とある林道を歩いていた時のこと。緩やかなカーブを曲がると1羽のエゾライチョウが目に入った。喉の黒色と目の上の赤い肉冠を欠く雌だ。突然の闖入者を若干気にしながらも、道端で採餌に勤しんでいる。距離は20m程だろうか。カメラを取り出すと撮影を始めたが、曇天の早朝ゆえシャッタースピードが遅い。
林道を歩くエゾライチョウのメス
Photo by Chishima,J.
Photo by Chishima,J.
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手持ちで何カットか撮ると手ぶれ防止の為カメラを三脚に装着したが、その間にエゾライチョウは林道脇のブッシュに歩いて入ってしまった。少し待ってみたが出てくる気配はなさそうだ。まだ近くにいるかもしれないとの淡い期待を胸に、エゾライチョウが入った辺りまで行ってみた。やはりもういないか…。その時、エゾライチョウが先ほど藪に入った付近から、勢いよく林道に飛び出してきた。距離は10m未満、何やら片翼が下がっているように見える。と林道を小走りで横断し、向きを変えると再度これを繰り返した。突然の出来事に一瞬呆気にとられたが、すぐにこの行動の意味を理解し、数枚の写真を撮らせてもらうと急いでその場を後にした。初めて見るエゾライチョウの擬傷であった。
翼を落として林道を走り回る
Photo by Chishima,J.
Photo by Chishima,J.
擬傷とは主に地上営巣性鳥類の親が、雛や抱卵中の巣の近くに捕食者などが接近した時に、雛や巣から注意を逸らすために自らが恰も怪我をして飛べないかのように振舞う行動で、コチドリやシロチドリなどで有名である。エゾライチョウからも知られており、たとえば藤巻(1997)などには記述がある。これらのほかに、私はイソシギやオオジシギなどが擬傷するのを観察したことがあり、タンチョウが擬傷するのを観察したという人もいる。
コチドリ
Photo by Chishima,J.
初めて擬傷を観察した鳥類はカルガモだった。麗らかな春の日だったように記憶しているが、河川敷で鳥を見ていた私の眼前に1羽のカルガモが翼をばたつかせながら飛び出してきた。純真な小学生だった私はてっきり怪我をして苦しんでいるものと思い込み、助けてあげようと近付いて行ったが、手が届きそうな距離になると巧みに身をかわされてしまう。繰り返すこと数回、私には本当に目の前しか見えていなかったのだろう。川べりに到達したカルガモは力強く大空へ羽ばたいて行った。残された私はといえば、川への転落はかろうじて免れたものの、よろめいた反動でウエストポーチに入っていた図鑑や野帳が一斉に川へなだれ込み、泣いて帰る羽目になった。擬傷なる行動の存在を知ったのは、それから暫く経ってのことだった。
カルガモ
Photo by Chishima,J.
<引用文献>
藤巻裕蔵.1997.エゾライチョウ.樋口広芳・森岡弘之・山岸哲[編].日本動物大百科 4 鳥類Ⅱ.pp.11-12.平凡社,東京.
(2005年6月29日 千嶋 淳)
林道を歩くエゾライチョウのメス
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手持ちで何カットか撮ると手ぶれ防止の為カメラを三脚に装着したが、その間にエゾライチョウは林道脇のブッシュに歩いて入ってしまった。少し待ってみたが出てくる気配はなさそうだ。まだ近くにいるかもしれないとの淡い期待を胸に、エゾライチョウが入った辺りまで行ってみた。やはりもういないか…。その時、エゾライチョウが先ほど藪に入った付近から、勢いよく林道に飛び出してきた。距離は10m未満、何やら片翼が下がっているように見える。と林道を小走りで横断し、向きを変えると再度これを繰り返した。突然の出来事に一瞬呆気にとられたが、すぐにこの行動の意味を理解し、数枚の写真を撮らせてもらうと急いでその場を後にした。初めて見るエゾライチョウの擬傷であった。
翼を落として林道を走り回る
Photo by Chishima,J.
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擬傷とは主に地上営巣性鳥類の親が、雛や抱卵中の巣の近くに捕食者などが接近した時に、雛や巣から注意を逸らすために自らが恰も怪我をして飛べないかのように振舞う行動で、コチドリやシロチドリなどで有名である。エゾライチョウからも知られており、たとえば藤巻(1997)などには記述がある。これらのほかに、私はイソシギやオオジシギなどが擬傷するのを観察したことがあり、タンチョウが擬傷するのを観察したという人もいる。
コチドリ
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初めて擬傷を観察した鳥類はカルガモだった。麗らかな春の日だったように記憶しているが、河川敷で鳥を見ていた私の眼前に1羽のカルガモが翼をばたつかせながら飛び出してきた。純真な小学生だった私はてっきり怪我をして苦しんでいるものと思い込み、助けてあげようと近付いて行ったが、手が届きそうな距離になると巧みに身をかわされてしまう。繰り返すこと数回、私には本当に目の前しか見えていなかったのだろう。川べりに到達したカルガモは力強く大空へ羽ばたいて行った。残された私はといえば、川への転落はかろうじて免れたものの、よろめいた反動でウエストポーチに入っていた図鑑や野帳が一斉に川へなだれ込み、泣いて帰る羽目になった。擬傷なる行動の存在を知ったのは、それから暫く経ってのことだった。
カルガモ
Photo by Chishima,J.
<引用文献>
藤巻裕蔵.1997.エゾライチョウ.樋口広芳・森岡弘之・山岸哲[編].日本動物大百科 4 鳥類Ⅱ.pp.11-12.平凡社,東京.
(2005年6月29日 千嶋 淳)
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