風に吹かれすぎて

今日はどんな風が吹いているのでしょうか

山登り

2005年07月08日 | 旅行
若い時はしょっちゅう山登りに行っていました。
特にお気に入りは、八ヶ岳でした。
五月と11月の連休には必ず八ヶ岳に行っていました。
五月は残雪が豊かに残り、11月はそろそろ雪が舞うころだったからです。
なぜか雪がすきなのです。

八ヶ岳のお気に入りのルートに白樺尾根というのがありました。
文字通り、白樺並木の中を尾根がゆるゆると勾配を上げています。
秋には落ち葉の絨毯が敷き詰められ、こんな気持ちのいい登山道があるのかと感動しつつ登ったものです。
あるとき鉄網のフェンスが右手にあるのに気がつき、何事かと思ったらスキー場ができていました。
こんな山奥まで切り開かなくとも、周辺にいくらでもスキー場なんかあるのにと思いました。

それから、もうひとつお気に入りの山は剣岳です。
立山連峰を縦走し、槍ヶ岳を右手に見て、さらに進むと畏怖堂々たる山容が目に入ってきます。
厳しいルートですが、最初から最後まで何かわくわくする感じをしながら登れるルートでした。
立山と槍ヶ岳をつなぐ鞍部で、テントで宿営したことがあります。
その時の夜空のすごさはちょっと表現できません。
プラレタリウム的夜空というよりも、銀河がきらめく宇宙空間が手の届くところに迫っているといった感じでした。
このあたりではカモシカの姿や、雷鳥の姿もちょくちょく見ることができました。

山に登る時は、大抵は新宿発の夜行列車を利用していたように思います。
電車の床に新聞紙を敷いて、リックを枕に寝たものです。
信州に入ると空気の匂いが一変します。
森と水の匂いがします。
信州そばも大好きになりましたし、雪をいただいた北アルプスを背後にした松本城や、長野の善光寺あたりも好きでした。
小諸に行くことがあれば、島崎藤村を真似て、必ず濁り酒を飲みました。
電車を降りてから、どの山に登るにしても、山裾の集落までバスを利用することになります。
地元の幼稚園児やら老人たちに混じってキャベツ畑の横だの、渓流沿いだのを走るのは楽しい思い出です。

九州に来てからは山に登りたいという気が全くしなくなりました。
一度、正月に由布岳に登ってやろうと、由布院の知人の別荘に泊りがけで行ったのですが、
正月の3日間、どうもその気になれず、酒を飲み続けていただけで終わりました。
九重の山も登ったらいいのかもしれませんが、まだその機会を見ずにいます。
本州の山に比べて、迫力に欠けるのは否めません。
分け入ればいるほどその景色を変えていくというような深度も足りないです。
まぁ、足腰も昔ほど強くはないので、そのうち九州の山こそ最高だと言うかもしれませんが。
ただ、どこもかしこも麓の山の手入れのされていない杉林で覆われているのは感興を削ぎます。

「自然がすき」とか「環境保護」とかいった手垢がついた言葉は使いたくありません。
自然丸ごとは好き嫌いの対象であるとか、保護すべき対象であることから超越しています。

深く湿った樹林帯を抜け、雪混じりの風が吹き付け、やっと今日目指すべき山頂がそのむき出しの姿を見せます。
枯れた木がぎしぎし風にあおられ、雲が恐ろしい速度で山頂をかすめ流れていきます。
地に伏すように葉を這わせるダケカンバの間を縫うようにして、山頂を目指します。
ダケカンバも途切れ、うっすらと雪が積もり始めた瓦礫の中をさらによじ登ります。
山頂に辿り着くと、横殴りの風が吹き付け、足元がぐらつきます。
眼下に雲が大河の流れのように波打ちながら押し寄せ、尾根を越え、瀑布のように流れ落ちています。
その流れに一瞬の雲の切れ間から陽射しが当たり、金色の大瀑布となります。
そんな一瞬を見るために、山に登るのでした。