鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

今年の冬は赤い小鳥が熱い!?

2013-12-10 22:05:34 | 鳥・冬
Photo
All Photos by Chishima,J.
イスカ 2013年10月 北海道中川郡池田町)

NPO法人日本野鳥の会十勝支部報「十勝野鳥だより182号」(2013年11月発行)より加筆修正・写真追加して転載)


 夏が終わり、山野の草木から急速に緑が褪せて来ると、今年の冬鳥はどうだろうかとそわそわし始める。日本に飛来する冬鳥の故郷であるロシア極東北部等の寒帯・亜寒帯は年による環境変動が大きく、夏の天候や種子の出来具合等も年により大きく異なるらしい。おそらく、それらの影響で日本への冬鳥の渡来数や分布もシーズンごとに大きく変わる。極端な例がベニヒワやレンジャク類で、これらは「当たり年」にはあちこちで、それこそ市街地の街路樹でさえも群れで見られるが、少ない年にはシーズンを通して数度かそれ以下しか出会えない。これほどまででなくともアトリの多い冬やツグミの少ない冬等、年によって傾向が異なるので、その冬のトレンドが気になって仕方ないわけだ。

キレンジャク
2006年2月 北海道帯広市
2


 この5年ほど、秋はT展望台をメインに猛禽や小鳥の渡りを観察して来たが、最近ではすっかり観光地化して人が多いためか以前ほど鳥が近くを飛んでくれないこと、ガソリン価格の高騰で近場とはいえ繰り返すと家計を圧迫することを受け、ハチクマの渡りが終息する9月下旬以降は自宅から車で5分程度のM展望台に観察の中心を移した。小鳥は当初ビンズイ、メジロ、アオジ等夏鳥が中心であったが、10月3日に旅鳥のエゾビタキが1羽観察された。本種を北海道では夏鳥とする文献があり、十勝でも1960~70年代に山地を中心に夏期の記録があるが、それらはサメビタキの、胸が縦斑状に濃色な個体の誤認ではないかと思う。「蝦夷」の名に反して北海道、特に道東では少なく、秋の南西諸島では至って普通なので、主要な渡りルートは大陸側にあるのだろう。10月10日はアトリとカシラダカが群れで観察され、同14日はアトリやマヒワ、ツグミ、カシラダカ等がそれぞれ30~100羽以上通過した。この時点で、アトリとマヒワは例年より良さそうな印象を持った。


エゾビタキ
2013年10月 北海道中川郡池田町
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カシラダカ(上)とマヒワ
2013年10月 北海道中川郡池田町
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 10月18日、根室で高田勝さんのお別れ会に参加した翌日、久しぶりに秋の根室半島へ繰り出した。半島先端部の温根元は快晴ベタ凪で、青空を映した海では秋サケ定置網漁船が仕事に勤しんでいた。空き家や番屋に住み込ませてもらいながら、アザラシ類の標本収集を行なった20歳前後のことを懐かしく思い出す。海無し県出身の自分は、ここでサケやカレイの捌き方、イクラの漬け込み方等を漁師に一から教えてもらった。タヒバリやカワラヒワが次々飛び出す番屋付近の未舗装道路にゆっくり車を走らせていると、趣の異なる小鳥が1羽、水溜りの周囲を闊歩している。双眼鏡を当てるとベニヒワだった。1996年や2007年といった当たり年には、10月末近くから小群を見ることはあったものの、それと比べても随分早い。冬枯れの雪原で見慣れたこの鳥を、夏の艶は失せたとはいえまだ青々とした草を背に観察するのは、何とも妙な心持ちであった。


ベニヒワ
2013年10月 北海道根室市
5


 道東での用事を済ませて数日後にMでの観察を再開すると、相変わらず多く通過してゆくアトリやマヒワ、カワラヒワに加えてベニヒワの姿が目立ち始めた。数~数十羽の群れが幾つも、小さいのと飛翔高度が高いのとで十分見えない場合もあったが、「ジュジュジュ…」と聞き慣れればすぐにそれとわかる地鳴きと共に渡って行き、一朝で100羽を超える日もあった。時をほぼ同じくして、群馬のTさんから栃木県奥日光で早くもベニヒワが観察されたとの情報を頂いた。この頃から頻繁に通過するようになったもう一種がイスカ。10~数十羽が「キョッ、キョッ」と少しばかりアトリに似た声で鳴きながら現れる。高めを飛ぶベニヒワとは対照的に、稜線からあまり高度を上げずに飛び、時には山側に引き返して来るものだから何度か撮影の機会もあった。もっとも、Iさんと一緒に観察していた時は、近くから群れの声が聞こえて来たので色めき立って待っていたら、本当に樹冠すれすれを飛んだので近過ぎて写真が撮れず、「あああぁぁ…」という嬉しさと悔しさの籠った叫びで群れを見送った。撮影に成功した画像を見ると、偶然なのかもしれないが、群れの中でも雌雄のペアが近接して写っているものが多く、不思議であった。ちなみに、ベニヒワでもそうだったが小鳥の渡り観察では「地鳴き力」が要求される。イカルやヒガラのように囀りながら渡る種もいるが、大部分は地鳴きと共に高空を飛んで行くためだ。目視できる距離を飛んだ時は、写真撮影も有効だ。ただし、シャッタースピードは相当速く設定しておく必要がある。この方法でギンザンマシコのメスを記録できたことがある。デジタルの時代ならではの方法といえよう。
 10月末よりバードフェスティバルや全国総会のため半月近く本州に行かねばならず、今シーズンの観察はほぼ終了となったが、帰宅した翌日の11月13日、短時間だけ展望台へ顔を出すと、すっかり静寂に包まれた枯木色の中、まだベニヒワの小群がうろうろしていた。全国総会でお会いしたオホーツクのKさんと話をすると、稚内や道東でベニヒワは日に数千から万を超えるような渡りを観察しており、イスカやギンザンマシコもぱらぱら出ていて、稀に見るアトリ科の大当たり年になるのではないかとのことであった。本州滞在中は、ベニヒワやイスカが今期は早い時期から離島以外の本土でも確認されているという話を何度も聞いた。関係は不明だが、10月下旬には台湾から初となるオオマシコが記録されている。
 これらを総合すると、今年はシーズンの早い時期から相当数のベニヒワやイスカをはじめとするアトリ科の冬鳥が南下していると考えて良さそうだ。心配なのは渡りの観察なので、これらがそのまま南下してしまうことだ。一昨年、Mで一朝に2000羽を超えるアトリの通過を観察したものだから、今期はアトリ祭に違いないと期待したが、いつまで待っても他の場所に現れず、西日本で大群が出たらしいと後に聞いた、どうやら北日本をまっすぐ通過して行ったようだ。それでも、ベニヒワやイスカの通常越冬域はアトリよりずっと北だから、このまま冬に突入しても北海道周辺に多数が残って我々鳥見人を楽しませてくれるのではないかと期待している。この冬は森や原野や海岸に、冬枯れや白銀の世界に紅という彩りを添えるアトリ科の小鳥を追い求めてはいかがだろうか?家の庭や街路樹等、身近な場所にも現れるかもしれない。ただし、予想に反して全く観察できなくても当方では一切責任を負えないので、よろしく願いたい。運良く素敵な出会いが待っていた時は野鳥情報としてお寄せいただけると、貴重な渡来情報となることだけは保証して筆を置く。


アトリ
2011年10月 北海道中川郡池田町
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展望台より望む雲海の十勝平野
2013年9月 北海道中川郡池田町
7


(2013年11月15日   千嶋 淳)

2013年12月10日の追記:先週は十勝平野の河川を調査で走り回ったが、ベニヒワは各地で数~10数羽の群れを見ることができた。ただ、カラマツやハンノキ類の樹冠部でそれらの実を食べているか、移動飛翔のため近くでじっくりとは見られていない。今後、これらの食物を食べ尽くし、また積雪で活動場所が限定されて来れば海岸近くの原野等で数百羽かそれ以上の大群と地表近くでの出会いを期待できるのではないだろうか。


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