ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

オペラ「トリスタンとイゾルデ」

2024-04-09 11:02:13 | オペラ
3月29日新国立劇場オペラパレスで、リヒャルト・ワーグナー作曲のオペラ「トリスタンとイゾルデ」を見た(演出:デイヴィッド・マクヴィカー、指揮:大野和士、
オケ:都響)。



コーンウォールのマルケ王の甥、騎士トリスタンは、アイルランドの王女イゾルデを王の妃として迎えにいく。
かつて愛し合ったことのある二人は毒薬で心中を図るが、侍女ブランゲーネの手により毒薬は愛の媚薬にすりかえられていた。
二人の愛は燃え上がり逢瀬を重ねるが、密会の場面を王に見つかり、トリスタンは王の家臣メロートの剣により重傷を負う。
トリスタンは故郷の城でイゾルデを待ち、やっと到着した彼女の腕の中で息を引き取る。イゾルデもまた彼を追い愛の死を迎える(チラシより)。

このオペラは、2007年秋にバレンボイム指揮、ベルリン国立歌劇場の引越し公演を見たことがある(演出:ハリー・クプファー、NHKホール)。
今回の公演は、13年ぶりの再演の由。

舞台下手側に白い太陽?が浮かび、水面に映っている。それが前奏曲に合わせて少しずつ上ってゆく。
音楽はもちろんロマンティックかつドラマチック。
作曲家自身が自分の書きたい音楽に合わせて好きなように台本を書いているし。
とにかく人を陶酔の極みに引きずり込む力がある。
その力には到底あらがえません。

イゾルデの母は魔法が使えたという。いろいろな薬を作り、娘の結婚に際し、それらを侍女に持たせたという。
イゾルデは混乱している。
トリスタンは、かつて彼女の婚約者を殺した男なのに、その彼を愛してしまい、傷を治してやったという過去がある。
そして今、彼はマルケ王の使いとしてやって来て、彼女を王の妃として、王のもとに送り届けようとしている。
イゾルデは揺れている。
もう、二人で死ぬしかない・・・。

日本語字幕と英語字幕がだいぶ違っていて興味深い。
筆者は言葉に特に興味があるので、こういう場合、いつも目が忙しくなる。

余談だが、花嫁を花婿本人が迎えに行くのでなく別の男に迎えに行かせるというのは、オペラ「薔薇の騎士」やシェイクスピアの「ヘンリー六世」など
にも見られるが、これはあまりよい風習ではないと思う。
代理の男が年寄りならまだしも、若い溌剌とした青年などを使いに出すから面倒なことが起こるんじゃないか(笑)。
 ~休憩~
<2幕>
幕が開くと中央に巨大な柱(少し円錐形)、その上方を巨大な銀色の輪が幾重にも囲んでいる。
途中それが銀色に光り輝く。
本物のたいまつが1本、赤々と燃えている。
さらに、多くの人々が赤々と燃える灯火を手に次々と入って来る。
ブランゲーネ(藤村美穂子)が忠告するのも聞かず、イゾルデ(リエネ・キンチャ)は自ら警告のたいまつを取り、消して投げ捨てる。
トリスタンが来て、二人は愛の夜を讃える。
だが、これは廷臣メロートの策略だった。二人は王の部下たちに囲まれる。
マルケ王(ヴィルヘルム・シュヴィングハマー)は愕然として、甥であるトリスタンに問いただすが、彼が「何も答えられません」
としか言わないので、ショックで倒れてしまう。
メロートが助け起こすが、王はその後、彼を押しのける。
王は「余計なことをしてくれた、トリスタンたちの裏切りなど知りたくなかった」と思っているのだ。
このあたりの演出が非常にいい。

トリスタンはイゾルデに、私の行くところについて来てくれますか?と尋ねる。
生まれる前にいた世界のことを言っているようだ。(彼の母は、彼を産んですぐ死んだという)
イゾルデ「あなたの世界に私も行きます」
二人は抱き合ってキスする。
兵士たちは、あわてて身構える。
メロートは二人を指差して「言いたい放題!」と叫ぶ。
だが、ここの英語の字幕は "Traitor! "だった。
全然違うんですけど・・。
どっちが原文に忠実なのだろうか。
たぶん英語の方ですよね。
日本語の方が、この場の状況にぴったりで、すごく面白くはあるけれど。
このように、日本語の字幕が時々非常に面白い。

トリスタンは剣を取ってメロートと向き合うが、最初から死ぬつもりだったらしく、すぐに剣を捨ててメロートの剣に
自ら身を投げる。
 ~休憩~
<3幕>
(当然ながら)暗く重い音楽。
重傷を負ったトリスタンは椅子の上でうなだれている。
そばに従者クルヴェナールがいて、今にイゾルデが船でやって来ますから、とトリスタンを励ます。
牧人の吹く笛の音が淋しげに聞こえて来る。
コール・アングレの調べが心に沁みて美しい。
トリスタンは自らの人生を顧み、夢見るようにイゾルデの美しさを讃えて歌う。
彼女の乗った船は、なかなかやって来ない。
彼は途中から立ち上がり、歌い続けるが、ついに力尽きて倒れる。
ようやくイゾルデが到着。
真紅の長いドレス姿。
歌いながら彼のそばに横たわる。
そこに兵士たちとメロートが来るので、クルヴェナールは「やっと仇が打てる、この時を待っていた!」とメロートを刺し殺す。
ブランゲーネとマルケ王も来る。
ブランゲーネが秘薬のことを王に告白したので、王はようやく真相を知り、トリスタンが自らの意思で裏切ったのではないことを知り、
二人を許そうと思って来たのだった。
だが「みんな死んでしまった」。遅過ぎた・・・
と、倒れていたイゾルデが起き上がり、トリスタンへの愛を歌う。
音楽が高まる。
イゾルデは後ろを向いて数歩歩いてゆく。幕(!)

このように、イゾルデは死なない。ここが、今回の演出の大きな特徴。
従来の演出とは違うが、そもそも「悲しみのあまり死ぬ」というのは死因としてなかなか受け入れにくいので、
これはアリだと思う。
音楽の友社の解説本には「イゾルデはトリスタンの遺体に静かに倒れつつ、忘我のうちに息絶える」とあるし、
今回のチラシのあらすじも同様だけど。
そして作曲家自身も、イゾルデの死を当然想定していただろうけれど。

シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」の翻案であるミュージカル「ウエストサイド物語」を思い出した。
ロミジュリと違って、ラストでトニーは死ぬがマリアは死なない。

今回、演出もよく、久々にワーグナーの愛と官能の世界を堪能できた。
2度の休憩を含めて5時間25分の至福の時。
歌手では、主役の二人ももちろんよかったが、ブランゲーネ役の藤村美穂子と、マルケ王役のシュヴィングハマーが断然素晴らしかった!
都響の演奏もよかった。
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