ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

「ピローマン」

2022-04-02 16:04:25 | 芝居
3月17日俳優座劇場で、マーティン・マクドナー作「ピローマン」を見た(演劇集団円公演、演出:寺十吾)。




童話作家のカトゥリアンと兄のミハエルは児童連続殺害事件の重要参考人として警察に拘留されていた。童話の内容と酷似する事件が起きたことで
カトゥリアンは執拗な尋問を受けていた。兄弟は両親のある実験的養育の恩恵と犠牲のもとに運命を違え、カトゥリアンは作家として成長し、その才能を
世に送り出していた。しかし事件をきっかけに秘められた真実の扉が開かれ、童話に触発されるように人間たちの闇がゆらぎ始める(チラシより)。

恐ろしい話に、初め背筋が凍った。何しろ舞台は、とある全体主義国家の警察署で、尋問する刑事たちは冷酷非情、作家をハナから犯人と決めつけて拷問も。
だが少しずつ霧が晴れていくように真相が明らかになっていく作劇術が、さすがマクドナーだ。
緊迫感溢れる展開に、観客の集中力は一瞬たりともそがれることがない。それがやはり芝居の醍醐味ではある。
兄弟の両親が、なぜ子供たちを使って世にも奇妙な実験を何年も続けたのか、それはわからない。
カトゥリアン(渡辺穣)が書いた物語は「川辺の町(ハーメルン)の話」、「キリストだと自称する少女の話」、「ピローマンの話」、「緑色の豚の話」など。
どれも残酷でグロテスクな内容なのは、明らかに両親の育て方の影響と言えるだろう。
(ただ「緑色の豚の話」だけは奇妙な味わいだが残酷ではなくてほっとさせられる。)
兄ミハエル(玉置祐也)は知恵遅れで、素直で、カトゥリアンに対しては当然ながら自分の方が弟のような関係。
カトゥリアンの書く童話が好きで、子どものように何度も彼にねだって話してもらう。
時々話の内容を忘れてしまったり、脳内で筋がこんがらかったりする。
そこはストーリー展開上、重要な伏線だった!
彼らを尋問する二人の刑事のうち片方(石住昭彦)は、乱暴で、カトゥリアンをすぐに拷問にかけようとするが、実は人間味ある正義漢で、自らの良心から行動している。
もう片方の刑事(瑞木健太郎)は、より穏やかで知的に見えるが、カトゥリアンが兄をかばって嘘の自供をしたことが判明し、その自供に基づいて自分が作成した調書が
事実と違っていたことがわかるや、個人的な怒りからカトゥリアンに復讐する・・・。

カトゥリアン役の渡辺穣、刑事たちを演じる石住昭彦と瑞木健太郎、ミハエル役の玉置祐也ら、役者陣は、みな好演。
演劇集団円は、決して期待を裏切らない。

この作家はどういう生い立ちをしたのだろうか。それが知りたい(いや知るのはちょっと怖いかも)。よほど大変な育ち方をしたに違いない。
だって彼の書いたものと言えば、「ビューティー・クイーン・オブ・リーナン」は(女性と母親の話なので)それほどでもないが、「スポケーンの左手」にしろ
「イニシュマン島のビリー」や「ハングマン」にしろ、家族の間の温かい関係というものがほぼ皆無なのだから。

驚いたことに今日もほぼ満席。最近満席のことが多い。みんな芝居に飢えているのか。
コメント
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