とつぜん対談 第67回 胡蝶蘭との対談

　今日の対談相手は華やかな方です。大変にきれいなご婦人です。近くにおられるだけで、周囲がパッと明るくなります。今日のゲストは胡蝶蘭さんです。
　胡蝶蘭さんのお仕事は、お祝い屋さんです。祝いごとの場に呼ばれて、場を華やかに彩るのが胡蝶蘭さんのお仕事です。大変に忙しい人です。

雫石
　どうも、お忙しいところをよく来ていただきました。

胡蝶蘭
　はい。あまり時間がありませんのよ。

雫石
　これからどこへ。

胡蝶蘭
　パチンコ屋さんの開店祝いが1件。心療内科のクリニックの開業。レストランのオープンが2件。受賞のお祝いパーティが1件。いそがしいのよ。

雫石
　お祝いというと、あなたが呼ばれるのですね。

胡蝶蘭
　ま、当然ね。わたし、きれいだから。

雫石
　そうですね。

胡蝶蘭
　でも、わたし、歌を歌うわけではないし、舞も舞えないし、おもしろいおしゃべりもできないわ。きれいなだけがわたしの取り得なの。

雫石
　そんなことをしなくても、あなたはそこにいるだけでいいんです。

胡蝶蘭
　おかげで商売繁盛でけっこうなんですが、わたしも少しはゆっくりしたいわ。こうみえても、わたしはけっこう高いのよ。

雫石
　ちょっとお高いからいいんですよ。安い花だと、贈られたって、ありがたみがないし。

胡蝶蘭
　そうねえ。そのへんの雑花より、わたしがお祝いの場にいる方がいいかも。

雫石
　いろんな所にお仕事に行かれたんでしょうねえ。ところで、いま、いちばん話題の人といえば、例の号泣の珍芸の芸人さんですが、あの人が当選したときも、あなたが当選祝いの場に行きましたか。

胡蝶蘭
　行ったわ。

雫石
　あの人、当選したときも号泣しましたか。

胡蝶蘭
　忘れたわ。選挙ともなると、ほとんどの当選お祝いに、わたしが贈られるのよ。

雫石
　あの、一度お聞きしようと思ってたのですが、お祝いの場にあなたがいて、華やかに彩られていますが、その催しが終わったら、あなたはどうなるのですか。

胡蝶蘭
　秘密よ。そんなこといえないわ。そんなこと気にしないで、華やかなわたしだけ見てればいいのよ。

雫石
　いろんな所に行かれたんでしょうねえ。

胡蝶蘭
　行ったわ。

雫石
　一番変わった場はどんなところでした。

胡蝶蘭
　そうねえ。作家のＭＨ知ってる。

雫石
　知ってます。私は読んだことはありませんが。確かＮ賞の万年候補でしたね。

胡蝶蘭
　そ、本人は気にしてないみたいなこといってるけど、ほんとはものすごくＮ賞が欲しいのよ。で、受賞パーティーをやったの。そこにわたしが呼ばれたの。

雫石
　え、なにも受賞してないでしょう。

胡蝶蘭
　だから、自分でＭＨ賞というのをこさえて、自分が第1回の受賞者になったのよ。自宅に一番安いわたしを飾って、少ない友だちを読んで、セブン・イレブンで缶チューハイと亀田の柿の種と満月ポンを買って来てパーティーやってたわ。

雫石
　なんか哀しいですね。

胡蝶蘭
　そうなの。わたしが行く場は、表面は華やかだけど、けっこう哀しいとこがあんのよ。

雫石
　時間、だいじょうぶですか。

胡蝶蘭
　あ、そうね。パチンコ屋の開店祝いに行かなくっちゃ。

雫石
　新装開店ですね。

胡蝶蘭
　そ。平日の午前10時だけれど、たくさんの人がお店の前でまってるわ。

雫石
　パチンコ依存症の人もおおぜいいるでしょう。

胡蝶蘭
　そうねえ。いるでしょうね。
　
雫石
　その後は。

胡蝶蘭
　心療内科のクリニックの開業祝よ。そのクリニック、依存症の治療が売りなの。特にパチンコ依存症の治療では名のある医者なんですって。あ、いそがなくっちゃ。それじゃあね。あなたも、なんか賞もらってわたしを呼んでね。