ふくろたか

札幌と福岡に思いを馳せるジム一家の東京暮らし

火刑都市30年⑦溜池・弁慶堀

2016年08月19日 | 火刑都市30年

8月までに7件の放火。9月には中央区八重洲2丁目で第8の放火が起きる。

ついにメディアも大騒ぎを始めた。そして、メディアの騒ぎをあおるように、

「イシヤマ」とおぼしき男が週刊誌に投稿したり、警視庁に電話したりと挑発を重ねた。

「このマッチ一本の火を、地の水をかけて消せ」

その後も、中村刑事たちの警戒をかいくぐるように、

10月に八重洲1丁目で、11月に千代田区大手町2丁目で放火が起きる。

皇居を中心に南に半円を描くような経路。「東亰万歳」を唱える「イシヤマ」の意図は何か。

すがる思いで東京都教育庁を再訪した中村刑事は重要なヒントを得る。


東京都教育庁と中村刑事のやり取りを通し、作者の島田荘司氏は都心の水環境を嘆く。

外堀。江戸城を取り巻く大きな水の環が明治以降、

都市化・近代化の波で分断されて、現在は南半分はほぼ埋め立てられた・・・

その南半分の外堀をしのぶ「痕跡」に、「溜池」の地名と埋め残しの「弁慶堀」を挙げる。

東京メトロ銀座線・南北線の溜池山王駅(赤坂)。「溜池」を今に伝える地のひとつ

「当時はずいぶん風光明媚な場所だったらしく、広重の名所絵などによく出てきます」(注1)

そのように作中で記される「溜池」。上の歌川広重「赤坂桐畑」はその一作である

溜池山王駅から外堀通りを紀尾井町方面に北上すると「弁慶堀」に行き当たる

現在はボート場を兼ねた釣り堀になっている。都心でバス釣りが楽しめる穴場である

作中で「ホテルニューオータニのところにある弁慶堀」(注2)と記される通り、

「弁慶堀」から見上げると、ホテルニューオータニのガーデンタワーが目に飛び込む

この独特の形状を見て、角川映画「人間の証明」(原作・森村誠一)を思い出す人もいるのでは


「地の水=江戸城の外堀」と確信した中村刑事は、次の放火の場所を神田と推測する。

そして、布袋屋の若旦那が絡んでいた「飯田堀埋め立て闘争」を思い出す。

「地の水」に執着している「イシヤマ」はこの闘争に参加していたに違いない。

そして、その場で「イシヤマ」と由紀子が再会を果たしたのではないか・・・(つづく)


注1:火刑都市「第九章・失なわれた環」339P 注2:同340P