子供を生めない女は一人前と見なされなかった。観ていてどうしてもそのことを思わずにはいられず、心に痛みを感じた。所詮男たちの創ったオペラということか。とは言え、音楽が極上なのだから、四の五の言うべきではないのかも知れない。

本当の主役はバラクの妻だと言われている通り、カーテンコールで最後に出てきたのは彼女を演じたステファニー・フリーデだった。タイトルは皇后のことだから、タイトルロールでない人が主役というのは稀有のことではないだろうか。

久々に、ドイツ語やっててよかったと思えた一日だった。












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